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砂原 紗藍
#再会
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単純で一番復讐になるのはこれしかなかった。
全ての理不尽から自分を守る方法はこれしかない。
「それで、一年経っても貴方に触れたくなかったら、離婚してほしい。でも、祖父の方の代金は請求しないでほしい。どうですか」
嫌われてしまえばいい。嫌ってくれて構わない。
自分勝手で我儘で、嫌な女を演じてやろうと思った。
「構わないよ。俺は努力する」
「努力しても無駄です。私は強制されて貴方と結婚するので」
触れないで。
嫌って。
お金はもらう。
全てが嫌い。
単純明快で、馬鹿みたいな原動力。
「華怜さん」
少しだけ彼の声が柔らかく、優しい口調になった。
「一年で、君が俺を好きになれなかったら俺は……」
何か言いかけたけど、少しだけ躊躇した後、タイミングよく珈琲が彼のテーブルに届けられた。
「続きは?」
「いや、すまない。言わない約束だった」
ブツブツと独り言を言ったあと、彼は言う。
「一つだけ。どうか君の母親を嫌わないでほしい。俺が脅したんだ。君の母親は悪くない」
そんな嘘で固めた言葉は、絶対に信じられない。
もう誰も信じられないと思った。
「それは私が決めることです。話はそれだけですか?」
「俺は君には絶対に嘘をつかない。だから言う。君の母親は、尊敬できる人だよ」
「そうですか」
何を言っても、怒りや絶望で冷静ではない私には響かない。
代わりに母親が置いていった本に挟まっていた婚姻届けを彼に渡した。
「私の名前は書きました」
「そう」
「次は何をするのか、命令してください」
彼は「俺は今、印鑑ないしなあ」とゴソゴソとジャケットを漁ったあと髪を掻く。
「これの届けは、君から俺に触れたときにしよう」
「どうぞ」
「……こんな形で許してくれなくてもいいけど、俺は君を諦めないから」
安い言葉で乾いた心に亀裂が入る。憎くなかったし、昔のことはもう何も思っていなかった。街中ですれ違っても、きっと私は気づかなかった。
でも今は違う。この人が憎い。嫌い。大嫌い。
「今更だけど、俺、華怜さんが当時、好きだったんだ。だから、再会してその気持ちが燃えたってわけじゃない。今もまた君に惹かれていると思ってほしい」
「そうですか」
昔の贖罪じゃないと言いたいのだろうが、私にはどうしても彼の気持ちを知りたいと思えない。
当時、きっと私も貴方が好きでした。
そんな言葉言えない。私たちは過去系両想い、現在進行形ですれ違っている。
ただそれだけ。