テラーノベル
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アリアたちは、とある街に滞在していた。
聖女であるフィオナは大聖堂に向かい、その結果、今は5人で行動をしている。
パーティの中心である、最強無敵のアリア。
雑用や戦闘を器用にこなす、情報屋のザイン。
理想と現実の間に揺れる、元神職者のメルヴィナ。
聖女の守護を長く担った、戦士のガルド。
類まれなる直感力を持った、魔法使いのレイラ。
彼らはアリアの希望で、しばしの休息を取っていたのだ。
ただ、その中で……アリアだけが、どこか忙しそうにしていた。
「――アリアさんは?」
ザインとふたりになったタイミングで、ガルドは静かに聞いた。
アリアといえばザイン……そんな構図が、今はもう自然に思えている。
「今日は珍しく、外に出て行ったぞ?
昨日の夜も、遅くまで何かやってたみたいだし……」
ザインとしても、最近のアリアはどこかおかしく感じていた。
今までのように、気ままに外をふらつくわけでもなく……自室でずっと、何かをしている。
「……ふむ。少し、調べてみるか」
「見つかったら怒られないか? ……でも、旦那がそうするなら、俺も手伝おうかな」
「いや、まずはオレだけで動こう。
ザインは、アリアさんがよく休めるように気を遣ってくれ」
「あん? 外を尾けるなら、俺の方が適任だと思うが」
「ははは。アリアさんを休ませるのも、お前の方が適任だろう?」
「俺のこと、子守りだって言いたいわけ?」
「……そう思うなら、それでも良いがな。それじゃ、行ってくる」
ザインは何か言いたげだったが、ガルドは気にせず宿屋の外に出た。
……天気は生憎の曇りだ。
雨の気配は無いものの、こういう日は……部屋に閉じこもっていたくなる。
「――はぁ。
ザインは少し、アリアさんのことを買い被りすぎている……」
ガルドは軽く頭を掻いてから、アリアが行きそうな場所をまわってみることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――しかし、アリアの足取りはそう簡単には掴めなかった。
その日の後も、毎日毎日……アリアが宿屋から出て行く度に、偶然を装いながら――
方向を絞りつつ、経路を予想しつつ、何とか場所を絞り込んでいく。
そして1週間後。
雲ひとつない空の下で、ガルドはついにアリアを見つけた。
街から離れた場所。誰もいない、無数の巨大な岩が、無造作に散らばっている……そんな荒地だった。
「……あんなところで、何をしている?」
ガルドは岩陰に隠れて、巨大な岩の上に立つアリアを見守った。
アリアは手元のノートをぱらぱらとめくり、何かを何度も口ずさんでいる。
……まるで、何かの練習をしているようだ。
そんな中、アリアはノートを置いて、ひと呼吸ついてから……両手を掲げて、詠唱を始めた。
ガルドとの間にはかなりの距離があるため、唱えている内容までは分からない。
そもそも、一般的な魔法なら詠唱は不要のはずだが――
アリアの詠唱は長かったが……突き出した右腕に、黒い靄のようなものが集まってくる。
しかし次の瞬間……アリアの右腕から、血飛沫が走った。
勢いよく裂けた、白いローブの右袖。そして青い空には、目が痛くなるほどに映える――赤い鮮血。
「アリアさん!?」
ガルドは思わずアリアの名前を叫び、急いで岩の上に向かった。
身体の大きなガルドには大変な移動だったが、それでも何とか、アリアの元に辿り着く。
「あ――……ガルドさん?」
大きな岩の上に横たわり、天を仰いで転がるアリア。
右腕の付け根の方を押さえており、簡易的な止血を行っているようだ。
ただ、よくよく見てみると……彼女の傍らには、治癒薬が準備されている。
「これを使うぞ!? 我慢しろよ!?」
「ええぇー……。いやぁ、あたしのタイミングで――
……んぎいいぃっ!!!?」
怪我は治り、血も止まっていく――しかし、アリアは悶絶した。
目は大きく見開き、口を閉じて、冷や汗を流しながら、何とか耐えようと笑顔を浮かべている。
……浮かべている、というより、浮かべさせられている……という方が正しいのかもしれない。
傷が癒えて、アリアが呼吸を整えていると……涼しい風が吹いてきた。
岩の上に置かれたノートも自然とめくられ、ガルドの視線はその中身に向かってしまう。
――細かい字。精密な図形。
上から下へ……一本調子ではなく、情報が縦横無尽に走っている。
「これは……魔法の研究か?」
「あぁーん。乙女の秘密ぅ」
「あ……すまない」
アリアの言葉に、ガルドはそんな返事をしてしまった。
この辺り、やはりザインの方が上手くあしらうことができる……ガルドはそう思った。
アリアはどうにか呼吸が落ち着くと、そのノートを拾い上げて、岩の端に座った。
ガルドは……そこに腰を下ろすのは少し怖かったが、アリアの隣によいしょと座る。
「……すいません、ご心配をお掛けしましたね」
「オレが勝手に来て、勝手に心配しただけだ。こちらこそ、気を遣わせて悪かったな」
「ふーむ……。ガルドさんは、そう捌く感じなんですねぇ……」
アリアはノートを広げて、何かをペンで書き足していく。
大量の情報の上に、さらに情報が追加され――
「……良い機会かもしれませんね。ガルドさんに、お願いしたいことがあるんですよ」
「うん? オレでいいのか?」
「ガルドさんじゃなきゃダメなんです。そのために、一緒に来てもらったんですから」
軽い頼み事かと思いきや――アリアの顔は、その考えを否定した。
「……フィオナ様は、それをご存じなのか?」
「はい。
ただ、フィオナさんからそれを聞くことはできません。あたしと誓約を結んでいますから」
「それならオレは、アリアさんに従おう。何をすれば良いんだ?」
「ふふふ。ガルドさんって……フィオナさんのことが、本当に大好きなんですねぇ♪」
「いや、そういうのではなくて――」
「……さて、そろそろ街に戻りましょうか。
このローブ、修繕とクリーニングに出さないといけませんので♪」
アリアはそう言うと、右腕の……裂けて赤色になった部分を、ひょいっと上げて見せた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
街のクリーニング屋で、アリアは今日汚したローブを預けると、先日汚したローブを受け取った。
「お客さん……、またこんなに血で汚して……。
それに、こんなにボロボロになって……。本当に大丈夫ですか?」
「すいません、ご心配をお掛けして。現場がなかなか大変なもので……!」
「お勤め、本当にご苦労様です……」
アリアはクリーニング屋を出ると、受け取ったローブを帽子の中にしまい込んだ。
「やはり収納の魔導具は便利だな……。ちなみに、ローブは何着も持っているのか?」
「はい、10着ほど♪ 外回りの嗜みですよぉ」
「まぁ、それだけあれば安心だが……」
ガルドの心配を余所に、アリアは道の彼方を指で差す。
「次は、あそこに寄りましょうか」
「え……? もしかして……?」
「はい、教会です♪」
アリアは早歩きで先を進んだ。
ガルドは少し遅れる形で、彼女に付いていく。
――教会の礼拝堂では、多くの信徒が祈りを捧げていた。
ただ、ガルドは……メルヴィナから、アリアが礼拝をしないことは聞いていた。
だからこそ、アリアが礼拝堂を訪れるなど……イメージが湧かなかった。
「ガルドさんも、教会は久し振りでしょう?」
「ああ。教団を辞めてからは、さっぱりだな」
「礼拝も?」
「そうだな。昔は毎日、祈りを捧げていたものだが――」
「何か、変わりました?」
アリアは、ガルドの顔を覗き込みながら聞いてきた。
嫌な感じはなく、純粋に好奇心から……といった顔に見える。
「……特には」
「ふふふ。そっかぁ、そうですよねぇ」
そう言うと、アリアは……礼拝を終えて帰ろうとする信徒に声を掛けた。
少しだけ話をして、そしてガルドの元へふたりでやって来る。
「こちら、ルーカスさん。ふふふ、少しお話ししましょ♪」
「え……?」
「ルーカスさん。今日は教会に、どんなご用で?」
「ええ。ちょっとした悩みごとがありましてね。
それで、オルビス様に相談しに来たんですよ」
「神の声は聞こえましたか?」
「あはは、無理を言わんでください。
そんなの、高位の神職者でもなければ無理でしょう?」
アリアとルーカスは、冗談のように笑い合った。
「……ただ、いつも通り考えはまとまった気がします。
だからやっぱり、困ったときは教会……ですね!」
「それは何よりです。困ったことがありましたら、いつでも来てくださいね」
「はい、ありがとうございます。それでは」
アリアとガルドは、ルーカスの後ろ姿を見送った。
……残されたふたり、先に口を開いたのはガルドだった。
「……礼拝の素晴らしさを説きたいのか? アリアさんが?」
「そんなわけがないじゃないですか~♪」
アリアは悪戯な顔で微笑んだ。そして言葉を続ける。
「ガルドさんも、昔はあんな感じじゃありませんでした?」
「ああ。困ったときは、まずは神に祈るものだろう?
結局は自分が答えを出さなければいけないが――心の拠り所があるのは、素晴らしいことだと思うぞ?」
「でも、ガルドさんは……祈らなくなっても、ちゃんと生きているでしょう?」
「苦労することは多かったがな」
ガルドはアリアに言い切った。
しかし、ガルドにはアリアの言いたいことが分からない……。
……ふたりは教会を出て、宿屋への道を歩き始めた。
空では陽が落ちていき、橙色が並木道を照らしていた。
「――……もしかして、何か問題があるのか?」
「ふふっ♪ そこまで辿り着いて頂けるのは、本当に助かりますねぇ」
長い時間を掛けて振り絞ったガルドの言葉は、アリアには好意的に受け止められた。
「……人間が神を名乗るのは傲慢。
でも、神が神を名乗るのは――当然、ですか?」
「うん? まぁ、そうだな……?」
「その神が、もし原初の存在でなければ――
その神は、傲慢だった時代がある……ということですよね?」
「……神が途中で替わった、ということか?
そんなことがあれば……確かに、傲慢なのかもしれないが……」
「――あたしは、オルビスを殺します。その戦いに、手を貸してください」
夕陽が逆光になり、ガルドからはアリアの表情が読めなかった。
ただ、恐らくは……ガルドの想像するような顔であるはずだ。
「……フィオナ様は、全てをご存じなのか?
それでなお、オレをアリアさんと行かせたのか?」
「はい、その通りです」
その言葉を聞いて、一瞬だけ間を置いて……ガルドは微笑んだ。
そして自分に向けられるアリアの手を、しっかりと握りしめた。
「ならば問題は無い。オレはもう、神とやらは信じていないからな」
……夕暮れの並木道。
少ない人通りの中で、ふたりの影は長く長く、伸びていた。
コメント
1件
うわ……今回もすごく重くて、胸が締め付けられるような話だった……。アリアが隠れて魔法の練習をしてるシーン、右腕から血が飛ぶところ、ガルドが偶然見つけちゃうところ——もう息するの忘れてたよ。でもあの「オルビスを♡♡♡ます」って告白、夕陽の逆光で表情が見えない演出がほんとズルい……。で、ガルドが「なら問題は無い」って笑って手を握り返すの、最高すぎる。やっぱり成瀬さんの描く「重さの中で光る決意」がたまらん。次が待ち遠しい……!🥀
#ゲーム
#風見裕也
緑茶は飲めないが紅茶は飲める