テラーノベル
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#ゲーム
#風見裕也
緑茶は飲めないが紅茶は飲める
「――ザインさん。……将棋、って知ってます?」
「うん? 急にどうしたの?」
宿屋の部屋でザインが寛いていると、メルヴィナがそんな質問をしてきた。
「アリアさんに、気分転換でもしないかと声を掛けたんですけど……。
そうしたら、将棋ならやっていい、って言われたので」
「はぁ……。渋い選択だなぁ……」
ザインは様々な遊びやゲームに精通していた。
しかし、将棋……というものはそこまでやり込んではいなかった。
メルヴィナはそもそもどういうものかを知らないので、ザインの言葉を静かに待っている。
「えぇっと……将棋っていうのは、ボードゲームの一種だな。
81マスのボードの上に、それぞれ20個ずつの駒を置いて……相手の王様を倒す、みたいな感じのやつ」
「へぇ……。有名なんですか?」
「いいや、まったく? かなり昔からあるそうだが、遊んでいるのはマニアくらいだぞ?」
「なるほど……。
それならザインさん、アリアさんの気分転換に付き合ってください!」
「……俺が? メルヴィナが誘ったんだから、メルヴィナの方が良くない?」
「私は将棋なんて知りませんし、覚えたところで……アリアさんには負ける自信しかありませんよ」
「でもあいつのことだから、手加減くらいはしてくれるだろ」
「それだと、気分転換にならないじゃないですか……!」
そんな話をしているところで、ガルドが混ざってきた。
「そうだぞ。ザインが相手なら、遠慮なく勝てて気分転換になるだろう」
「旦那まで、何を言ってくれるのやら……。そういう旦那こそ――」
「よし、それならオレがボードと駒を作ってやろう。
森で長く暮らしていたからな、木工は得意なんだ」
「私も手伝いたいけど、できることはある?」
「そうですね……。軽くで良いので、ヤスリがけをお願いできますか?」
「それくらいなら出来そう! 仕上げは任せて!」
「……あれ? 話がどんどん進んで行く……?」
正直、ザインはルールこそ覚えていたが……最後に遊んでから、かなりの時間が過ぎていた。
このままでは、アリアに速攻でボコボコにされてしまう――
それを恐れたザインは、将棋の知識を……記憶の底から、絞り出し始めることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日の夜、食事が終わったタイミングでメルヴィナが話を切り出した。
ガルドが作ったボードと駒をテーブルに置くと、アリアが驚いた顔を見せる。
「はぁ~……。これ、わざわざ作ったの? すごいねぇ」
「オレが木を削って、お嬢さんが仕上げをしたんだ」
「字には自信が無かったので、ガルドに書いてもらったんですけどね」
アリアは適当に、駒を1つ持ち上げた。
触り心地を確かめるように、その厚さを確かめるように、ゆっくりと手のひらで弄ぶ。
「割と気軽に言ったのに、ここまでしてくれてありがとね。
……あたしは結構強いけど、誰か相手する?」
「オレとお嬢さんは、実際に遊んだ経験が無いからな。ザイン、お前が相手をしてやれ」
「おう。このときのために、戦術を組んできたぜ!」
「へぇ? それじゃ、罰ゲームでも懸けて勝負しようか?」
「あ、それは結構です」
アリアの提案に、ザインは即答した。
「……ザインさん、カッコ悪い……」
「それでも男か?」
「お前ら、他人事だと思いやがって……。まぁいい、それなら罰ゲームを懸けてやらぁ!!」
「ふふっ、それでこそだよ。それじゃ早速、駒を並べて……っと」
「……俺は駒の並びすら、うろ覚えなんだが……。アリアは速いな……」
自分の駒を並べ終えたアリアは、全員分の飲み物を注文した。
ザインの駒を並べるのは手伝わず、静かに笑いながら、その様子を眺めている。
……飲み物が運ばれてきたところで、ようやくゲームが開始となった。
「――ふむ。情報屋はイケイケだねぇ」
「攻撃は最大の防御なり!! おらぁ、ガンガン行くぜ!!
――王手ッ!!」
「逃げぇ」
「隙ありッ!! 王手飛車取りッ!!」
「あぁー……。さよなら、あたしの飛車……」
「まだまだ行くぜ! その飛車を使って……さらに王手ッ!!」
「香車をパチリ」
「ふっ、ならばその隙に……お前の金将は頂いた!!」
「歩をパチリ。はい、必至です」
「……え゛?」
……必至とは、負けの一歩手前の状態である。
適切な攻撃か防御を行わなければ、そのまま必ず、負けになる局面――
「……負けたァ!!」
「ザインさんの方が、動きは派手でしたけど……」
「アリアさんは弱い駒を上手く活用して……流石と言うべきですね」
項垂れるザインに、その横で感想を言い合うメルヴィナとガルド。
そんな彼らを見て、アリアは満足そうだった。
「ふふふ、久し振りに楽しめたよ。みんな、ありがとね♪」
そう言うと、アリアはザインの肩をポンポンと叩いてから、宿屋の自室に戻っていった。
「――少しでも、気分転換になったかな」
「はい、楽しそうに見えましたよ。
……さて、ここまで折角作ったんです。オレたちも遊んでみますか」
「え? 私、ルールが分からないよ?」
「ははは。そんなものは、ザインを締め上げて教えさせれば良いでしょう」
「……旦那ァ。締め上げる必要は……あるのかなぁ?」
その後、3人は入れ替わり立ち替わりで、遅くまで遊んでいた。
ちなみに、レイラはしばらくしてから合流したが――
途中参加ではテンションが上がらず、そのまま横でうたた寝をしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――数日後の夜、メルヴィナはアリアの部屋に呼ばれた。
何の用事かは思い当たらなかったが、こうして呼ばれるからには……きっと何かがあるのだろう。
良い想像もあるが、やはり悪い想像の方が膨らんでしまう――
「メルちゃん、いらっしゃい!」
「はい、お邪魔します。……何ですか、この大量のお菓子は……」
「精一杯、おもてなしをしようと思ってねぇ」
アリアはそう言うと、メルヴィナを椅子に促した。
ふたりで席に着くと、まずは他愛のない話から入っていく。
……ただひたすら、他愛のない話が続いていく。
この心地よい時間がずっと続けば……とも思ったが、メルヴィナは勇気を出して、アリアに質問をした。
「……あの。今日は、ただの雑談ですか?
何か、大切なお話があると思っていたのですが……」
その言葉に、アリアは複雑な顔をした。
少し困ったような、少し悲しそうな、少し満足げなような。
「――うん。こんな風に呼び出されたら、気になっちゃうよね」
「はい……。私、何かやっちゃいましたか?」
「ふふっ、そんなことないよ。
あたしの旅に加わったときは驚いたけど……もう、かけがえのない仲間だって思ってるよ」
……自分を肯定してくれたことに、メルヴィナは安心した。
ただ逆に、ここからどんな話になるのか……やはり、身構えてしまう。
「ありがとうございます。それでは、本題というのは――」
「……メルちゃんに、一生のお願いをしたいんだけど……」
「わかりました」
アリアの言葉に、メルヴィナは即答した。
「まだ、何も言ってないよ!?」
「どうせ、無茶なことを言うんでしょう? 私には想像も付かないことを」
「まぁ、そうなんだけどさぁ……」
アリアは完全に、出鼻を挫かれてしまった。
そこまで信用してくれているのは嬉しいが、しかしこれから頼むことは――
……客観的に見ても、メルヴィナの価値観的に見ても、かなり問題があることなのだ。
「――でも、ありがとね。ただ、本当に……無茶なお願いをするから。
聞いた上で、断ってくれてもいい。あたしを嫌ってくれても構わないから」
薄っすらと笑みを浮かべてはいるが、表情は真面目そのものだ。
空気が緊張しているのが分かる。ただ、メルヴィナはアリアの願いを受け入れたかった。
……ふたりの間には、それだけの縁が結ばれているのだ。
「……何でも仰ってください。私にできることなら……頑張ります」
メルヴィナの言葉を受けて、アリアは覚悟を決めたように、口を開いた。
「あたしの旅の目的は、オルビス教の神、オルビスを殺すこと。
その戦いで、貴女の力を貸して欲しい」
「え……?」
メルヴィナも、聞く覚悟は決めていたものの……しかし、想像すらしていない言葉が聞こえてきた。
アリアは口を閉ざした。まずはメルヴィナの返事を聞きたい、というのが本心だった。
10分ほどの沈黙のあと……メルヴィナがようやく、口を開いた。
「……あの。本気……なんですよね? いえ……それは分かります。
アリアさんは、そういうことを冗談で言う人じゃない……。
でも……どうして? ……いえ、それはいいです……。たぶん、聞いても分からない……」
疑問と混乱。そして、自分には理解できないという前提。
メルヴィナの頭と心は、短時間の間に、様々なもので埋め尽くされていった。
「……私が、その戦いで……。役に立つんですか? 本当に……?」
自問自答の末に、ようやく出た質問。
それは、彼女自身の必要性だった。
「あたしの想定では、必要ではなかった。でも、想定外のことが起きちゃってね」
「アリアさんが……最近悩んでいたのは、それですか……?」
アリアはメルヴィナに向かって、右手を差し出した。
長い旅をしてきたにしては、とても綺麗な指をしている。
「――オルビスを殺す力は、ここに集めた。
でも、それを上手く使うことが出来ないの」
アリアが持つ異能は……『簒奪の五指』だ。
『対象化拒否』はその第一指に宿る力であり、他の4つの指には、他の力が宿っている。
「あたしの魔法……Evol式は、拡張性に弱くてね。
だからそこを、メルちゃんの『光の饗宴』で補って欲しいの」
「……一体、どうやって?」
「あたし、宙に魔法陣を描けないんだよ。だから代わりに、それを描いて欲しい。
メルちゃんのことは、ガルドさんに守ってもらうから安心して」
「ガルドも……一緒に行くんですか?」
メルヴィナの言葉に、アリアは静かに頷いた。
「ただ、それでも危険なことには変わりない。それに、メルちゃんは信心深いでしょ?
こんな話を聞いたら、それこそあたしを殺しにきても……仕方の無いことだし」
アリアの言葉から、すっと緊張感が抜けた。
久し振りの素の顔に、メルヴィナは少しだけ安心感を抱いた。
しかし――
「……私には、神殺しを……手伝うことは、できません……」
「そっか。……大丈夫だよ。メルちゃんは、間違ってない」
「それなら――
アリアさんは、間違っているんですか!!?」
メルヴィナの悲痛な叫びが響く。
アリアはそれを痛ましそうに見ながら、静かに断言する。
「あたしには、わからない。そうするのが、あたしは正しいと思う。
でも、もしかしたら間違っているかもしれない。きっと、終わってみないとわからない」
「アリアさんッ!!」
メルヴィナはテーブルを強く叩き、勢いよく立ち上がった。
目からは涙が落ち続け、小さな水たまりを作り出している。
「――……私が、見届けます」
肩を震わせて、やがて小さな声が聞こえた。
「……私は大聖堂を捨てました。でも、オルビス神は……捨てていないんです。
私の大切な信仰を……大切な貴女が壊すと言うなら……、私はっ、私は――」
アリアは立ち上がって、メルヴィナの横に寄り添った。
肩を撫で、さすり、両腕で抱きしめる。
「つらいことをお願いして、ごめんねぇ……」
「……本当に……。勘弁、して……くださいよぉ……」
長い夜はそのまま続き――
……いつの間にか明けた朝。目が覚めたときには、メルヴィナの目はぼろぼろになっていた。
アリアもまた、ひどく疲れた目をしていた。
コメント
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第50話、読ませていただきました。 将棋で盛り上がるみんなの空気感がほっこりしていて、特にザインさんが「負けたァ!!」って叫んでる姿が目に浮かびました(笑) アリアさんの笑顔も久しぶりに見られて嬉しかったです。 ……でもそこからの、メルヴィナへのお願いのシーン。重かったです。神♡♡♡という目的を打ち明けるアリアさんの覚悟と、それを受け止めたメルヴィナの涙がとても胸に刺さりました。「私が見届けます」という言葉が、ただの承諾じゃなくて、彼女自身の信仰と友情の間で揺れた末の決断だと思うと……切ないです。 アリアさんとメルヴィナの関係性がまた一歩深まった、静かで大切な回だったなと思います。続きが気になります……!