トオルはにっこりと笑ってから、ティーカップを持って紅茶を少し飲んだ。
もう飲めるくらいに冷めたのだろうか。
両手でティーカップを持ち、ゆっくりと紅茶を飲んでみる。
あちっ!!
猫舌な私にとってはまだ熱かった。
舌を火傷したことは秘密にしておこう。
「王都から追放されたシエルは、遠く離れた小さな村で暮らしていたんですよ。
その噂を聞いて、ボクが会いに行ったんです。……大切な兄弟ですからね。
村に着いてから知ったんですけど、シエルは仲良しの女友達と馬を育てながら幸せそうに暮らしていたんです」
この前、トオルが描いていた牧場の絵に似ている。
男の人と女の人が馬を見ているところも……――
「だから、かけらさんが見せた牧場の絵に過剰に反応してしまったんでしょう。
……ボクがその思い出を描いてしまったせいです」
「ううん。トオルは悪くない。
私が牧場のことを話したから……」
「かけらさんは自分のことを責め過ぎですよ。
描いたのはボクですから、その責任はボクにあります」
トオルは、テーブルの上に両手を置いて指を絡める。
「小さな村でできたその女友達は、シエルにとって最も大切な存在だったんです。
仕事をする時も、ご飯を食べる時も、寝る時も一緒にいて笑い合っていた。
詳しく教えてもらえませんでしたが、恐らくふたりは恋人同士だったのでしょう」
あのシエルさんに恋人がいたんだ。
相手の女性は、彼の冷たいところに惹かれたんだろうか。
それとも、シエルさんが彼女にはとびきり甘かったりして。……想像できないけど。
「でも……、その女性はもういません」
「えっ……? どうして……」
「戦いに巻き込まれて亡くなってしまったんです」
「そんな……」
シエルさんと初めてであった時、私にダイヤモンドをくれた。
“必要がなくない”からと。
もしかして、シエルさんはその恋人にダイヤモンドを渡したかったんだろうか。
冷たい瞳の中に寂しさを感じるような気がしていたけど、大切な人がいなくなったことによって深く傷ついていたから……。
「愛する人を失った悲しみは、シエル自身が向き合っていく問題ですからね。
だから、かけらさんに謝らなくてもいいって言ったんじゃないかと思います」
「そういう意味だったんだ……」
シエルさんにも優しいところがあるんだ。
今の話を聞いて印象が少し変わった。
でも、私の大切な仲間を危険な目に合わせたりしたことはまだ許せていない。複雑な気分だ。
「シエルのことばかり話してますが、惚れないでくださいよ。
かけらさんはボクを見ていればいいんです」
「好きになったりしないよ。
シエルさんには、愛している人がいるんだから。
もしかして、嫉妬してるの?」
「当たり前です。
ボクよりシエルが先にかけらさんに出会った。
もうその時点から嫉妬してますので」
片方の頬を少し膨らませている顔も可愛い。
美しくて可愛いなんて、トオルはずるいな……。
そうだ。美しいものといえば……――
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