【キャプション】※必ずお読みください※
⌾stxxxさんの桃赤nmmn作品です
⌾cp等に地雷ある場合自衛をお願いします
⌾このお話は みきとPさんの少女レイの曲パロ となります。
自己解釈多々含まれます。また拡大解釈もあるかもしれません🙏
苦手な方は閲覧をご控えください。
これら大丈夫な方のみ先へとお進みください!
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「莉犬、帰ろう」
うん、と笑いかけてくる彼へ眩しい陽光が差す。
蝉の声が響く暑い夏の話だ。
今日も暑いねと笑う君の鞄にぶら下がるキーホルダー。
カップルが付けるようなペアのキーホルダーは、見た目に惹かれて買ってしまったらしい。
「さとちゃん?」
「ん?ごめん、なに?」
「だから、今日お家行ってもいい?って」
太陽光が照り返す頬にタラリと汗が滴る。
ゆるりと輪郭を描いて、顎を伝って、首筋へ。
硝子玉みたいな汗が白い肌に垂れる様をジッと見つめると、吸い込まれるように見入ってしまう。
「もう、またぼーっとしてる」
ピンと糸が張ったみたいに彼の声が耳まで届く。
はっとした頃には彼に首筋の汗を拭われる。
「ね、大丈夫?熱中症?」
「…ごめん、なんでもない。家、来ていいよ」
こちらへ伸びてきた手を握る。
小さな手は簡単に折ってしまいそうだ。
やった、と目を輝かせたと思えばくしゃりと目を細めて彼は笑った。
早く帰ってゲームでもしよう。
そう伝えるともっと笑顔になるから、もっともっとコイツが喜ぶ事を言いたくなる。
それで、もっと近い存在になりたい。
ずーっと俺だけ見て、俺だけと居てほしい、なんて。
犬みたいに誰にでも愛嬌振りまいてくれちゃってさ。
八方美人な彼の手を握る。
暑い体温がジワジワ伝わってきて、このままくっついて離れられなくなっちゃえばいいのに、とか。
「さとちゃん、はやく!」
「はいはい、よそ見すると転ぶぞ」
小さくスキップをする彼の足元のすぐ近く、道から少し外れた段差に空蝉が二つ、綺麗に並べて置いてあった。
きっと近所の子供が遊んで置いたものだろう。
片方の空蝉には小さな花が添えられている。
こんなことをするのはあの子達あたりかな、といつも通学路の途中の公園で遊ぶ子供達を頭に浮かべる。
ぼんやりと考える頭は突然ぐいっと彼に引き寄せられた衝撃と彼の楽しげな笑い声に晴れた。
いつもはうるさい蝉が、今だけはは心地よく聞こえた。
◇
事の発端は、小さい独占欲から。
莉犬の友達へ、彼を無視するように頼み込んだ。
八月の頭ごろの事だ。
莉犬は話し相手がいないから、と俺の元へやって来た。
悲しそうな顔をする彼が俺のところへ来てくれたのが嬉しくて堪らなくて、ずっとこのままにしていたかった。
重苦しいチャイムが低く響く。
段々、だんだんと規模を大きくしていった。
彼のクラスで起きていたイジメの標的を、莉犬へするように仕向けた。
家の庭で摘んだ白い花を花瓶に生けた物を、彼の机へ置いた。
お前がターゲットだと。
それを堺に日に日に莉犬の顔から元気がなくなって、俯くことが多くなっていって。
「…さとちゃん」
「帰ろっか。莉犬」
うん、と弱々しく手を伸ばした彼へ眩しい陽光が差す。
蝉の声が、短い啼音を立てて途切れる。
ジリジリと暑い日差しの中、彼は俺の手を離さない。
揺れるアスファルトを見つめる目は、虚ろだった。
「莉犬、最近クラスどう?」
分かりやすく莉犬の身体が強張った。
握る手のひらの力が強くなって、苦しそうに眉を顰めた。
どうしたの、と言うつもりで立ち止まって柔らかい髪を撫でようとすると、彼の足が先にその場に止まった。
「…なぁに、莉犬」
肩の震えた身体を優しく腕に包んだ。
お互い暑い西陽に汗をかいていて、触れ合った身体が冷たい。
生温い風が足元を駆け抜けて、莉犬が詰まった息を吐く。
「…我慢しないでいいんだよ?」
上がりそうになる口角を必死で抑えた。
弱りきった莉犬が頼ってくれている。莉犬の居場所は俺だけ、俺の居場所だって、莉犬だけ
辛いでしょ、苦しいでしょ?
俺の手を掴めよ、ほら。
ジリジリ、と蝉の声。チリン、と風鈴の音。ズグリ、胸が鳴った。
唾を飲む。
そして最後の合図に、俺は手を伸ばした。
それなのに、莉犬は
「へへっ、」
眉を下げて、くしゃりと笑った。
「学校、楽しいよ?クラスも、なんともない」
静かな莉犬の声に息が詰まった。
なんで、どうして。あんなに酷い仕打ちをされているのに。
どうして笑うんだ。
莉犬の笑った顔が脳裏に焼き付いて離れなくなった。
蝉の声も風鈴の音も莉犬の声も全てがぐちゃぐちゃになって、突然迷路に一人放り投げられたようだった。
「……そっか、よかった」
絞り出した声に自覚はなかった。
追い詰められているはずなのに。
お前の居場所なんか、どこにもないのに。
独りだろ、お前。頼れる人もいないんだろ。
「うん、さとちゃんも、楽しい?」
そうやって、彼は笑った。
俺は心底理解できない莉犬の行動に腹を立てた。
─まだ、足りない。
もっともっと追い詰めて、いずれ。
「…莉犬がいるから楽しいよ」
そう。莉犬だけいれば、
◇
あの日と同じように、彼と一緒に帰っていたときの事。
八月ももう終わりかけ、九月の上旬に差し掛かる頃。
今年は残暑が厳しくて、九月になるというのに気温は夏日のままだった。
昼には蝉が鳴いているし、夜にも夏虫の声が聞こえる。
この暑さが早く終わらないものかとこめかみに溢れた汗を拭ったときだ。
「ねぇ」
小さく発した声は聞きそびれてしまいそうな程だった。
暑い陽射しを浴びているはずなのに彼は随分涼しそうだ。
なぜなのかと思い当たるものは何もない。けれど、この全てに冷めたような目を作ったのは間違いなく
「さとちゃん」
紛れもない、俺だ。
彼の周りを皆遠ざけて、彼を嬲って、紙一重のところまで追い詰めた。
逃げられないように、檻に閉じ込めた。言いようでは監禁みたいなもんだ。
「なに?」
「今日、一緒に帰ってくれてありがとう」
彼は振り返って、壊れ物みたいな笑顔を浮かべる。
「なに、突然」
足元には、あの日見た空蝉があった。
綺麗に二つ並べられていたそれらは、片方が路肩に転がってしまっている。
たった今吹き抜けたのと同じ風の仕業だろうか。
「あのね、また一緒に帰ってくれる?」
チリンと鈴が揺れるように、小さく笑った。
弧を描いた彼の口元に対して、俺は震えていた。
「…もちろん」
こみ上げてくるものを飲み込んで返事をすると、冷めた瞳がこちらを捉えるのをやめた。
そのままいつもの分かれ道に到着して、彼は口角を上げる。
本人は笑顔のつもりだろうか。
眩しいものを見たように、少し細めた目は明らかに笑っていない。
「またね、さとみくん」
冷たい声だった。
暑い日差しが全て遮断されたみたいに、体の周りがヒヤリとした。
急に雲が太陽を隠して、影に包まれた莉犬は静かに手を振った。
ふらりと足元が歪んだと思ったら、もう彼はこちらに背を向けて遠くへ歩きだしている。
その背中がヤケに小さく見えた。
少し胸騒ぎがして、彼の背中を追いそうになったがその日陰に足を踏み入れると戻れなくなってしまいそうな気がする。
ただの思い過ごしだと飲み込んで、前へ踏み出そうとした足を留める。
俺は一歩後ろに下がって、道に転がった空蝉を踏み潰した。
コメント
2件
バグか何らかで全部センシティブにかかる呪いにかかってたんだけど、やっとなくなって見るの遅くなった🥲🥲 少女レイの曲パロ、解釈むずすぎて諦めたんだけど書けてんのやっぱ尊敬👏👏👏語彙力が相変わらず天才で、やっぱノベルと言ったら暁さんだよ👍