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光が重い瞼を開けると、悠介がいた。背景に、暗闇が続いていた。盲目とした視界と悠介に視界のピントがズレる。背景は真っ暗。悠介はハッキリと捉えられていた。理由は。「お、光くん起きた!!」
声のした方に顔ごと向ける。眩しさを感じた。明がこちらをライトで照らしつつ少しの配慮か、床にライトの光を下げていた。眩しさが無くなる。と同時に、頭の痛みも、気がついたら無くなっていた。
「よかった光ぃ…!やっと会えたなぁ…!!」
悠介が光の服にしがみついてくる。光は苦笑いしつつも脳天にチョップをかました。いってぇともがいている悠介を背景に、明に目配せをした。他のみんなは?という視線だった。不安そうな顔をした。
「ん?あーみんないるよ!ほれ。あそこ」
そう言うと明はライトの光を悠介の背後に向けた。すると、千則と縁の姿が見えた。千則が縁の背中を摩っている。余程怖い思いでもしたのだろうか、縁の体は震えていた。が、光の思った以上に元気だった。
「ちょ、ちょっと!!ライト向けないでよ!!!裸なの!!!!」
どうやら震えていたのは寒いだけだったようだ。
縁は裸と強調して言ったが、服は着ていた。その代わりに、千則の服が1枚脱がされていた。千則が縁に服を授けたのだろう。元あった千則の服は縁に着せられていた。
「いや服1枚着てるじゃねぇか…」
悠介がツッコミを入れる。まあその通りだ。
「うっさい!!!さっきもセクハラしたくせに!」
その瞬間。光が悠介の顔を驚いた表情で凝視した。
「いや違う違う!!セクハラとかしてないから!目が覚めたら縁が文字通り裸………だったんだよ!」
「何思い出してんだ死ね!!!」
「ぅ!?ングフォ!!!」
縁の方から光を撒き散らしたライトが飛んできた。当たり前かのように悠介の顔面に直撃した。
「とりあえず、これで全員揃ったみたいだね。」
明が声を張り上げて言った。全員が同意の意を示すため頷いた。
「ここは…どこなんだろ。」
千則が言った。
「真っ暗。ずっと真っ暗が続いてる。」
千則はライトをあちらこちらに振り回し、周囲を確認した。ライトで照らされた先から得られた情報は、極わずかなものであった。見えるのは、真っ暗な壁。真っ暗な天井。先が延々と続いている廊下のような道だけだ。進むも戻るも、道は文字通り1つしか無いことを示していた。
「…進むしかないよ。」
縁がそう言うと、みんなが満場一致で頷いた。ここからは全員で進む安心感と、全員揃ったという高揚感を抑えつつも、全員が立ち上がった。が、明がひとつの提案をした。
「ライトは1つだけにしよう。」
ライトは1つだけ。即ち、全員で周囲を照らすのではなく、1つのライトを駆使し、それぞれの電池を節約する事を意図していた。
「ここに来る前、光くんのライトが消えちゃったの。もしかしたら電池の減りが過度になるかもしれない。節約した方がいいと思う。」
「確かに…一理ありますね」
縁が同意する。縁が同意したという事はもちのろん、全員が賛成していた。そして、始まった。
ここに来て1番の試練だ。
「さて…で、どうする?」
千則が言った。
「どうする…って?」
明が聞き返す。
「もちろん。男子だよね!先頭」
「げっ」
悠介から呻き声のような情けない声が漏れた。
「お、男だからって先頭はおかしいだろ!!」
「おかしくないよ!!みんなもそう思うでしょ!」
縁は頷いた。地味に微笑んでいる。悠介は腹が立った。明は苦笑いをしている。光は全力で首を横に振っている。無理だという意志を感じた。
「…ふっ…じゃあいいさ。じゃんけんといこうか」
悠介は不気味に笑った。
「じゃんけんで負けたヤツが先頭。それなら文句ないよなぁ?縁さんよぉ?」
「い、嫌よ!!男子先導してよ!!!」
「いやこの流れじゃんけんするとこだろうが!!頑固なのも程々に…」
「はいはーいみんな落ち着いて。一生決まらないからじゃんけんね。」
明がその場を纏めた。流石先輩。厨二病だったから忘れていたが先輩なのだ。光や悠介より1年は長く生きている。大人だ。縁はうぐ…と下を見たが、渋々了承した。
「じゃあいくよー」
明が始めた。
「最初はグー…じゃんけんっ…ぽい!」
何も見えない暗闇の中。ライト1つを持って悠介は先導していた。
「結局俺かよ…」
「ふふふんふーん!意地はるから…苦しむ時間が増えただけだね!」
「お前まじ性格悪ぃな…」
縁が悠介を挑発した。今までの鬱憤も含めた憂さ晴らしだった。1歩1歩進む事に足音が5つ。
別々のタイミングで余韻を鳴らしていた。
いくら進めど真っ暗闇。左右を照らしたとて道があろうはずもなかった。5人は、只管に進んだ。幽霊のような”何か”が出てくる予想は…多少はしていた。が、ずっと同じ光景が続き、暗闇があるだけで、先程であった少女や、使用人、女性とは、出会わないであろうと勝手に彼らは予想していた。
「なんか…寒くない?」
縁が言葉を漏らした。
「そうだねぇ。肌寒いというかなんというか」
千則がそれに続くように呟いた。光や明も頷き、両手をクロスさせ、両肩に手を置いていた。
寒さを示すポーズだった。まるで真冬のように、凍えていた。そして、寒さを感じたのは、体だけではなかった。そう、心も。
「…えっ」
悠介が立ち止まった。悠介は目の前の空間を照らしていた。そう。空間があったのだ。ゆら闇が続く廊下。漆黒のように暗い廊下。その先には、1つの部屋があった。悠介の背後にいた4人が顔を出す。と同時に、そのうち3名。女子全員が尻もちをついた。そう。尻もちをつくほど。驚く程に恐ろしいもの。それは。
「─────死体…か?」
死体であった。それも白骨死体。もう腐敗すらしておらず、”それら”が何年も前のものであると示されていた。”それら”と示したのは、死体は1つではなかったからだ。左から。
1。2。3。4。5。計5つ。死体があった。その5つ全てが、壁に。十字架に。磔にされていた。
全ての白骨死体の心臓部分に大きな釘が刺さっていた。手や足は縁同様、太い紐によってぶら下げられていた。
「なん…で…こんなに死体が…?」
明は固唾を飲んで、一言呟いた。
「い、いやっ…出口は!?出口はどこなの!!」
縁が叫んだ。一刻も早く。この場を立ち去りたいようだった。当然だ。人間の。白骨死体。それに5つもの。異常な空間である事は既に示されていた。
「出口は…ないみたいだな…」
悠介がライトを部屋中照らしても、出口と思わしき扉も、階段も見当たらなかった。その瞬間。
「──────アレクシア…様…ど…こ…だ」
背後から。不気味で、怨恨の籠った。深い。深い声と、タン。タン。といった、靴を奏でる音が聞こえてきた。その場にいた全員が振り返る。が、暗闇が続いていた。悠介がライトを使い奥を照らしても。暗さは変わらず、延々の漆黒で何も見えなかった。
「…!?っ!!!!」
光が明に素早く近寄り、明のリュックを漁り始めた。
「ひ、光くん!?ど、どうしたの!?くすぐったいよ…」
光はこれだ!と言わんばかりにそれを取り出した。ライト。懐中電灯だ。
早々に懐中電灯をつけると、光を呆然と眺めている明を背景に、光は白骨死体に走った。
すると、心臓部分に刺さっていた釘を掴んだ。
「っ!!!んっ!!!んーーっ!!!」
全員が光に視線を集中させる中。光は釘を抜こうとしていた。それだけでなく、4人に向けて視線と唸り声を上げた。釘は、抜かなければならない。そう、全員に示した。すると4人は同時に顔を見合わせ、それぞれ残った4つの白骨死体に走った。僅かな白を目安に走った。縁と千則、明と悠介はもちろんの事白骨死体を目の前にしてうわぁうっわぁ…と嫌悪感を声に出したが、お構い無しに釘を引っ張った。
「──────アレクシア様…どこ…だ」
声と足音が近くなっていく。まずい。早く抜かなければ。抜かなければ。まずい事になる。光はそう直感した。中央の白骨死体の釘を抜かんとしていた光が振り返った。すると、そこにいたのは。白髪で。漆黒の目をした、カナズチを手にしてこちらに迫ってくる、謎の男がいた。
まずい。まずいまずいまずいまずい。焦りに満ち溢れ光の釘を掴む力が増す。途端。光が引っ張っていた釘が、RPGの伝説の剣のように、引き抜かれた。
「──────がぁ…ぐあああああああ」
5人は振り返った。漆黒の目をした男は苦しみ出した。明らかに釘を抜いた事によるものだと全員が理解した。4人が一気に引き抜かんと力を込めた。が、先程まで苦しんでいた男は、黒い涙を流しながら、この部屋へやって来ていた。
まずい。まだだ。まだ、足りない。時間が。人員が。まだ、足りない。足りない。どうする。どうする。どうするどうするどうする。どうするどうするどうするどうする。
そして。光は。
漆黒で目をした男に向かって走り出した。
「「「光!?」」」「光くん!?」
4人全員の驚愕の声が聞こえる。
あぁ。懐かしいな。明るい声。心配の声。優しい声。俺が守れなかった。あの声。
“守れなかった”?”何”を?
瞬間。光の海馬に激しい痛みが走った。今まで感じた疼痛。苦痛。その全てにおいてこの痛みが勝っていた。光は立ち止まり蹲った。頭を抱えた。
That memory was etched into Hikari’s mind,
Leaving behind a white background.
その記憶は、白い背景を残して光の
脳裏に刻み込まれた。
──────おかあさ…!!これ……て!!」
──────おに……ゃん、あ…え……ぎよ!」
──────い…の…。か…てくる…。」
In this way, Black became black and white
became white.
こうして、黒は黒となり、
白は白となった。
──────が…ぁ…。お…あさ…。」
They beg. To your own destiny.
Their peace of mind.
彼らは懇願する。あなた自身の運命に。
彼らの心の安寧を。
光は目を瞑って蹲り固まった。記憶は、一瞬にして帰した。ハッと目が覚め、顔を上げた。が、
もう。手遅れだった。目の前に。”それ”がいた。
振り上げられる。カナズチが。振り下ろされる。
カナズチが。そして破壊される。そう。光は思わされた。
「「「「うあああああああああ!!!!」」」」
パリン…という音と共に、4人の叫びが聞こえた。殺られる。そう確信していた光は目を閉じ伏せていた。が、全員の叫びに叩き起された。顔を。上げた。そこには。体のあちこちが、まるでガラスの破片のように、崩れていく、男の姿があった。
「アレクシア様…どこだ…どこ…だあああああ」
パリィン…という音が鳴り、漆黒の目をした男は。粉々に、弾け飛んだ。
粉々に弾け飛んだ欠片は、床に落ちていった。ガラスの破片のように。鋭く、黒く光った欠片が、砕け散った。最後の破片が落ちるその瞬間。
5人全員の視界が、真っ白になった。
明は目を覚ますと、この時間の原点。角楼屋敷の大広間で横になっていた。ハッと起き上がり、そして周囲を見渡す。
「よかった…みんな無事だ…」
明は安堵した。女の子座りで安堵した。
息を落ち着かせ、まだ眠っている4人の顔を見た。すると、光を感じた。そう。確かな。光を。
忘れてしまっていた。光を。そう。夕日を。
「あはは…あんなに開かなかったのに。」
明は、再度。玄関の開かずの扉だったものを見やった。いくら押しても。いくら引いても。ビクともしなかった。空間にガチっと固定されたように設置されていた、開かずの扉。その扉が、
開いていた。
「なぁんだ。光。あるじゃん」
to be continued…