テラーノベル
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俺にはどうしても忘れられない人がいる。
彼女は静かだけどお喋りな性格で華奢な見た目をしていた。
彼女は、よくこう言っていた。
「私の紫苑って名前とっても気に入ってるの。 シオンっていう花があってね?
花言葉は、『貴方を忘れない。』っていう意味なの。だから私、皆が忘れられないような魅力的な人間になりたいの。
それに、シオンっていう響き可愛いし、シオンっていうお花、素敵だから。」
「魅力的な女性じゃないの?」
って言ったら 君は、
「人間として忘れられたくないの。」
と言っていた。
彼女は本当にお花が好きだった。彼女が使っている物は全てお花柄で、香水も薔薇の匂いだったことを覚えている。
彼女は、カフェの窓辺の席でいつも本を読んでいた。店員だった俺は、そんな彼女に恋をしていた。
初めて話しかけたあの日。名前を聞いたっけ。 彼女はすごく笑顔で名前のことを教えてくれた。
それから少しずつ話していき、仲を深めた。連絡先を交換して、遊びに行き、そして恋人に。
初デートはネモヒィラの時期だったのでネモヒィラを見に行った。
彼女は、
「綺麗だね。澄んだ青色だ。 」
と言って微笑んでいた。
俺はそうやって微笑む彼女を見て「この人は絶対に忘れられない、忘れたくない。彼女の傍にずっといたい。」と思い願った。
だが、ずっと傍にいたいという願いは叶わなく、彼女は重い病にかかり余命宣告をされた。俺は目の前が真っ暗になったが、彼女はなぜか微笑んでいた。
「なぁ、紫苑。なんで微笑んでるんだ?」
「それはね…人は必ず死ぬから。歳をとっても、事故でも、病でも、必ず人はいずれ死ぬでしょ?だから私、死ぬのが怖くないの。きっと天国に行くなら天国の花が、地獄に行くなら地獄の花が見れるはずよ。知らない花が見れるかもしれないでしょ?少し、楽しみ。」
彼女は死を覚悟していた。俺は彼女の死を覚悟できなかった。「どうして紫苑なんだ。どうして、紫苑が苦しまなければいけないんだ。紫苑は幸せになるはずだったのに。」そんな考えが頭をぐるぐる回る。
毎日お見舞いに行った。沢山のお花を持って行った。彼女は花を見る度、重い病になんてかかってないような元気な表情を見せた。俺は外であったことを沢山話した。「猫がいた。」など少しのことでも話した。
だけれど彼女の病状は悪化していく一方だった。腕はまるで枝のように細くなり、目の下のクマは日に日に酷くなる。俺は彼女を見る度に泣きそうだった。苦しそうな彼女を見て変わってあげられない悔しさが。
数日後、彼女に頼まれた。
「今はシオンの時期でしょ?だから、シオンの花束を持ってきて欲しいの。絶対に明日持ってきてね。」
「わかった。紫苑がいつも花を買う花屋に言って買ってくるよ。」
彼女は寂しそうな悲しいようなそんな顔をしていた。
次の日、言われた通りに花束を持って行った。彼女はとても喜んでいた反面、寂しそうな顔をしていた。
「シオン、綺麗だね。私ね、シオンの花束を飾るなら死ぬ時がいいなって。だから最初で最後の特別な花束だ。」
彼女は笑顔で泣いていた。俺は苦しかった。「あぁ、彼女は死ぬんだな。」と実感した。
彼女はその後、だんだんと病状が悪化していった。意識がなくなる数時間前に彼女は言った。
「忘れないでね、私の事。別に忘れてもいいんだけどさ。でも、忘れられないくらい魅力的な人間になれたでしょ?
このシオンの花束、ドライフラワーにしてね。私が一生そばにいると思えるでしょ?
君は寂しがり屋で…ふふっ、私がいなくなったあと毎日泣いたりしないでね。あと、追いかけてもこないでね。
わかった?約束だから。」
「忘れないよ、忘れられないよ。約束だっていくらでも守るから。だから……やっぱり、なんでもないよ。」
「私、君の事一生愛してるから。だから悲しまないで、寂しがりすぎないで、とは言わないけど、あんまり気を落としすぎないでね。」
「うん、わかった。俺も一生愛してるよ。」
意識がなくなった数時間後、彼女は永眠した。とても安らかな表情で眠っていた。俺は泣かなかった。いや、泣けなかった。彼女、紫苑との最後の約束だから。
シオンの花束はドライフラワーにして数年経った今も部屋に飾っている。薔薇の香水も部屋に置いている。ふと寂しくなった時、部屋にひと吹きする薔薇の香水。彼女の微笑みが蘇ってくる。
彼女が最後に言っていたあの言葉。
「忘れられないくらい魅力的な人間になれたでしょ?」
「うん、なれてるよ。なりすぎてるかもしれないくらいにね。」
いない彼女に返事をしてしまうくらいに、紫苑、君は忘れられない人だ。
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