9歳……あの頃は川辺真奈美、という名前だった私。
今も本当は川辺なのだけれど、転職時に母方の姓である桑名を使っている。
会社員の父と、週4パート勤務の母、小学生の私は、一階がLDK、二階に二部屋という小さい家に住んでいた。
小さくても、駅や小学校まで徒歩10分の住宅地に立ち並ぶ家は人気だったのか、近所には一緒に小学校へ通う年齢の子も多かった。
学校で友達と遊び、放課後も近所の子たちと遊び、週に一度は体操教室に通う生活が一変したのは、忘れもしない……私がゴールデンウイーク明けに9歳になったあと。
5月が終わろうという日だった。
その日、いつもと同じように学校から帰ると、玄関ドアの鍵がかかっていた。
いつもは母が私より先に帰っていて、私の下校時間に合わせて鍵を開けておいてくれるのだけれど、忘れて昼寝……?
そんな日も一度くらいはあったから、私は
“お母さん、起きてー”
という気持ちを込めて、ピンポン、ピンポン……インターホンを連打する。
それでも開かないドアを叩いて
「お母さーん……おーい」
と私が呼ぶと、カチャ……っと鍵が開いた。
「ただいまーね……」
寝てた?と言おうとした私の目に飛び込んできた母は、立っているのに脱力した幽霊みたい……と私が口を開けたまま固まると、母はその場に崩れ落ちた。
「……お母さん……?」
固まったままの私を見ないままに、母が言ったことは9歳になったばかりの私には、すぐに理解出来なかった。
ただ一つだけわかったことは、お父さんがお巡りさんに捕まって帰って来ない、ということだった。
父は通勤電車内痴漢の冤罪で捕まったのだ。
逮捕時から父は一貫して犯行を否認していたのだが、半年経って誤認逮捕、無罪が明らかになるという事態……
その間、私と母は犯罪者家族という視線に晒され、逃げるように引っ越しをした。
11月に戻った父だけれど、すでに失職。
事件以降、心身が弱った母に代わり、私は家事をするようになっていた。
働けなくなった母と、なかなか定職に就けない父。
二人とも優しかったけれど、お金がないことは明らかで、不遇の少女時代を過ごした私は、友達も出来ないまま、バイト三昧の高校卒業後、家事代行サービス会社に就職。
唯一、私と母を気にかけてくれていたのは、母の友人の石田きよ美さん。
私が中学生になる時、新品の制服を買えなかったことから、リサイクル品のサイズ直しを自宅でしたいときよ美さんに相談すると、彼女は私たちに自分が使わなくなったミシンをくれた。
そして私に裁縫や、リメイク縫製などを教えてくれた。
それだけが楽しみになった私は、リメイクに関してプロの技に磨き上げたのだけれど……
そんな昔のことを思い出しながら、大理石の床を磨き始めた私の耳に、私たち家族を苦しみに追いやった人間の足音が聞こえた。
中園遥香……当時13歳の近藤遥香が、私の父を犯罪者に仕立て上げたのだ。
その一年半後、親の再婚で遥香は中園となっていた。
コメント
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酷い……こんな間違いあってはならないし無実の人が苦しむなんて😢 エセお嬢様に復讐を!!
言葉が出てこない。誤認逮捕で無罪となっても元の生活にはそうは戻れない。細やかな川辺家の幸せを奪われどんな思いで生活してきたのか…そんな中でもお母さんの友人のきよ美さんの存続は大きかったはず。裁縫やリメイクを教えてくれて、もうすでにこの時から復讐への下準備をしていたように思う。 だからあんな事されても耐えらるのね🥺逆に担当にしてくれてありがとうだね😏 で、この遥香、中薗の血筋じゃないんじゃん!なにお嬢様気取りしてるのよ!真奈美ちゃんと一緒に化けの皮剥がして、奈落の底へ堕としてやる😤ジリジリと恐怖と共に追い詰めてやりたい。
幸せな家庭を壊した遥香に天罰が下りますように