どすっ…重く、鈍い音が響いた。
『うっ…げほっけほっ』
蓬髪の青年が腹を抱えて蹲っている。その数メートル先には白い外套、帽子を被った男が静かに立っていた。
白装束の男はコツコツと足早に足音を立て蓬髪を乱暴に掴み上げる。
そして目玉焼きをひっくり返すように青年をくるりと仰向けにし立派な靴で青年の腹を思いっきり踏みつけた。
青年は声にならない声を上げ再び猫のように丸くなるが白装束の男が蓬髪の少年の白く華奢で傷のある首を両手でゆっくりと締め始めた。
「苦しいですか太宰君?苦しいですよね」
「でも僕は貴方が苦しければ苦しいほど胸が高鳴る。貴方のように常に崇高で、冷静で、賢くて、美しい人ほどボロ雑巾みたく転がり、血を吐くと尚美しいのです」
蓬髪の青年は掠れた声で『魔神フィヨードル』と
名前を呼ばれたフィヨードル・Dは瞳の中に狂気と歓喜を孕ませた。
フィヨードルがパッと太宰の首から手を放した。
太宰は水面から上がったときのようにたくさんの酸素を肺に取り込んでは吐き出す。
然し、フィヨードルはそんな太宰を躊躇いもなく蹴飛ばした。
何日も、何日もいたぶられ、弱りきった太宰は道端に落ちたペットボトルのようにころころと向こうに転がるそして再び太宰の腹を
蹴る蹴る蹴る蹴る
太宰は口から少量の血を吐き出した。
フィヨードルは太宰の頭を掴みむりやり座らせると太宰の動脈あたりに細い針を刺し込み、注射器に入った液体をゆっくりと注入した。
『大丈夫です。死にはしません。死ぬ程苦しいですけどね』
『目眩、吐き気、腹痛、痺れ、息切れ、動悸、過呼吸。この辺りは一通り味わえるはずです。さぁ…夜はこれからですよ』
フィヨードルが微かに口角をあげる。すると太宰は突然小刻みに身体を震えさせた。
『おや、痙攣ですか?うふふ、この薬をそんなに好いて頂けるとは思っても居ませんでした。でしたらもう少し…』
ちくりと太宰の肌に鋭い痛みが走ると視界がぐるぐる廻り始める。
床は天井に天井は床に、右は左に、左は右に。ぐわんぐわん回る視界に耐え切れず太宰はぎゅっと目をつぶるが矢張りまだ世界が不規則に回る。
するとその次に腹を内側からつねられ、内臓を絞られるような痛みに駆られ太宰は思わずうめき声を小さく上げた。
ひどい目眩に、動けないほどの腹痛。次になにが襲ってくるかわからない恐怖。
がたがたと震えているとフィヨードルが太宰の腹に数発ストレートを撃ち込んだ。
『あ゛っっ゛』
彼の拳が太宰の腹にのめり込む。太宰の体内で響く鈍い音は肋骨が数本折れたことを知らせる。
薬の激痛にみぞおちを殴られた痛みと骨折れる痛み。二重どころか3重の痛みに耐え切れず太宰とうとう意識をそっと手放した。
『全く。面白くありません。次からはもう少し手加減しましょうか』
ボロボロの太宰を上からゴミを見るような目で眺めドストエフスキーは白いハンカチィフで自身の手を拭う。
そして赤黒く染まったハンカチィフをポイと太宰の体の上に投げ捨てた。
彼は小さく舌打ちをすると携帯電話を取り出し、119と打ち込む。
『はい、至急宜しくお願いします』
ドストエフスキーは電話を切ると太宰の唇に一つ接吻を落とした。
自身の唇についた太宰の血を舐めると、少し微笑んで
『又遊びましょう。太宰君』
段々近づくサイレンをあとに魔神フィヨードルはふと姿を消した。
コメント
6件
わぁ…フィヨードr(((
サイレンのとこ見てたら本当にリアルでサイレンの音が外から…(
最高…! 尊すぎる!!!