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「Sクラスにはなれなかった」― ユリという名前のSub ―
BクラスのSub。
その響きは、私にとって「呪い」だった。
「まぁまぁ優秀だけど、Sじゃない」
「発情は安定してるけど、特別じゃない」
「誰でも扱える、便利なSub」
そんな風に、扱われてきた。
でも、それでも私は──
あの人の隣を、夢見てしまった。
ジョングク。
SSクラスのDom。
その存在は、眩しすぎた。
最初に彼を見た瞬間、身体が熱を帯びて、
頭の奥で警報が鳴った。
「この人のものになりたい」
それは、本能だった。
理性なんかじゃない。気持ちなんかじゃない。
ただ、本能が──彼を求めた。
でも、彼は私を見なかった。
目も合わせない。
視線の奥には、たった一人のSubしかいなかった。
──キム・ミンジュ。
SクラスのSub。
静かで、上品で、空気を読むのがうまくて。
何より──Sクラスだった。
私より、上。
ただそれだけのことで、彼女はジョングクに選ばれた。
「どうして……どうして、私じゃなかったの……!」
吐き捨てるように言った夜、
誰にも聞こえないように、枕を噛みながら泣いた。
あの子は、自分のバースを隠してたくせに。
本当は「Subであること」が嫌いだったくせに。
私なんて、「Subであること」でしか価値を感じられなかったのに──。
……でも、全部が終わったあと。
Project Reinが潰れて、彼らが姿を消したあと。
私は、施設に一人で取り残されていた。
誰も、私を“守る必要”がなかったから。
そして、あの人──ジミンさんが言った。
「……君は、“誰かに選ばれるため”だけに生きてきたんだね」
「でも、それは“罰”じゃない。“出発点”だよ」
……泣いてしまった。
こんな言葉ひとつで泣けるほど、私はずっと、飢えてた。
誰かに愛されること。
誰かに、大切にされること。
今は、ケア施設でSub向けの支援プログラムを手伝ってる。
発情が制御できない子、バースにトラウマを抱えてる子。
……昔の自分を、見るみたい。
でもね、私はもう知ってる。
「Sクラスになれなくても、“価値”は変わらない」って。
「誰かのつがいになれなくても、私は、私のままで愛せる」って。
今でも夢に見るよ、ジョングクさんの横顔。
でもその隣にいるのは、あの人──ミンジュさんでよかったんだと思う。
だって彼女は、あの人の“光”だったから。
私は、私で別の未来を探しに行くよ。
今度は、誰かに選ばれるためじゃなく、自分で選ぶために。
──さようなら、あの頃の私。
そして、ありがとう。
私を照らしてくれた二人に。
【End:ユリ視点】
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