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家の前に着く。
ドアの前で、一瞬立ち止まる。
いつもと同じはずの場所。
でも、ここから先が少し違う気がした。
「……よし」
小さく気合いを入れて、ドアを開ける。
まだ何者でもない自分。
でも。
“何かになろうとしている自分”では、もうあった。
そしてその夜――
美咲は久しぶりに、自分から机に向かった。
進路希望調査票。
真っ白だったその紙に、ゆっくりとペンを走らせる。
第一志望――
そこに書いたのは、まだ曖昧な言葉。
それでも。
「音楽に関わる仕事」
と、確かに書いた。
文字は少し震えていたけど、消さなかった。
窓の外では、雨上がりの夜が静かに広がっている。
イヤホンから流れる音が、そっと背中を押す。
答えは、まだ途中。
でもその途中が――
少しだけ、好きになれそうだった。
翌朝。
カーテンの隙間から差し込む光で、美咲は目を覚ました。
いつもと同じ時間。
でも、目覚めた瞬間に感じたのは、ほんの少しの“前向きさ”だった。
机の上には、昨夜書いた進路希望調査票。
「音楽に関わる仕事」
自分の字を見て、少しだけ照れくさくなる。
でも、不思議と消そうとは思わなかった。
「……行こ」
制服に袖を通し、イヤホンをポケットに入れる。
今日は、“なんとなく過ごす日”じゃない気がした。
———
教室に入ると、いつものざわめき。
友達の由奈がすぐに手を振ってきた。
「美咲!昨日の“動き始めた”ってなに!?」
席に座る間もなく詰め寄られて、思わず笑う。
「ちょっとね…」
言いかけて、少しだけ迷う。
あの出来事を、そのまま話していいのか。
公園のこと、ライブハウスのこと。
夢みたいな話。
でも。
(隠さなくていいか)
「昨日、ライブ行ったの」
「え!?急に!?」
「うん、なんか…たまたま見つけて」
全部は言わない。
でも、嘘でもない。
「それで、ちょっと思ったんだよね。音楽に関わること、いいかもって」
由奈は一瞬ぽかんとして――すぐに笑顔になった。
「いいじゃん!」
その反応が、予想よりずっとまっすぐで、少し驚く。
「美咲、めっちゃ音楽好きだもんね」
「……そうかな」
「そうだよ。いつも聴いてるし、ライブの話するとき楽しそうだし」
言われてみて、少しだけ納得する。
自分では当たり前すぎて、気づかなかったこと。
「で?具体的には?」
「それがまだ全然で…」
正直に言うと、由奈はうなずいた。
「いいじゃん別に。これからじゃん」
あっさりした一言。
でも、その軽さがありがたかった。
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