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「元貴、なにがあったの……」
しばらく抱き合っていると涼ちゃんが重々しく口を開いた。身動ぎ一つ見逃さないように真剣な眼差しで元気を見つめている。
元貴はぎゅっと涼ちゃんの服を握ったまま動かない。きっと今は俺たちの言葉も届いていない。さっきのプロデューサーに接触したことで表れた、震えや動揺を乗り越えようとするので精一杯なんだ。
きっとあいつは元貴がこうなった原因を知っている。俺の直感がそう告げている。でも、あいつはこの業界でそこそこ顔の利く相手だ。下手に機嫌を損ねれば、俺たちだけでなくチームの立場が危うくなるだろう。
今までだってお偉いさん達から無茶な要求をされることはあった。でもその度に元貴が上手く俺たちを守ってくれていた。俺たちだけで上手く対処する方法が分からない。すぐそこに解決の糸口があるのに掴めない。その状況に歯噛みする。
「元貴、収録まで寝てていいよ。急に話しかけられてびっくりしたね。大丈夫。ここには俺たちしかいないからね」
元貴が動けないと分かった涼ちゃんは、ソファの方に元貴を誘導する。ソファに座る涼ちゃんの膝に頭を預けるようにして元貴は目を閉じた。俺も涼ちゃんの隣に座り、頭を撫でると数分で元貴から小さく寝息が聞こえてきた。俺たちの側で安心して眠れるのなら、そうしてあげれば良かったとあの日からずっと後悔している。元貴が弱ってから気付かされることが沢山ある。
ねぇ元貴、俺たち守られてばっかりだったんだね。
「……涼ちゃん、さっきのあいつどう思う」
「んー、元貴となにかあったのは間違いないよね。人前で動けなくなることなんて今まで無かった」
「そうだよね…でも、あのプロデューサーの黒い噂なんて聞いたことないよ……」
「だからって、俺たちの元貴をボロボロにされて動かない訳にはいかないよ」
いつもキラキラ輝いている涼ちゃんの瞳が黒く濁る。背筋に冷たいものが走った。本気で怒ってる。でも、それは俺も同じだ。あの男が元貴を壊したなら、俺たちはどんな手を使ってでもあいつを元貴の世界から消してやる。俺たちの神様に手を出したこと後悔させてやろう。
「僕、あの人のことマネさんと調べてみるよ。事情を説明すれば協力してくれるはず」
「じゃあ俺は元貴からなにか聞き出せないか試してみる。本当は思い出させたくないけど……元貴のためだ」
ふたりで目配せあって、それから誓いを立てるように元貴の手のひらに2人揃ってキスをする。傷付けられていた右手が治る頃には、全部終わらせるからね。元貴は俺たちの世界の神様でいてね。
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