テラーノベル
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――回想。入団初日のこと。
ポートマフィアの門を叩いたばかりのゆらは、まだ面をつけていなかった。銀色の長い髪に、人形のように整った顔立ち。幼さの残る少女がマフィアに来たというだけで、好奇と侮りの目が集まった。
新入りの列に並んでいたゆらを見つけて、にやっと笑った。
中也「へえ、女か。こんなガキが何しに来たんだ?おままごとなら他所でやれよ。」
隣に立って、冷めた目で。
太宰「まあまあ中也君。せっかく来てくれたんだ、歓迎してあげようじゃないか。……ところで君、名前は?声が小さくて聞こえないんだけど。」
聞こえていないわけがなかった。意図的に煽っているだけだ。周囲の構成員たちがくすくすと笑った。森鴎外は奥の席から微笑を浮かべるだけで止めもしなかった。
わざとゆらに近づき、見下ろすように顔を覗き込んだ。
中也「なんだ、びびって声も出ねえのか?根性なしが。」
ペンでこつこつと手帳を叩きながら。
太宰「これじゃあ使い物にならないかもねえ。……ああ、いっそ帰ったほうがいいんじゃないかな。君のためだよ。」
新人への洗礼としては定番のものだった。だが、まだ15の少年二人が年上の少女に浴びせる言葉としては、些か度が過ぎていた。
過去のことはまだまだある。1番酷かったのは____
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――さらに遡る。入団から二週間ほど経った頃。
その日、訓練場で模擬戦が行われた。新人同士の実力測定。当然、ゆらも組み込まれた。
対戦相手として名乗りを上げた。重力操作の異能を見せつけるように、周囲の瓦礫を浮かせてみせる。
中也「おい新入り、手前の能力ってのを見せてみろよ。……ま、大したことねえだろうけどな。」
ゆらは能力を発動した。狼が三匹、虚空から現れて中也に襲いかかった。不意を突かれた中也は重力で狼を地面に叩きつけたが、その隙にゆらが間合いを詰めていた。勝負は一瞬でついた。
地面に転がされて、信じられないという顔で見上げていた。
中也「なっ……てめえ……!」
観戦していた太宰が拍手した。しかしその声には感心ではなく、粘ついた嘲りが混じっていた。
太宰「いやあ、見事だねえ。……でもさ、女の子に負けた気分はどうだい、中也君?」
顔を真っ赤にして起き上がり、拳を震わせていた。
ゆらの方へ歩み寄り、顔を覗き込むように首を傾げた。
太宰「君さ、強いのはわかったよ。でもね――」
太宰の手が伸びて、ゆらの髪を無造作に掴んだ。
太宰「調子に乗らないほうがいいよ。ここはね、可愛いだけじゃ生き残れない場所なんだ。」
その日から、ゆらは面をつけるようになった。紙とペンを持ち歩くようになった。声も出さなくなった。何を言っても無駄だと、身体で理解したからだった。
そして現在なのだ。
続く。
コメント
7件
第2話、読み終わりました……。ゆらが声を失い、面を着けるに至った“きっかけ”が、これほど明確に描かれるとは思っていませんでした。特に太宰の「調子に乗らないほうがいいよ」と髪を掴む仕草、あれはただの嫌がらせじゃない、彼なりの“教育”なんだなと感じました。それにしても、中也も太宰もまだ15歳。同じ年頃の子どもが、あそこまで徹底して他者を“削る”感性を持てるのが、この世界の怖さですね。現在のゆらが紙とペンでしか語らない理由を、ようやく腑に落とせた気がします。続きが気になります。