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リヒトは無事、魔法素材店に辿り着いていた。
扉の前で止まり軽く深呼吸をする。どこか緊張した面持ちでのまま足を踏み出す。
ギィと音を鳴らしながら開いた扉の中は想像以上の光景だった。
天井から吊り下がったドライフラワー。
動物と思わしき骨。
薄明かりの中、淡く光を放つ宝石。
古そうな本や巻物などが所狭しと並んでいる。
店へ一歩進んだ瞬間、ふわっと鼻をつく匂い。乾燥したハーブや中身の見えない薬瓶、液体に浸かり変色した根っこのような物。様々な匂いが混ざったなんとも言えない独特な空気が漂っている。
リヒトはセレスから渡されたメモ紙を握り店の人を探し、周りを見回すがそれらしき人が見つからない。
どうしようかと立ち尽くしていると、店の奥の方に女性らしき人影が見えた。どうやら客のようだ。
(とりあえずあの人に聞いてみよう…)
そう思いリヒトはその人に近づく。
「あの…す、いません…」
声をかけると、 白髪のショートヘアの女性は ゆっくり振り向いた。
「あら、どうしたの?」
リヒトはその人をどこかでみたような気がした。
「あれ?どこかで会ったことある…?」
思わず声が漏れた。
「あら、アタシとあなたは会うの初めてよ。」
「そう…だよな…」
確かに会ったことがない。そう納得したはずなのに、胸のどこかにある違和感が拭えなかった。
「ふふ、それで、どうしたのかしら。」
「あ、そうだった!この店の人ってどこにいるんだ?」
「今は作業してるからしばらくは出て来ないんじゃないかしら。」
「え゛っ、どうしよう…」
リヒトはあからさまに困り果てた顔をする。
「お金ならカウンターに置いておけばいいと思うわよ?」
「あ、いや、そうじゃなくて… 薬草を頼まれたんだけど、俺、全然詳しくなくて…店の人にメモを渡したらいいって言われてたんだけど…どうしよう… 」
「ちょっと見せてくれる?」
リヒトがメモ紙をわたすと女性はそれに目を通し小さく微笑む。
「これならわかるわ、教えてあげる!」
「いいのか?!ありがとう!」
女性はメモを見ながら店内を歩いていく。リヒトは慌てて後ろについていく。
数分後、リヒトの手にはメモに書かれている薬草でいっぱいになっていた。
「頼まれたものはメモに書かれてたものだけ?」
「ああ!すごく助かったよ!」
そう言いながらお金をカウンターに置く。
「ふふ、役に立てたならよかったわ!そうだ、買ったものを包んであげる。」
女性はそう言って指をくるりと回す。すると次の瞬間、カウンターに置いてあった包装紙が宙に浮かぶ。
「えっ、魔法…」
リヒトは思わず目を見開いた。
包装紙は当たり前のように薬草を丁寧に包み込み、紐がひとりでに結ばれた。その包みはふわりとリヒトの手元に降り立った。
「はい!どうぞ!」
リヒトはその光景に釘付けになっていた。
「あら?固まっちゃった。」
魔法を使う人は珍しくない。リヒトも少しだけだが魔法を使うことができる。だが、術式も唱えず、魔道具も使わずに魔法を操る人など現代では聞いたことがなかった。指を一振りしただけで呼吸をするように魔法を自然に使ってみせた女性。
リヒトの脳裏にふとある記憶が蘇る。
学生時代の魔法史の授業。嫌というほど読まされた教科書。その中に載っていた肖像画。世界で初めて人が魔法を使い、伝えた人物。名前はーーー
「あ!!!」
「わっ、びっくりした。どうしたの?」
硬直していたリヒトの突然大声にびっくりする女性。
「お前…!で、でも、なんで…お前は」
リヒトは息を飲み女性の目を見て言う。
「最古の魔女、メイコ•コーラル!」
「あら、バレちゃった」
ちょっとした嘘がバレたような軽さで笑った。
「えっ、バレたって…じゃあ本当に…でもなんで…教科書では数百年前に死んだって…!」
リヒトが混乱しながら声を上げていると、店の奥からドタドタと激しい足音が響いてくる。
「おい!今の声!」
勢いよく現れたのは、薄紫色の髪に猫耳と尻尾を持つ少年。
「あっ!ラブ!やっほ〜!」
メイコは陽気に手を振る。
「やっほーじゃねーよ、今の叫び声はなんだよ!」
「あー、この子が私が″メイコ•コーラル″だって見破ったのよ。」
メイコはあっけらかんと言う。
「は?」
「認識阻害の魔法かけてたんだけどな〜」
「じゃあなんで、バレてんだよ!」
「私にもわかんな〜い。」
ラブといわれた少年は頭を抱え、メイコはなんでもないような態度を取っている。
リヒトはそんな二人を交互に見つめている。
信じられない。いや、信じるしかない。数千年前に突然現れた最古の魔女が目の前にいて、ヘラヘラと笑いながら普通に買い物しているということを。
「あれ?また固まっちゃった。」
「怖がられてんだろ。」
「え〜取って喰ったりしないから大丈夫よ〜」
メイコが顔を覗き込む。リヒトは少しうつむいたまま恐る恐る口を開く。
「な、なぁ、本当に本物なんだよな…?」
「ええ!私が正真正銘本物の最古の魔女、メイコ•コーラルよ!」
メイコは胸を張ってドヤ顔をキメている。
「じゃあ、 さ…俺に、魔法を教えてくれないか?!!」
メイコとラブは驚き過ぎて口を開けてポカンとしている。
「ふふ、あはははは!」
メイコは吹き出したように大笑いする。
「えっ?えっ?」
「ふふふ、この子可愛いわね!ラブ!」
「おい、絶対に受けるなよ。」
「えーいいじゃない! 君名前はなんていうの?」
「えっと、俺はリヒト!」
「リヒトくん、ね、じゃあよろしくね!リヒトくん!」
ヘタカンの狭間