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壮大な過去だった。
「ねえ。雪ちゃんは今、何の仕事してるの?」
「さあ。前に言っただろ、自分でたどり着けって。探偵なんだろ」
雪は笑って、その場から去った。
雪は、日秀学園に戻ってきていた。
4組の廊下の窓から校内の様子を見下ろしていた。
「おい雪」
「尚か」
「お前、山根に言ったんだな」
「ま、正体は言ってねえけど……」
雪は校内の方を見たままだ。
「お前何見てんの?」
「……別に……」
尚に聞かれて、雪はそっけなく返す。
「……お、めっちゃイケメンいるな~」
「ん?」
尚の言葉に雪は身を乗り出して見てみた。
「ああ。海ね。夏田海」
「知ってるのか」
「知ってるも何も、同じクラスで前の席だよ」
雪がそう言った途端、尚は驚いて声を上げた。
「マジかよ。なんかアイツ、夏畑に似てるよな。名前と言い、顔と言い」
「性格は正反対だけどな」
雪は不満げな顔のまま尚に言った。
「何お前、好きなの?」
「さあね。好きなんじゃねえの?」
尚はにやにやしながら雪を見る。
雪は冗談交じりに鼻で笑うと、尚に言った。冗談辞めろよと言うように。
「嫌いなの?」
「……別に、イケメンは興味ない。そもそも恋なんてしたことないんだから。あたしを落とせる奴なら好きになるかも」
「昔からお前の事見てきたけど、やっぱ分かんねえわ。死ぬまでにはお前の事、全部知っときたいけど」
尚は雪の横顔を見ながら言った。
「それは結構、言っとくが、あたしはお前の好きな人も知ってるし……基本何でも知ってるよ」
「あっ、バカ言うなよ」
「言われなくとも」
雪はそう言って去って行った。
歩美は事務所へ戻り、尚に電話した。
「もしもし?尚くん」
「どうした?」
尚は電話の向こうで大きな声であいさつした。
「……声がでかいよ‼」
「ああ。ごめんごめん」
「それより、雪ちゃんってなんの仕事してるの?」
「ああ、調べてみたところ、CIAを辞めた後は、小説家として活動している」
「やっぱりそうなんだね」
歩美はスマホを片手に頭を抱えた。
「……じゃあ、良いよありがと」
コンコン。
歩美が電話を切った後、事務所のノックが鳴った。
「はーい」
紗季がドアを開けると、そこにはユニフォームを着た海が立っていた。
「どうも」
「海?」
「どうしたの?」
海は赤いソファに腰掛けると、海は1,000円を取り出した。
「実はな、今、保健委員が目が良くなるっていう薬を販売してるんだ。俺はわざと眼鏡をかけてるから買わなかったんだけど、引っかかってる人が多いんだよ」
「ああ、つまり、その保健委員に注意をしてほしいという事ね?」
「まあ、そうなんだけど……」
海は頭の後ろを掻いて苦笑いを浮かべていて、不審な様子だった。
「実は、サッカー部がほぼ全員その商法に引っかかっているんだよ」
「はあああああ⁉」
歩美と紗季は、海に連れられ、校庭に向かった。すると……
「こ、これは、薬っていうか、変な治療法ね」
「ああ、もうすぐ試合なのに、これじゃ練習にならねえよ」
海は眼鏡を外して頭を抱えた。
「あ、山根。見ろよこれ」
「ナニコレ?」
山路は歩美の近くに行くと、ある器具を渡してきた。
「この光を暗いところで目に浴びせれば、視力が良くなるんだってさ」
「そんなわけないじゃん!」
歩美は驚いて目を見開く。
「お前ら何やってんだよ?」
後ろから声が聞こえ、振り向くと、そこには雪が居た。
「なんかカオスなことになってるけど?」
絵菜と二人で制鞄を背負っている。部活が終わって帰るところなのだろう。
「あのねえ、あんなことしたのに、私達がアンタと快く協力すると思う?」
「バーカ。あたしも一応人間なんだよ」
雪はそう言いながら山路から器具を奪った。
「なんだこれ?まるで洗脳だな」
「なんでサッカー部ほぼ全員洗脳されてるの?」
絵菜が呆れたように校庭を見渡す。
「どうやらそうみたいだ」
海が眼鏡をかけなおす。
「サッカー部は視力弱いからな」
「動体視力は必要だし、皆も次の試合に勝つため、それぞれのやり方なんだろうが……」
「いくら何でもこれはね……」
雪は校舎に体の向きを変える。
「じゃ、さっそく聞きに行こうぜ保健委員に」
「ええ⁉ちょっと待ってよ帰って電話しないのー?」
雪がササッと校舎の方に戻るのを絵菜が必死についていく。
「私達も行きましょ」
「うん……」
5人全員で校舎の中に入って行ったのだが……
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ねえ紗季ちゃん。流行ってるの?これ?」
「さ、さあ」
目の前には、例の器具を使っている生徒ばっかりだった。
「うぇー、これはひでぇな」
「海ー!」
その声を聞いて、海が振り返る。
「露?」
「ねえ、流がおかしいんだけど⁉」
振り返ると、露がマスターの襟元を引っ張って引きずっている姿があった。
「ま、ままままま待て。な、何があったんだ?」
海は驚きすぎて眼鏡がずれている。
「ああ、実はさっきね」
数分前。
マスターは珍しく、サッカー部に参加していた。
「ん?山路?なんだよそれ?」
「これ?これやれば、目が良くなるんだって。試合も近いし、動体視力鍛えたらどうだ?」
「んー。まあ、話のタネに乗ってみるのも悪くないかもな」
マスターは山路から器具を貸してもらうと、光を目に当てた。
その瞬間、何かが切れる音がした。
「……」
「流!水筒忘れてたよ」
器具を持ったまま固まっているマスターに話しかけたのは露。
「おい菅沢、彼女が来たぞー」
「か、彼女じゃないわ‼」
露は後ろから話しかけてきた男子にツッコミを返す。
しかし、そんな会話内容にも微動だにしないマスターを不審に思ったのか、露が言う。
「どうしたの?流?」
「露ー!これ使ってみろよ。めっちゃ良いぜ」
「は、はあ?」
マスターが露に器具を向けてきた。
「……ちょ、ちょっと、やめなよ」
マスターが露に顔を近づけてきたとき、露が思わず腕を伸ばしてしまう。
「ううっ」
露はハッとした様子で、「え、りゅ、流?」と声に出した。
周りは部員たちが、顔面蒼白で露の方を見ている。
「……し、失礼しまーす……」
露はマスターの襟元を掴んで去って行った。
「さ、さすが、筝曲部で一番の腕力と美貌を持つ露ちゃん……」
歩美はその話を聞いて、驚いて顔面蒼白になった。
「マスターがこういうのに引っかかるのは珍しいな」
「この人がマスター?随分日焼けしてるね」
「この前に先生に同じこと言われてたよ」
雪は苦笑いしながら、マスターの顔を見た。
「山路はともかく、マスターは引っかかりそうにないけどなあ」
「こいつ、割と人を信じやすいからな。それも相まってモテる質なんだろ?」
歩美の言葉に海が返す。
「それより、雪、お前マスターの事知ってたのか?」
「まあな塾が同じなんで」
雪がマスターに近づく。
マスターの手元には先ほどの器具が握られていた。
「やっぱり持ってたか……」
「なんなのそれ?」
露はマスターの襟を放し、雪に近づく。
「なんかこれ、保健委員が配ってる胡散臭い機械だよ」
雪は呆れたようにマスターの手から器具を取り外した。
「とりあえず保健室行かないとな」
海はそう言って雪の手から器具を取ろうとした。するとその時露が、雪の手から器具を取ろうとした。しかし、雪の手から器具が放れない。
「さすが、美術部で一番の握力の持ち主だわ」
「ねえ、雪ちゃんの塾ってみんな一番の何かを持ってるの?」
歩美は苦笑いを浮かべた。