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前回までのあらすじ。紆余曲折あって、夏畑海(なつはたうみ)についての調査を終えた紗季と歩美は、学校に戻ってきたのだが、さっそく夏田海(なつだかい)から依頼が舞い込んできた。
依頼内容は、サッカー部で流行っている、目が良くなるという謎の器具を取り上げ、保健委員に注意してほしいという内容だった。
雪と絵菜、そして露とマスターと合流した3人は、保健室に向かったのだが、
「何よ!もぬけの殻じゃない⁉」
紗季が珍しく叫んでいる。
「ああー少し遅かったみたいだな」
「もーう!私が来た意味‼」
「いてっ」
絵菜が怒りのままに、雪の髪を引っ張る。
「もー、髪の毛括りなおさ」
その時、パチンとゴムがはじけて飛んで行ってしまった。
「あ」
「大丈夫か雪?」
海がゴムを拾うと、雪に渡した。
「え、あっ……」
雪は海の顔をじっくり見て、しばらくした後、ゴムを受け取った。
「ありがと……」
絵菜がその様子を見て、呆然としている。
「雪って……夏田さんの事好きなの?」
「なっ、そんなわけないだろ‼」
雪は少し顔を赤くしながら言った。
海はそんな彼女の様子を見て、ある出来事を思い出していた。
『そんなわけないでしょ⁉誰がこんな奴なんか‼』
海は眼鏡を直すと雪に言った。
「このゴム、誰かにもらったやつなのか?」
「まあな。私の親友みたいなやつ」
「へえ」
雪は髪を括りなおしながら、歩美に言った。
「なあ、どこに行ったのか分からないのか?」
「ああ、分かるよ」
歩美はゆっくり立ち上がると、保健室を出て行った。
「何も、保健室にいるとは限らない。これは、生徒会の倫ちゃんに聞くしか無いよね‼」
「でも、倫は今どこに居るんだ?」
「倫は確かテニス部だった気がするけど……」
露はマスターをおぶりながら言った。
「そうと決まれば行こうか」
保健室に居た全員が歩美に着いていった。
この学校のテニス部は、テニスコートが2つあり、2つのコートが校舎を挟んでいる。
普通なら、男子テニスと女子テニスが、話しているところは見たことが無いのだが……
「……猿だな」
「もーなんでなんだよ‼」
そこには、例の器具を進める男子テニス部だった。
「宗教勧誘かな?」
露は若干、顔に血管を浮かせて、怒った。
「お前ら何やってんのー?」
雪は少し大きい声で、倫に聞いた。
「ねえ、何とかしてよ‼」
倫は雪の腕を掴み叫んだ。雪は倫の手首を掴んで、冷静に言った。
「落ち着けって。何があった?」
「実はさ。私達、今週末試合なんだけどさ、男テニが変な器具持って、『これ動体視力上がるよ』って進めてくるのー」
「なるほど。今、その犯人を捜してるところなんだよ」
雪は落ち着いた表情で、倫に言った。
「犯人なら、あそこにいるよ?」
倫はコートの先、いやそれよりもっと先を指さして言った。指さした先にはゴマ粒みたいな黒い人が立っていた。
「ちっっっっっっさ‼」
「さすが、テニス部で一番の視力を持つ彼方倫。なかなかやるじゃないか」
「はぁ……とにかく、あの人を追えばいいんだね?」
「じゃあ、あたしら帰るか……」
雪が校舎の方へと方向転換すると、海が襟元を掴んできた。
「何勝手に帰ろうとしてんだ?お前も来い!」
「なんでだよー‼」
「……」
2人の様子を露が眺めて居た。
「あれ?起きたの?」
「あ?」
露の背中でマスターが目を覚ます。
「何してんの?」
「ちょっと色々あって……」
「マスター。俺、今週末試合があるんだよ」
「うん。で?」
今藤の話にマスターが仏頂面で返した。
「なのにさ、まだ未解決の事件が残ってんだよ。しかも、テニス部の他の部員も同じように変な機械持ってるし……」
「未解決事件?」
マスターが首を傾げると、今藤はきょとんとした顔で彼を見返した。
「ああ。あの二件の傷害事件だよ。一人は捕まったんだけどな、もう一人がな……」
「……そうか」
マスターは何か隠すような表情で言った。
「てか、お前ら仲良すぎ」
今藤は小馬鹿にするようにマスターの方を見た。
「おい早く下ろせ」
「なんでよー?」
マスターは露の背中で手足をジタバタさせた。
露はマスターをゆっくりおろした。
疾風のごとく、ゴマ粒のような男を追い続け、5分。
男との距離はわずか、数メートルになってきた。
「待って、早すぎだよ……」
「アイツ何者⁉」
雪は疲れ果て、そこに倒れた。
ちなみに、絵菜は呆れた先に帰ったようだ。
残りの三人はすごい速さで追い続けていたが、体力の限界で倒れてしまった。一人の男を除いて。
「待てこの野郎‼俺たちの練習をめちゃくちゃにしやがって‼」
海はすごい速さで男を追っていた。しかし男の方は余裕の笑みを浮かべた。
「捕まえられるもんなら捕まえてみろ‼」
男は、海の方を向くと、その余裕綽々の表情を彼に見せつけた。
「あ、お前、前」
海は立ち止まると、男はひるんだのか、さらに余裕の表情になった。
「なんだ?諦めたのか?やっぱ俺を捕まえるなんて百年早……」
ゴーン。
校舎の壁にぶつかった。さっきまでの余裕の表情は無くなり、男はその場に倒れこむ。
「馬鹿だなこいつ」
「あっ、海くん。捕まえた?」
「ああ。だいぶ足早かったけど。サッカー部なめんなよ?いっつも何キロ走ってると思ってんだ?」
海はゆっくり手を伸ばすと、男の胸倉をつかんだ。
「こいつ。よく見たら保険部長じゃないか」
「倫ちゃんの言ってることが正しければ、一連の事件の犯人は此奴ってこと?」
「まあ、そういうことでしょうね」
紗季は眼鏡を取ると、男の方をじっと見た。
「おい!起きろ‼なんでこんなことしたんだ⁉」
海がそう言って、男の身体を強く揺さぶった。
「い、いやなんでって別に……俺はただ、皆の視力が上がればいいと……」
「はあ?」
全く理解できなかった。
「今、生徒たちがゲームしすぎて、視力の低下が問題になってるんだ。それで、何か方法がないかと、探していたら、先輩が卒業する際に作った本に、この器具の作り方と効能が載ってたからそれ通りにしただけだ‼」
「なるほど。医者が医者の言う事を聞いたってことか。お前のせいで次の大会負けるだろ‼どうしてくれるんだ⁉」
海は男の胸倉をつかんだまま焦燥に駆られ、怒りのままに叫んだ。
「だ、だって、俺はほんとにただ皆を助けようと思って……」
「まあいいや。俺は引っかからなかったし……でも!ちゃんと皆に謝れよ」
「は、はい」
海は男の肩を叩いて言った。
海はゆっくり後ろを振り向くと歩美と紗季に言った。
「この器具、この男が作ったみたいなんだが、保健室の方に、この器具の本があったらしいんだが、まあ証拠も無いし、とりあえず警察に言っといたほうが……」
そう言いかけた途端。海はその場に倒れこんでしまった。
「ちょっと⁉海くん?」
歩美が驚いてとっさに海の身体を支えた。
「全く、無理して追いかけるからよ」
紗季は海の身体をそのまま屋根の方へと移動させた。
「はい。これで良し」
歩美、紗季、海の様子を後ろから見ていたのは、雪、と冴香。
「冴香。今日管理官に呼び出されてるんだろ?早く行った方が良いんじゃないのか?」
「そうね。どうやらマスターも居るみたいだし。さっさと行って帰ってくる。新しい依頼でしょうし……」
「管理官から伝えられる依頼は、危険人物、もしくは、それなりに大きな組織からの依頼である可能性が高い。例えば、ラトレイアーとかさ」
雪の隣で冴香は冷静に言った。
「忠告ありがと」
「ああ、じゃあな。また仕事で」
雪は小さく手を振って去って行った。