テラーノベル
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プールでの遊びを終え、夕焼けに染まる空の下、7人は貸し切りの家へと向かっていた。家のように温かみのあるその建物は、今夜の宿泊場所だ。風が心地よく、疲れた身体を癒してくれそうだった。
「はあ……プール、楽しかったなぁ」と円がつぶやく。
「まだまだ遊び足りないけどな!」リツが元気に叫ぶ。
玄関の扉を開けると、中は広々としていて、すぐにリビングと3つの部屋が目に入った。
「じゃあ、ここで部屋割りを決めるか」とケイが提案した。
「公平にくじ引きで決めましょう」カンジが即決する。
全員が並び、3つのくじを手にした。
1つ目のくじを引いたのはカンジ。紙には「プリンチーム:和室」と書かれていた。
「プリンチーム? 何それ?」円が不思議そうに聞く。
「カンジと円とケイの3人組だな」とケイが答えた。
2つ目のくじを引いたのはレキ。紙には「うさぎチーム:洋室」と書かれている。
「うさぎチームって、レキとココロだけ?」円がつぶやいた。
「そうみたいだな」とレキが肩をすくめた。
最後にリツとヒカルが引いたくじは「カメレオンチーム:一番大きい洋室」だった。
「わーい!カメレオンチームで広い部屋ゲットだぜ!」リツが嬉しそうに笑った。
「3つのチームに分かれて、それぞれの部屋か。面白いね」とココロが静かに微笑む。
和室には畳の香りが漂い、洋室は木のぬくもりと優しい灯りが落ち着きを与えていた。
「さあ、それぞれの部屋に荷物を置いて、夜の準備だ!」
そんな声に誘われて、7人はそれぞれのチームごとに散らばっていった。
最初に、**プリンチーム(カンジ・円・ケイ)**が和室の引き戸を開ける。
「うわ、落ち着く……!」と円が思わず声を漏らす。
畳の香りと、障子越しの夕焼けの光がやさしく部屋を包み込んでいた。中央には大きなちゃぶ台があり、その上には冷たいお茶とプリンが3つ並んでいる。
「これ……用意されてたの?」カンジが不思議そうに言う。
「プリンチームだからってことか?」ケイが少しだけ口角を上げる。
円が笑いながらちゃぶ台に座ると、カンジもその横に腰を下ろす。ケイは部屋の隅に荷物をきちんと並べていた。
「なんかさ、こういう静かな空間……いいね」と円がつぶやく。
「そうですね。騒がしくないのも悪くなですね。」とカンジも答える。
ケイは窓の外を眺めながら、そっとつぶやいた。
「……明日も晴れるといいな」
穏やかな空気が、ゆっくりと流れていた。
***
次に、**うさぎチーム(レキ・ココロ)**の洋室。
ドアを開けると、可愛らしい花柄のカーテンとふかふかのベッドが2つ並んでいた。小さなランプがともされ、柔らかな光が部屋を包んでいる。
「……なんか、ふたり部屋って、修学旅行みたいだな」とレキが笑う。
ココロは窓辺に立ち、遠くに沈んでいく夕陽を見つめていた。
「……夕焼け、きれいですね」
「うん。ココロに似合う色してる」
レキの言葉に、ココロは一瞬だけ目を見開いた。
「……また、そういうこと言う」
「チャラくないって、今回は本音だよ」
ココロは少しだけ頬を赤らめ、ベッドに座った。そしてそっとリュックを足元に置いた。
「……この部屋、落ち着きますね。静かで」
「オレ、静かにするの苦手だけど……ココロと一緒なら、なんか落ち着くかも」
「……ふふ、なんだかそれ、ちょっと嬉しいです」
心の奥に、あたたかい静けさが流れた。
***
そして最後、**カメレオンチーム(リツ・ヒカル)**の一番大きな洋室。
「よーし!!ここがオレらの王国だーッ!!」
入った瞬間、リツが叫ぶ。ヒカルは荷物を置きかけていたが、その瞬間——
「おい!そこオレ様のスペース〜!てか飲みかけのジュース倒れてんだけど!?!?」
「うわっ!?やべ!!あーも〜ヒカルのせいだってば!」
「なんで!?!?」
あっという間に床にはタオル、Tシャツ、ガジェット類が散乱。
「おまえのリュック、爆発物でも入ってんのかよ!」
「違うって!僕の中身、自由すぎるだけ!!」
カオスな空気の中、二人はワチャワチャしながらも楽しそうだった。
「でも、まあ……広いから散らかしても大丈夫っしょ!」
「いや、片付けてよ!?ほんとに!」
と、騒がしいカメレオンチームの部屋には、早くも混沌と笑い声が満ちていた。
夕食が終わると、宿のロビーに7人が集まった。
「はー、満腹満腹〜!あの唐揚げ、外カリ中ジュワだったね!!」
「リツ、食べすぎ。デザートまで2周してたでしょ」
「仕方ないじゃん、美味しかったし!!」
ヒカルとリツがわちゃわちゃやりながら、外履きに履き替えている。
「さて……散歩がてら、温泉街に行ってみるか」
ケイが腕時計をちらりと見ながら言うと、円がうれしそうにうなずいた。
「うん。お土産屋さんとか、楽しそうだよね」
「……射的とかあるかな」と、カンジがひと言。
玄関の引き戸を開けると、外にはちょうど夕闇が落ち、提灯のような街灯がぽつぽつと灯っていた。
夏の夜の空気は少し湿っていて、浴衣姿の観光客がちらほら歩いている。
「うわー、風情ある〜〜!」
「ね、見て!浴衣レンタルもあるっぽいよ!」
円とココロが並んで歩きながら、きょろきょろと周囲を見回す。
「ココロちゃん、あれ……金魚すくいだよ!」
「……やってみます?」
「うんっ!」
二人が楽しそうに並ぶ後ろで、レキは少し後ろからついてきていた。
「……なんか、雰囲気よすぎじゃね?距離感が……」
「レッキー、嫉妬してる〜?」「してねぇし!」
その後ろでヒカルとリツも何やら綿あめを巡って軽くもめている。
「ヒカル、おまえそれ独り占めじゃね!?分けろやー!」
「食べ物に関してだけマジで怖いんだよな、リツ……」
カメレオンチームのテンションは相変わらず高く、温泉街の静けさの中で浮いているようだった。
***
その後、それぞれが自由に小さなお店を回ったり、射的で競い合ったりしながら、夜の街を満喫した。
途中、小さな足湯を見つけて、みんなで腰をかけることに。
「……こういう時間、いいですね」
と、ココロがぽつりとつぶやく。
「なんか、現実じゃないみたい」
と円が続けると、ケイが静かに頷いた。
「非日常は、たまには必要なんだよな」
カンジもタオルで足を拭きながら、どこか安心した顔で言った。
「……でも、みんなと一緒だから、落ち着いて楽しめる気がする」
「ってか、明日も遊べるんだよな?最高かよ」
リツが腕を広げて空を見上げる。
「……うん、明日も、楽しもう」
ココロのその言葉に、夜の風がやさしく吹き抜けた。
夜の温泉街に戻った7人は、宿の裏庭で用意された小さなスペースに集まっていた。
「よーし、やろうぜ花火大会!」
リツが張り切って火をつけ、線香花火を一本ずつ手渡していく。
「うわ、ひさしぶり〜!」
「懐かしい……子どものころ思い出すね」
ヒカルや円も笑いながら、線香花火の小さな火を見つめる。
「……火が落ちる寸前、ちょっとドキドキするよね」
とカンジが言えば、
「火の玉、最長時間記録とかやるか?」とケイが少しだけ乗り気に。
庭には、ぱちぱちと音を立てる手持ち花火の光が揺れていた。
その中、ココロも楽しそうに笑っていた。
「見て、これ!すごく色がきれい……!」
手にした噴出し花火が、青と白の光を勢いよく吹き出し、ココロの顔を照らす。
その表情は、普段の彼女からは想像もつかないほど、生き生きとしていた。
「ココロちゃん、めっちゃ笑ってるじゃん!」
「うわ〜貴重ショットだわ〜〜!」
とリツとヒカルがはしゃぐ中、ココロは自分のリュックからカメラを取り出す。
「ちょっと……撮らせてください。みんな、動かないで……」
「えっ、いま!? 花火やってるのに!?」
円が笑いながらもポーズをとると、ココロはファインダーを覗き、静かにシャッターを切った。
──パシャ。
手持ち花火の明かりに照らされたみんなの笑顔が、写真の中に焼きつけられる。
「はい、次こっち向いて……レキくんも」
「オレ? そんなにカッコよかった〜?」
と得意げに胸を張るレキ。
「……フツーです」
「フツーかよっ!!」
ココロがくすっと笑ったその瞬間、レキは彼女のカメラをそっと奪うようにして手に取った。
「じゃ、今度は俺の番な」
「え……?」
ココロが戸惑っていると、ちょうど風がふわりと吹いた。
下ろしていたココロの髪が風に舞い上がる。
柔らかい月明かりと残り火の照り返しが、彼女の横顔をそっと照らした――
──パシャッ。
レキは一瞬も迷わず、シャッターを切った。
「……ナイスショット!」
と、目をカメラから外さずにキザに笑ってみせる。
だけど、いつもと違ったのは、ココロがすぐにツッコミを入れるでもなく。
「ありがとう。」
そう言って、少しだけ照れたように、でも心からの笑顔を浮かべたことだった。
「……なんだよそれ。マジ笑顔、じゃん!」
レキは言って、ファインダーの中の彼女をもう一度見た。
さっきまでのはしゃいだ顔も、いまの静かな笑顔も――
どちらも本物の、ココロだった。
そして花火の煙が、ゆっくりと夜空へ溶けていく。
夏の夜は、まだ終わらない。
夜の部屋。窓辺に立つココロの表情は、どこか物憂げで、それでもどこかやさしげだった。
その静かな笑顔を、背後からレキが見つめていた。
ふと、レキが一歩近づき――ぐいっとココロの手首を引き寄せたかと思うと、
壁際で彼女を閉じ込めるように、片手で壁に触れた。
「……これ、図書室のお返しな?」
いたずらっぽく笑ったその顔は、どこかいつもより真剣だった。
レキはそっと、ココロの髪に青いうさぎのピンを止める。
「……レキくん、それ……」
「お前、今日……反則だったよ。
笑い方とか、目とか……あれ見たら、そりゃあもう、オレも無防備になるって」
その言葉に、ココロは小悪魔のように微笑んで返す。
「そうですか。私が反則なら……お互い様では?
男の子にしては、ずいぶんずる賢いですね。」
「はは、辛口」
それでもレキは楽しそうに笑う。
しかし次の瞬間、ココロがふと視線をそらして、手を髪に添えた。
そして、ピンを少し指先で触れながら口を開いた。
「……このうさぎの意味は?」
その一言に、レキは一瞬だけ息を飲む。
(……気づいたのか)
レキの目が大きく見開かれる。
まさか、ココロが“飾り”以上の意味に感づくとは思っていなかった。
「……いや、意味なんか……あるけどさ」
レキはごまかすように笑おうとしたが、その目だけは真剣だった。
ココロはその視線から目を逸らさず、ただ静かに待っていた。
レキは、少し肩の力を抜き、ぽつりと告げた。
「……『君しか見てない』って、意味」
ココロの目がわずかに見開かれた。
「オレが……他の誰でもなく、お前を見てるって。そういうサイン。
うさぎって、あんま目をそらさない動物なんだって。だから、青い目のうさぎ。お前だけ見てるよって」
しばらく、静かな間が流れた。
ココロは視線を伏せたまま、小さく笑った。
「……ふふ。それ、ちょっとキザですね」
「だろ?」とレキが口元をゆるめる。
でも、次に顔を上げたココロの表情は――
まるでさっきの笑顔とは違って、どこかふわっとした、柔らかいもので。
「でも……嫌いじゃないです」
レキは目を細めて、その笑顔をしっかりと心に焼きつけた。
窓の外では、風がやさしく夜の街を撫でていた。
ピンに留められた青いうさぎが、ふわりと揺れる――
ココロは少し微笑んで、くすっと笑いながらレキを見上げた。
「……そういえば、私があげた狐のピンにも意味があったんですよ? 気づかなかったんですか?」
レキは一瞬戸惑ったように目を瞬かせ、口元に苦笑を浮かべた。
「……鈍感だね、本当に」
ココロはちょっとだけ得意げに、でもどこか優しく言った。
「やっぱりココロには負けるな」
レキはぽつりとそう呟いてから、ふたりで窓の外を見た。
夕暮れから夜へと移り変わる温泉街の灯りが、穏やかにきらめいている。
遠くには山のシルエットがぼんやりと浮かび上がり、空には星がひとつ、ふたつ……。
「……綺麗だな」
レキが小さな声でつぶやくと、ココロも静かにうなずいた。
静かな夜風が二人を包み込み、時間がゆっくりと流れていく。
そんな穏やかなひとときが、二人の間に新しい何かをそっと灯していた。
つづく
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