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リナ
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ceri
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⚠パロ、srfが♀
昔々あるところに、ひとつの王国があった。大きなその国の中央にそびえ立つ城、今宵はその大広間で定期的に開かれるダンスパーティの夜。大広間では演奏家たちがワルツを奏で、貴族たちが優雅に舞う。
国中の貴族が集められる社交界。その裏の目的は、国王の婚約者探しだという噂がまことしやかに囁かれていた。
玉の輿を狙う女性たちが王をダンスに誘おうと必死になっている中、広間を離れテラスへと出ていく娘がひとり。
「……気分悪…」
王国の外れ、城からは馬車を使っても丸一日かかる程遠くに位置する小さな田舎町の領主であるダズル家の一人娘、セラフ。
一応貴族ではあるが階級は一番下、貧乏貴族と言って差し支えない状況から脱出するために、親に言われてコネを作りにきたのだが、あちこちで貴族たちがグラスを揺すりながら気取って飲んでいる酒の匂いにやられてしまった。
誰もいない月明りのテラスで、はぁ、とセラフはため息をつく。
そもそも、本当は乗り気でなかったのだ。
コネ作り……すなわち、家の道具として政略結婚。
何人かの男と話はしたけれど、セラフの身分を知るや否や、初めは紳士的な好青年だった男たちは手のひらを返した。見下され、嫌味を言われ、それでも笑顔でグッと我慢するのにも疲れた。
唯一の幸せ、あるいは不幸は、セラフがここにいるどの女性よりも美しかったことだ。
軽くあしらわれて当然の身分差、関わったところで向こうに得はひとつもないにも関わらず、その美貌故に男たちは付け入る隙を見せた。
しかし。結局セラフはそこに踏み込んでいくことはできなかった。権力者共に媚びへつらって生きていくなんて、まっぴらだったから。
そういえば、王様はどこにいるのだろう。広間では見かけなかった。わざわざ田舎から城へやってきた土産として、この国の王様の顔を間近で見てみたかったのだけれど。
まぁ、どうでもいいか。なんだかもう何をする気力もない。再び大きくため息をつく。
「ため息ばっかついてると幸せが逃げちゃうな」
「っ!」
どこからか声が聞こえ、驚いてきょろきょろと辺りを見回すと、テラスの柵の向こう、暗がりで顔はよく見えないが、中庭の茂みの陰からひょっこりと誰かが顔を覗かせている。
どこの誰だか知らないが、姿も見せずにいきなり話しかけてきて、ぶしつけな奴だ。そんなやつに礼儀だのなんだの気にしてやる必要はないと判断してセラフはぶっきらぼうに返事をした。
「……余計なお世話、私の勝手でしょ?」
「ん、何怒ってんの? お姫様。 あっ、もしかしてダンスパーティが退屈だった?」
「退屈どころか最悪だね。お酒臭くて気分が悪いし。ダンスは別に嫌いじゃないけど、そんなもの踊ってる場合でもないし……あぁでも、曲は良かったかなぁ。聞いたことのない曲だったけど」
「おっ、ありがと!あれ、俺が作ったんだ」
「……へぇ?」
ということはこの男は、王室御用達の作曲家か何かだろうか。確かこの国の王様も音楽に造詣が深いというし、わざわざこのパーティのために呼びつけたのかもしれない。
「でも、それじゃあ何しに来たんだ? …あ…もしかしてお前も、王様との結婚を狙ってきたとか?」
「……近いけど違う、両親に言われてコネを作りにきたの。いい人を見つけてきなさい、ってね。うちは貧乏貴族だから……でも、そんなプライドのないことしてるのが馬鹿馬鹿しくって。政略結婚なんかしなくても、私は私自身の実力でのし上がってやりたい。政治でも学問でも芸術でも、なんでもいい……世界中に認めさせたい。みんなは女のくせにって笑うけどね」
「……ううん。そんなことない」
「ありがとう。…あなたこそ、なんでこんなところに?」
「だってあそこにいたら結婚だの何だのってうるさいから。 俺はこんなパーティー開きたくないって何度も言ったんだけどさ、だぁれも聞いてくれない。つまりこれは俺を結婚させたがってる連中の陰謀ってわけ。」
「……え?」
「愛のない結婚なんてうすら寒いだけだろ、 血筋になんの意味がある? 誰もが貧乏人だからって嫌っているやつは実はとっても頭が良くて優しい奴かもしれない。 そいつがどこの誰かなんて関係ない、どんなやつかっていうのが大事なのに、なぁ、お前もそうは思わないか?」
勢いよく立ち上がって演説じみた口調で持論を述べながら、男はセラフの方へと近づいてきた。
窓から漏れ出る明かりに照らされてようやく露になったその男の顔を見て、セラフは驚愕する。
「……あ、え、あんた、」
明るい紫の髪、吊り目ぎみなイエローアイズ。新聞や肖像画で見たのと同じ顔。
セラフが土産代わりに見たがっていた国王、渡会雲雀その人だった。
「だからお姫様、おまえもお城にくればいい。俺はどこのどんなやつでも受け入れるから。ここならきっとお前にピッタリの仕事があると思う」
「……お城…に」
確かに、国の中心部はセラフの暮らす田舎町より労働賃金が高いし、世界各地から人が出入りするため人々の交流も盛んで、様々な設備も整っている。資金を稼ぐのにも知見を広げるのにも持ってこいではないだろうか。
城で働くことができるなら、何か新しい道が開けるかもしれない。
思案し始めたセラフの視界に、スッと深い赤色がチラついた。
見ると、雲雀がいつから持っていたのか一輪の赤い薔薇をセラフに差し出している。
「これ、」
「いま摘んだ。ここら辺一帯は薔薇の木でな。ちょうど見頃なんだけど、こっちからじゃ暗くてよく見えないか。天気のいい朝なんかは最高なんだ」
「……素敵」
「ふふん、だろ。ちょっとじっとしてて」
「……?」
テラスの低い柵越しにセラフの髪に薔薇を差し込んだ雲雀は、うっとりとセラフの顔を見つめる。
「これはおまえにあげる。……うん。綺麗だ。薔薇のお姫様」
「……っ、」
綺麗だ、なんて、言われ慣れていると思っていたのに。
今までのセラフを見下してきた男たちが言うのと全く違う響きを纏ったその言葉はセラフの心を酷く揺さぶった。
「なぁ、ほんとに城にこない? 俺、なんだかすっごく……」
『王! 見つけましたよ!』
そんな叫び声と共に中庭の向こうから、城の騎士だろうか、バタバタと複数の男たちがこちらに向かって走ってくる。
「やべっ、見つかった! ……うわっ、なんだその数!」
「こんな大事なパーティーの日にまで、あなたという方は……! 逃がしませんよ!」
慌てふためいた雲雀はセラフを置いてものすごいスピードで走り去って行ってしまった。
それを大勢の男たちが追いかけていく様を、セラフは唖然として見ていた。
途端に静まり返った中庭のテラスで、一人立ち尽くすセラフ。今までのことは夢だったのではないかと思ったが、ふと触れた髪には確かに薔薇が差し込まれている。
……夢ではない。王様と出会ったことも。この胸の高鳴りも。全て。
「……お城に、くれば」
貧乏貴族脱却の足掛かりになる。身分の高いやつらに媚びへつらわずに生きていくことができるようになるかもしれない。
それに、また雲雀の近くに行くことができる。たった一瞬でセラフの心を掴んでしまった、あの王様の傍に。
……別にそれは、何だか想像よりおかしな王様に少し好奇心が沸いただけだけれど、と心の中で誰にでもなく言い訳をして。
やってやろうではないか。
そう意気込んで、まずは両親をどうやって説得するか考えを巡らせながら帰路についた。
ーーー
「…あっ! 名前聞くの忘れてた… アキラたちが急に押しかけてくるから~っ!」
「うぐっ、ま、まさか女の方と話していたとは……ですがそれはっ、あなたがいつもフラフラと逃げ回っているから! 文句は日頃の行いを見直してからにしてください」
「ぐすん……俺の薔薇のお姫様……」
一方その頃。雲雀はどうしても彼女のことが頭から離れなかった。
一目見た時から、その美しさに心を奪われた。桜と同じ色の長い髪、泉のように澄んだ赤い瞳、冷たくすら感じられるそれらからは想像もつかないような熱を持っている。それに、声。夜のしじまに響くあの心地の良い声で、自分の作る曲を歌ってくれたならどんなに素晴らしいだろう、と想いを馳せることをやめられない。
こんなに心を掴まれたのは初めてだ。政略結婚を嫌っていた彼女は嫌がるかもしれないが、できることなら、結婚するのなら彼女がいい。それが叶わなくとも、もう一度彼女に会いたい。
必ず見つけ出してみせる。雲雀はそう決意した。
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