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来る(きたる)土曜日。
「帆歌ー。お菓子はたぶん栗鼠喰(りすぐい)さんが持ってくるから」
「はい」
「飲み物だけお願いできる?」
「はい。なるべくご希望のお飲み物をお届けします」
「…ま。大丈夫でしょ。どうせ紅茶類よ」
朝から慌ただしい狐園寺(こうえんじ)家、美音周辺。それもそのはず。
土曜日、クラスメイトで仲良くなれそうな気配がしている栗鼠喰(りすぐい) 栗夢(クリム)と
宝孔雀(ホウクジャク) 光(ヒカリ)が遊びに来るのだ。
「部屋。綺麗?帆歌帆歌!ちょっと見て」
「はい!」
飲み物、軽食を出す係の者もお嬢様の来客ということで慌ただしい。
掃除係もいつもキチンと掃除しているとはいえ
念入りに廊下の掃除やトイレ、リビングなどの掃除をしている。
「綺麗だと…思います。はい」
「ほんと!?ほんとに!?」
いつも疑り深い美音だが、今回はさらにである。
「はい。大丈夫…だと思いますが」
「おぉおぉ。今日はなんぞ?騒がしい」
帆歌の姉、波歌(なみか)が現れた。
「お。野生のなみ姉だ」
「人をポシェモンみたいに言うなよー。どーしたの帆歌ちゃん」
「どうしたのって。今日美音お嬢様のご学友が遊びにいらっしゃるの」
「あぁ。そうなの。あれ?聞いたっけ」
「なみ姉!なみ姉はどう思う?私の部屋綺麗?」
「お?」
波歌が美音の部屋を覗く。
「おぉ。まあ。綺麗じゃん?」
と言った波歌をジト目で見た美音。
「そうだ。なみ姉の部屋散らかってるのよね。なみ姉に聞いた私がバカだったわ」
「おい!失礼な!これでも美意識はあるって。女優ぞ?」
「…。まあいいわ。帆歌の言葉を信じる」
「ありがとうございます」
あとはソワソワしながら友達を待つだけ。
「私はこーくんのとこでも遊びに行くかな」
「あ!ズルッ…」
と言いかけたところで口を手で塞ぐ帆歌。
「お?ズルい?ズルいって言おうとした?帆歌たん」
「…ん?いや?ズル…ズル…ズルッっとうどん!ズルッっとうどん食べたいなぁ〜って」
「ほおぉ〜?ま、いいや。じゃ、ちょっくら準備をしてぇ〜」
と自分の部屋へと行く波歌。しばらくしたら
「じゃ、行ってくるわ」
とほぼほぼノーメイク。連続ドラマでそこそこいい役を与えられている女優とは思えないラフな服装に
一応女優なのでというように、取ってつけたようにキャップを被った波歌が現れた。
「…なみ姉。さっきの美意識ある発言は嘘よね」
と波歌をジト目で見て言い放つ美音。
「え。ダメ?…いや、まあ、ぶっちゃけ会うのこーくんとつーくんだからね。
キメて行く必要ないっしょ」
「幸くんと会うのに?」
「司と会うのに?」
美音と帆歌がハモる。
「ほぉ〜。お2人さん。芸能人じゃなくて良かったのぉ〜。芸能人だったら今の発言、特大ゴシップでっせ?」
とニマニマした顔で言うと
「じゃ、いってきまーす」
と波歌は出掛けて行った。
「お姉ちゃーん」
栗夢が呼ぶとお店の奥からひょこっと2人顔を覗かせる。
「「どっち?」」
この2人が栗夢の姉、祭楪(まっちゃ)、27歳。実家であり
有名洋菓子店Les joues de Chestnut tombent(レ・ジューン・デ・チェストナッツ・タンブ)の社員。
もう1人、千夜越(チョコ)、22歳。今年大学を卒業するはずだったが留年した。
「留年してないほう」
「失礼な!あんなぁ〜?クリームも大学行けばわかるって。大学マジで自由すぎて単位落としまくるから」
千夜越がプンスコ言う。
「でも抹茶姉はちゃんと卒業…したよね?私あんま覚えてないけど」
「私?私は経済学んで、途中で経営を学んだから、2年ほど卒業は遅れたよ」
と祭楪が言うと
「ほらぁ〜。な?大学生になればわかるって。クリームもほぼ確で留年するから」
「可愛い妹にそんなこと言うな」
頭を軽くチョップされる千夜越。
「あいたっ」
「んで?クリーム。どうしたの?」
「あ、今日この後狐園寺さんのお家にお邪魔するって言ったじゃん?」
「おぉ。前、うちに来る狐園寺さんね」
千夜越がうんうん頷きながら言う。
「私会社にいたから会えなかったんだよね。あ、遊びに行くからなんか持ってくって話ね」
祭楪の言葉に頷く栗夢。
「ちゃんと用意してあるよ」
「おぉ。さすが抹茶姉」
「たまにはチョコ様も崇めてくれよぉ〜妹ちゃんよぉ〜」
「お酒飲んでないよね?」
「飲んでない」
「一応、うちの代表、抹茶ケーキ、チョコケーキ、ショートケーキと」
「私ら3姉妹ケーキね」
千夜越が笑顔で言う。
「あとはアップルパイとかフィナンシェとかいろいろ入れてあるから」
と祭楪が紙袋を栗夢に渡す。
「ありがと!」
「くれぐれも狐園寺さんによろしくお伝えしてね」
「わかった」
「ほんとになにも持っていかなくていいの?」
宝孔雀(ホウクジャク)家では光の母が遊びに行く準備をする光に問いかけていた。
「いいんじゃない?菓子折り持ってくとしても
栗鼠喰(りすぐい)さんとこのほうが本格だし。持ってく意味ないっしょ」
「じゃ、なにかアクセサリー類でもプレゼント」
「こないだ限定品プレゼントしたじゃん」
「あれは娘がお世話になるかもしれないから、よろしくお願いしますという意味を込めて」
「別に大丈夫でしょ。本物のお金持ちはなんか手土産なかったからって
怒ったり、仲良くしないなんてことないよ」
遠回しに美音に、狐園寺(こうえんじ)家に信頼を置いている光。
そんな娘を見て、嬉しそうな表情を浮かべる光の母。
「でも光。あなたはネックレスとかイヤリングとかしていけばいいのに。
もっとこう、着飾って。なんでピアスの穴塞いじゃったのよ。あなたに似合ってたピアスあったのに」
「…。前も言ったじゃん。私の趣味に合わないんだって。そーゆーのは円華(まどか)が担当だから」
円華とは光の妹。今年中学2年生になった、本格的にオシャレに目覚めるお年頃である。
「んじゃ。行ってきまーす」
「行ってきます!」
光と栗夢は家族に見送られ家を出た。2人ともほぼ同時に白樺ノ森学院の正門の前に着いた。
「あ。宝孔雀さん!」
光は手を大きく挙げる栗夢に軽く手を振る。ワイヤレスイヤホンを外しながら栗夢に近づく。
「おは」
「おはようございます!」
「だいぶドレスアップしてきたね」
「宝孔雀さんはぁ〜…カジュアルですね」
「ん?まあ」
栗夢はフォーマルとカジュアルの間。ロングスカートに袖にフリルのついた服。
一方光は、黒のストッキングにジーンズのハーフパンツ
オーバーサイズのオフホワイトのトレーナーに、黒のニット帽。
「なんか変に緊張します」
「そお?…まあ、多少はあるけど」
栗夢の紙袋を見て
菓子折り持ってこなくて正解
と思う光。2人が到着する前に帆歌はもう車で白樺ノ森学院に到着しており
駐車場に車を停めていた。正門に向かうと2人が立っていたので、急いで小走りで近寄る。
「すいません。お2人とも。お待たせしてしまいました」
「おぉ。帆歌さん。おはようございます」
「おはようございます」
「おはようございます」
「全然待ってないですよ。ほんと今来たばかりなので」
「はい」
「それより私たちのほうがお待たせしてしまいましたかね」
「あ、いえいえ。私も今し方到着しまして、駐車場のほうに車を停めてきたところですので」
「あぁ。そうか。駐車場」
「そっち行けばよかったですね」
「だね」
「いえ。私がもっと詳細にお伝えすればよかったです。申し訳ありません」
「「いえいえ」」
「ではこちらへ」
栗夢と光は帆歌の案内で白樺ノ森学院の駐車場へ。帆歌が車のキーで遠隔で鍵を開け、後ろのドアを開く。
「あ、ありがとうございます」
「すいません。ありがとうございます」
栗夢と光が車に乗り込む。
「では、ドアをお閉めします」
「はい」
「お願いします」
スライドドアを閉めると自動でゆっくりと閉まる。帆歌は運転席へ回って車に乗り込む。
シートベルトをして、安全確認を怠ることなく、前後左右を確認し
「では、車動きます」
と後ろの2人に告げる。
「はい」
「はい」
ゆっくりと車が動き出し、白樺ノ森学院を出る。
「帆歌さんっておいくつなんですか?」
光が聞く。
「私は現在21歳で、今年誕生日を迎えますと22歳になります」
「あ。そうなんですね」
「大学4年生の歳だ」
「そっか。でも大学は行けないんじゃない?執事で忙しいだろうし」
「あ、たしかに」
「いえ。大学へは通わせていただいております」
「あ、そうなんですか?」
「はい。今年大学4回生となります。なので来年卒業ですね」
「卒業できそうですか?」
「はい。お陰様で。あとは4回生の講義をいくつか取って
卒業論文を書いて提出して、承認してもらえれば、あとは卒業式を迎えるだけで卒業という感じですね」
「すごい。うちの姉なんてなんもしてないのに大学留年したんですよ?」
光が栗夢の発言に笑いそうになるが
「おぉ」
という、なんともいえない相槌で留める。
「なんか自由すぎてダメだーとか言って」
「まあ、たしかに大学生って、おそらくですが
人生で一番遊べる期間なので、卒業できない方も多いらしいですよ」
「へぇ〜」
「へぇ〜。でもたしかに執事さんのお仕事してるのに、大学の講義出れる時間あるんですか」
光が聞く。
「あ、私は基本的にお嬢様が学校へ行っている間に出れる講義をなるべく取って
パソコンのリモートでも講義に出席したことになるので
それで出席率を稼ぎつつ、あとは試験で合格点を取ればっていう感じですね」
「はえぇ〜。すごいなぁ〜」
車内でそんな話をしながら狐園寺家へと車は走っていった。
「本日の朝食はアメリカから直送していただいたハリウッドセレブも御用達のコーンフレークに
北海道から直送していただいた、今朝、乳牛から搾ったばかりの牛乳をかけてお召し上がりください」
寝癖のついた司の朝食を幸が説明していた。
「ありがとぉ〜」
「いえ。そして搾りたて100パーセントオレンジジュースでございます」
「すごいね。ちなみに。ちなみのだけど、今日の朝ご飯、値段にするといくらくらいなの?
「いくら。いやらしいこと聞きますね」
「え。そお?でも小さい頃は、よくいいお肉とは食べるときは
教養のためだって言ってグラムいくらか。みたいなの教えてくれてたけど」
「そうでしたっけ」
幸をはじめとした鷺崎家も招かれ、一緒に夕食を食べることも少なくなかったが
幸はそのとき、値段の話も聞かず
うんまっ
と思い食べていた。
「朝食セット、おいくら?」
「…そうですね…。ただ全部直送していただいておりますので
値段を決めるのは難しいですね。すいません。プライスレスということで」
本当はnyAmaZonで購入した350g x 6袋のコーンフレークに
近所のスーパーで買った1本1リットル110円の牛乳に
同じスーパーで買った1本1リットル160円のオレンジジュースである。
ちょっとオレンジジュースを味見をした幸は
少し渋みが強く、酸味は多少感じるものの、甘味をほぼ感じなかったため
はちみつを入れようとしたが、はちみつだとはちみつ独特の香りがオレンジの香りにぶつかってしまうと考え
ガムシロップを入れて甘さを整えた。
なので、コーンフレークに牛乳、オレンジジュースでおそらく600円前後である。
「いただきます」
「どうぞ」
と朝食を食べていた。
「ご馳走様でした」
「お粗末様です」
「じゃ、僕は今週の授業の復習してくるね」
「さすがです。あまりご無理はせず」
「うん。勉強そんな好きじゃないから頑張りはしないよ。ありがとう」
と言う司に
勉強あんま好きじゃない。で朝ご飯食べて授業の復習?
…オレも勉強好きじゃなかったけど、復習なんて人生で1回もしたことないぞ?
なんなら朝ご飯食べた後寝てたし
と思う幸。司が自室に戻ったのを確認し
「さて、オレも朝ご飯かな」
と呟き、執事の服を脱ぎ、ハンガーにかけ、ハンガースタンドにかけ
下着のパンツ一丁になり、司と同じ朝食をローテーブルの上に並べる。
「いただきます」
手を合わせ、コーンフレークに牛乳をかける。シャワシャワシャワとなんとも心地良い音をたてる。
大きめのスプーンでかき混ぜると、またもシャワシャワと音が鳴る。
牛乳とコーンフレークをスプーンで掬い上げ、口へ運ぶ。
「んんんん。…うま」
美味かった。爽やかな牛乳に牛乳と比べると少し味が濃いコーンフレーク。
まだカリカリのコーンフレークの食感も良かった。ガムシロップ入りのオレンジジュースに手を伸ばす。
一応司に出す前にガムシロップの量を調整するために味見をして味は知っていたが
「おぉ〜。まあ。うん。まあまあ」
まあまあだった。
「やっぱオレンジジュースとかは値段である程度レベルって変わるな」
グラスを回し、中のオレンジジュースを回す。
「ご馳走様でした」
手を合わせて、ソファーに寝転がる。
「はぁ〜…っ…あ」
あくびが出る。
「寝るか。12時頃…2時間くらいは寝れるかな」
とスマホのアラームを11時50分にセットして寝ようとしたとき
ピンポーン。ピンポーン。インターフォンが鳴る。
「ダルゥ〜〜」
と天井に吐き
「よいしょ」
と立ち上がり、インターフォンモニターに近づく。そこにはキャップを深く被った女性が。
顔ははっきりとは見えないものの幸は察した。しかしまだ違う可能性もあるので、通話ボタンを押し
「はい」
と出ると、インターフォンモニターに映った人物はキャップを上げ
「あ、こーくん!遊びにきたよー」
笑顔を向けた。紛れもない波歌である。
「間に合ってます。お帰りください」
終了ボタンを押しソファーに戻ると、玄関からガチャッっという音が聞こえる。
「おいおいおい。間に合ってるとはなんだ」
波歌が入ってきた。
「あぁ。そうだ。なみ姉合鍵作ったんだった。そうだ。犯罪者だった」
「誰が犯罪者よ。それを言うなら売れっ子女優に下着を見せつけるこーくんだって犯罪者だよ?」
「見せつけてねぇ。勝手に入ってきて勝手に見てんのはそっちだろ」
「ま、いいや。お邪魔んぬ」
幸の執事の服がかかっているハンガースタンドにショルダーバッグと上着をかける波歌。
「なんか飲み物飲んでい?」
「ご勝手にー」
波歌は自分のグラスを食器棚から出し、冷蔵庫を開く。
「おいおいおいおい。高級ジュースとかないわけ?」
「ない。あってもなみ姉には出さない」
「こーくん私の扱い酷ない?」
仕方なくオレンジジュースを注ぎ、1口飲む。
「苦っ」
「どうせドラマの現場でいいもん食べてんでしょ」
「まあ、食べてないことはないけど。でも案外辛いのよ?
ほら、ロケ弁とかでいいロケ弁とかあるし、あと共演者の方が差し入れとかしてくれて
めちゃくちゃ美味しいカツサンドとかあるわけ。
でもさ?撮影最中に太るわけにはいかないからバクバク食べれないわけよ」
「あぁ。なるほどね」
「ほら。日に第1話のシーン21とか第4話のシーン2とか撮るわけよ。だから、ね?
繋がり的にあんま太れないからあんま食べれないわけ。維持よ維持。辛いよぉ〜?」
「なるほどね」
「こーくん、ちゃんと聞いてる?」
「眠くて眠くて」
「執事としてどうなのよ。朝眠いって」
「別にいいでしょ。っ…はぁ〜…っ…あぁ」
あくびが出る。
「あ、夜遅くまで仕事してたとか?私も撮影で深夜とかあるから
次の日の朝、早くから撮影あるときは眠いのわかる」
「そうそう。昨日夜遅くまでゴッドリーダーを…。マヤカシ狩まくってたわ」
「ゲームかよ」
「今日は?なんでなみ姉来たの」
「いや、今日さ?美音ちゃんのお友達が遊びにくるんだってさ。だから、まあ、出てきたわけよ」
「はあ…。…あんまわからんけど」
「いや、せっかく美音ちゃんのお友達が来るのに
こんなセクシーで可愛くて美人で大人気女優がいたらビックリしちゃうでしょ」
「あー…。はいはい。そうですね」
「ちょっと!流さないでよ!」
騒がしい司と幸の家の一方、栗夢と光を乗せた、帆歌が運転する車は狐園寺家の門を潜っていた。