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栗夢(クリム)と光を乗せた、帆歌の運転する車は
狐園寺(こうえんじ)家の大きな門から中に入り、車用の大きな門を入ってすぐの広い駐車場で停車する。
駐車場にはすでに数台の車が停まっており、来客用の駐車スペースも多く存在していた。
「え。ここ駐車場?」
「広ーい」
絶句するほどの広さ。
「車を停めますので、一旦ここでお降りいただいて、私が車を停めた後、ご案内致します」
「わかりました」
「はい。わかりました」
と言うと帆歌は運転席から降り、後ろのドアに回って後ろの席のスライドドアを開けた。
「あ、ありがとうございます」
「すいません。ありがとうございます」
と栗夢と光が降り立った。
「え。修学旅行のバスから降りた感覚なんだけど」
「!めっちゃわかります!」
思わず光の手を握る栗夢。
「ここが駐車場か」
「広いですね」
駐車場から飛び石のような道が林の中へと続いていた。
「え。ヤバ」
「敷地の中に林があるんですね」
「エグ金持ち」
帆歌が車を停めて
「お待たせいたしました」
と合流した。
「こちらになります」
とその林の中に伸びる飛び石のような道を歩いていく。
「すご」
思わず光が言葉を漏らす。
「そうですよね。私はもう慣れてしまいましたけど、敷地内に林があるって普通ではないですよね」
と笑いながら言う帆歌。
「夜はこのガーデンライトが光るんですね」
栗夢が飛び石のような道のサイドに左右交互に配置されているガーデンライトを見る。
「そうですね。周囲が暗くなったら自動的に光るようになっております」
「レジャースポット」
光が呟く。
「ふっ。たしかにそうですね」
帆歌も思わず笑う。しばらく飛び石のような道を歩いていくと
「え。旅館やん」
そこに現れたのはまるで旅館の入り口のような玄関。帆歌がカードキーをかざし、ロックが開く音が聞こえ
「どうぞ」
ドアを開けて押さえていてくれる。
「ありがとうございます」
「すいません。ありがとうございます」
中へと入る。玄関。とてつもなく広く綺麗。旅館や銭湯のような靴箱が左右に置いてあり
「ようこそいらっしゃいました」
和服姿のお手伝いさんらしき人たちが出迎えてくれた。栗夢と光は軽く頭を下げる。
「こちらで靴をお脱ぎください」
と帆歌に言われ、靴を脱ぐ2人。
「これ、靴どうすれはいいですか?」
と光が訊ねる。
「あ、よろしければ私(わたくし)どもが靴箱にお入れしますが」
「あぁ〜…」
と少し考え
「どこでも入れていい感じですか?」
と聞く。
「はい。どちらに入れていただいても」
と言われたので靴を靴箱に入れる2人。
「ではこちらです」
綺麗なフローリングの床を歩いていく。リビングというか、畳の床の広間が見えてくる。
「お嬢様」
その広間に向かって一礼をする帆歌。
「こちらです」
栗夢と光が広間に入ると
大きな一枚板で作られたと見られる大きなテーブルの前で飲み物を飲んでいた美音がいた。
「あ、2人とも」
「おはよう」
「おはようございます。お邪魔します」
「あ、そうか。なんか旅館感覚で言うの忘れてた。お邪魔します」
「あ、うん。どうぞ」
「どうぞ」
美音にも帆歌にも促されて広間へ足を踏み入れる。
大きなテーブルの前に座布団の敷かれた旅館にある座椅子が2つ置いてあったので
そこにそれぞれ座る栗夢と光。
「失礼します」
「そんな堅苦しくしなくていいわよ」
「堅苦しくなるって」
「なんでよ」
「…なんか。なんとなく」
「あ、そうだ。これ」
栗夢が持っていた紙袋をテーブルに乗せる。
「あぁ。ありがとう。帆歌」
「はい」
帆歌がリビングに入ってきて
「ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします。
お飲み物なんですけど、お2人とも、何がよろしいでしょうか」
「あぁ〜…」
「んん〜…」
と悩む2人に
「基本的になんでもあると思うわよ。言ってくれたら」
と言う美音。
「じゃあ…ダージリンティーを…お願いできますか?」
恐る恐る言う光。
「私はストロベリーティーって…できますか?」
栗夢も恐る恐る言う。
「はい。宝孔雀(ホウクジャク)様がダージリンティー
栗鼠喰(りすぐい)様がストロベリーティーですね。かしこまりました。お嬢様はどうしましょうか」
「私はおかわり」
「はい。かしこまりました。ちなみに栗鼠喰様にいただいたケーキはどういたしましょう?
すぐに食べるならお飲み物と一緒にお持ちいただくようにお伝えしますが」
「ううぅ〜ん。2人はどう?」
「私はいつでもいいです」
「私も」
「じゃ、後で」
「かしこまりました」
と帆歌は一礼をして、栗夢が持ってきた紙袋を持って廊下へ行った。
「ここは?リビング?」
「リビング。まあ、そんな感じかな」
「めっちゃ旅館だよね」
「そうね。玄関は初館の玄関のデザインそのままらしいから」
「へぇ〜」
光は広間を見回す。広間と廊下は障子で仕切られており
開け放たれた障子からは廊下を挟んで先程歩いてきた林が見える。
「ここは、ご家族で食事をする場所?」
「ううん。…あ、まあたまにあるけど、基本的にはもう1つの広間で」
「「もう1つの広間!?」」
驚きすぎて栗夢、光がハモった。
「驚きすぎでしょ」
「いや、驚くでしょ。もう1つの広間?」
「うん。そこのほうが景色がいいし、広いから」
「広い!?ここより?」
「うん。倍はあるんじゃないかな」
「あぁ…。驚きすぎて倒れそうになるわ」
と話していると和服を着た方が
「お待たせいたしました。こちらダージリンティーになります。こちらがストロベリーティーになります」
と栗夢と光の前に高そうなティーカップに入った香り高い紅茶をテーブルの上に置いてくれた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「こちらがお砂糖、こちらにはミルクが入っております。お好みで入れていただければと思います」
とお砂糖の入った容器、ミルクの入った容器も栗夢、光にそれぞれ出してくれた。
「ありがとうございます」
和服の方が一礼する。そして美音の方に回って
「美音様。こちらミルクティー、お砂糖お2つになります」
と美音の前にティーカップを置く。
「ありがとうございます」
「では失礼いたします」
一礼して広間を出て行った。
「今の方は?」
「あ、サーブ担当の方」
「サーブ?」
「お料理や飲み物を運ぶ係っていうのかな」
「あぁ」
「なるほどです」
「ここで研修して、うちに旅館のどこかに配属される感じ」
「そうなんですね」
ここで研修か。めっちゃ嫌だわ
と思う光。
「あ、いただきます」
光が美音になのか、誰になのか一言断ってティーカップを持ち上げる。
「あ、私も。いただきます」
栗夢も誰かに一言断ってティーカップを持ち上げる。
まずはお砂糖もミルクも入れずにいただく。一口、口に入れる。
するとダージリンティー特有の独特な香りが口に広がり、鼻から抜ける。
その後紅茶の芳醇な味わい、茶葉の苦味、そしてほんのりと自然な甘さが舌を包む。
そしてまた最後にダージリンティー特有の独特な香りが鼻から抜ける。
落ち着くぅ〜…。けど高級ぅ〜
と思う光。栗夢もストロベリーティーを一口、口に入れる。
すると新鮮な生のいちごとはまた違う“ストロベリー”の香りが口に広がり、鼻から抜ける。
そして微かな苦味、そして苦味よりも強いのが、おそらくストロベリーの酸味。
酸味で鋭い味だが、どこかまろやかで、ほんのりと甘味も感じられる。
あぁ〜…落ち着くぅ〜…。けど高そぉ〜
と思う栗夢。静かにソーサーの上にティーカップを置く2人。
「日本庭園みたいのはないの?イメージではあるイメージだったけど」
光が紅茶の水面を見ながら言う。
「あるわよ」
「あるんだ」
「あるんですね」
本当にあることに驚く栗夢と光。
「さっき言ったもう1つの広間からは見えるの」
「あぁ。なるほどね」
「ま、日本庭園なんてそんな大層なものではないけどね」
「池」
「ん?池?あるよ」
「あるんだ。竹藪」
「あるよ」
「あるんだ。砂の…なんか砂の池みたいなやつ」
「あぁ。枯山水のことね」
「へぇ〜。あの砂の池みたいなやつが枯山水なんだ」
「枯山水もあるよ」
「こっわ」
「怖いってなによ」
「いや、異次元すぎて怖い」
「たしかに」
「たしかにって栗鼠喰さんまで。じゃあ、飲み終わったら軽く見て回る?」
という美音の提案で、ティーカップが空になったら狐園寺家を見て回ることにした。