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あまりにも私の気持ちを大事にしてくれる九条さん。
その思いに、ずっとずっと何層にも積み重なっていた物が、堪えきれずに一気に溢れ出した。
周りの目もある、九条さんにも申し訳ない、でも、その涙を止めることはできなかった。
次から次へとこぼれ落ちる雫、押し殺す声。
それでも、迷惑そうな顔1つせず、
「泣かないで……」
そう言って、九条さんは、私の頬に伝う涙の跡を親指でそっと拭ってくれた。
「君は素晴らしい女性だ。その優しい気持ちを持つ君と、そして……俺達の子どもを、これから先は何よりも1番大切にしたい」
もう……
九条さんに全て覚られてしまった。
この人に、これ以上隠し通すのは不可能だと思った。
「九条さん……黙っていて本当にすみませんでした。確かに、あなたの子どもです。でも、私は素晴らしくなんてありません、優しくもありません。だって私は……麗華の婚約者であるあなたを……」
「彩葉、それは違う。俺は、麗華ちゃんとは何もない。見合いの話も、父にはすぐに断っていた。でも、なかなか受け入れてもらえず。話がどんどん先に進んでいくのが……正直、怖かった」
そ、そんな……本当に?
お見合いを断っていたなんて、そんなこと全然知らなかった。
九条家、一堂家、お互いの家柄を考えると、そう簡単に取り消すことができなかったのかも知れないけど……
「いつもめんどくさいって必ず断っていた麗華が、九条さんとのお話は受けたって聞いて、2人はお互いに想い合っていたんだと……そう思っていました」
だから、私は、麗華のために九条さんを諦めようと必死だった。
お見合いの話がきて、麗華はいったいどういう気持ちだったんだろう……
たくさんボーイフレンドがいても、九条さんとの話を受けたのはなぜ?
いつも近くにいた姉妹なのに、私はそんなこともわからずにいたんだ。
「なぜ麗華ちゃんが見合いを受けたのかはわからない。いっそ断ってほしかった。俺は、麗華ちゃんを愛することはできないから」
「九条さん……」
「俺が父に断ってほしいと言っても、父は君のお父さんには言えなかったのかも知れない。俺自身も、父と一堂社長の深い思いを知っていたから、無下にはできずにいた。2人は、俺のことを誰よりも理解してくれている恩のある人達だから」
あの時、九条さんがそんな思いでいたなんて……
きっと、1人で抱えて、ものすごく苦しんだんだ。
「あの日のことは今もずっと忘れられない。君に偶然出会って、体を重ねた日のことを。もう、どうしようもなく君を求めてしまった。たまらなく愛おしくて、何も考えられず、おかしくなるくらいに君を……」
「あの時、私もあなたを求めました。九条さんに抱かれて……とても幸せでした」
今でもまだ、この肌に九条さんの感触が残ってる。
目を閉じれば、激しく、そして優しく、私を愛してくれたことの全てが鮮やかに蘇る。
死ぬまで、私はあの永遠のように感じた2人の時間を忘れることはないだろう。