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「鳴海ちゃん、ありがとう」
「えへへ、ちょっと照れちゃうね。あらたまってこんなこと言うと」
「ううん。嬉しいよ。本当に」
そう言って、ふたりで手を取りあっているところに玲伊さんがやってきた。
「優紀。大丈夫か。疲れてないか?」
彼は妊娠が分かってからは1日も欠かさず、予約の合間を縫って何度も顔を出してくれていた。
嬉しいけれど、ちょっと心配にもなる。
「もう、オーナーがそんなにしょっちゅう事務所を抜けてきたら、他の社員に示しがつかないんじゃない?」
玲伊さんは澄ました顔で答える。
「その心配は無用。かえって『奥さんの様子、見てきたらどうです?』と勧められるぐらい。俺がイライラしているほうが、みんな気が散るんだって」
もう、本当に玲伊さんは。
「あっ」
「どうした?」
「また、動いた。お腹蹴ってる」
「俺が来たのに気付いたのかな」
にこにこ顔でわたしの大きなお腹を撫でている。
玲伊さん、子煩悩を超えて、とてつもない親バカになりそうだと、わたしはひそかに確信していた。
でも……
そんな玲伊さんが、好きで好きでたまらないわたしも、まったく人のことは言えないのだけれど……
「玲伊さん」
「ん?」
見つめ合うわたしたちに、鳴海ちゃんが遠慮がちに声をかけてきた。
「あのぉ……もしかしてお二人とも、わたしがいること、忘れてませんか?」
「あっ」
「ごめん、ごめん」
わたしと玲伊さんがあわててそう言うと、鳴海ちゃんはニヤニヤしながら「いつまでもアツアツでもう羨ましすぎですよ。あーあ、わたしも彼氏欲しいなぁ」とか言っている。
そんな鳴海ちゃんの言葉に、わたしはつい、ふっと頬を緩めた。
「なんだ、優紀。思い出し笑いなんかして」
「ここに今、おばあちゃんがいたら、手で顔をパタパタあおいで『あー、あつい、あつい』とか言ってるだろうなと思って」
「ああ、確かに」
わたしと玲伊さんは、同時にレジに目を向けた。
正確に言えば、レジではなく、あの日、高木書店の前で四人で撮った写真に。
その時、またお腹を蹴られた。
「はいはい」
お腹を優しく撫でていると、玲伊さんが「優紀、座った方がいいんじゃないか? 俺ももう行くから」
「うん」
言われた通り、わたしはレジ横の椅子にゆっくりと腰を下ろし、写真立てを手に取った。
今度のお休み、玲伊さんと一緒におばあちゃんに会いに行きたい。
そんなことを思いながら……
〈The Happy End!〉
*最後までお読みいただきまして、どうもありがとうございましたm(_ _“m)