僕とヒナタは保育園のクラスメイトたちによくイタズラしている。みんな僕の思い通りの反応してくれるからイタズラしがいがある。
けれどその中に一人喋るのが苦手な子がいる。
その子は羊の角を生やした怪獣のような黄色の着ぐるみを着ている。
僕はその子に聞こえるようにわざと大きな声でこういった。
『ねぇ、ヒナタ。なんでダイヤは、喋らないんだろうねー?くすくす』
「キャハハ!喋るのが苦手なんじゃなくて、人と話すのが嫌いかもナ!」
『…?』
[ちょっとカナタ!それはないんじゃない?ダイヤに謝りなよ!]
でた、僕がいつもみんなにイタズラすると怒ってくるおさげ髪のヒカル
『さっきまでマリアにべたべただったのに、イタズラするとすぐこっちにくる。』
「余計なお世話だナ!」
[余計なお世話じゃないよ!とにかくダイヤに謝りなよ!]
『嫌だねーくすくす』
[ちょっとカナタ!!]
『……』
『…!』
[え?あ、ダイヤも!ちょっと2人とも!]
僕とヒナタはヒカルに逃げるように物陰に隠れた
『くすくす、やっぱりダイヤのリアクションなくてつまらないなー。ねヒナタ』「キャハハそうだナ!」
後ろから足音がする
『…!誰。』
『…〜!』
目の前には僕を追いかけた羊の怪獣がいた。
『何、ダイヤ』
『もしかして僕たちを追いかけてきたの?』
「そんなに怒ることカ?」
『そもそも、喋れないダイヤが悪いんだからね。』
『〜!!』
『…喋らなくても、心で通じる?何言い訳みたいなこといって』
『ー!』
羊の怪獣は僕の持っていたヒナタに指をさしていた。
『ッ!ヒナタに指差さないでよ!』
『…ー!』
『…は?”ヒナタも同じ”?』
『ヒナタは今も僕と喋れてるんだ!』
『君もヒナタの事ぬいぐるみだっていうんだ、もういい。』
『いこヒナタ。』
『……-』
ヒナタと僕は生まれる前からもふたりでひとつ。
なのにヒナタは僕が生まれた後どっかに行ってしまった。
それを埋めるようにもらったぬいぐるみはきっとヒナタ。
『やっときてくれたんだね、ヒナタ』
『ねぇヒナタ、僕とヒナタってふたりでひとつなんだよね。』
「」
『…ヒナタ?』
『ね、ねぇヒナタ何か喋ってよ、急になんで喋らなくなっちゃったの…?』
『ヒナタ……!』
ヒナタが喋らなくなってもう一週間、
『いい加減僕の前から帰ってきてよ、ヒナタ』
『どうして、急に喋らなくなっちゃったの…?』
そういえば喋らなくなったのはあの羊の怪獣と話してからだ
きっとこれはあの怪獣のせい。返してよ、僕からヒナタを。
『…カナタをよろしくお願いします!』
『はい!お預かりしますねー!』
『……』
『ママ、夕方には戻ってくるからいい子にしてるんだよ?カナタ』
『……』
『ちょっと、カナタ?聞いてるの?』
『……うん。』
あれは……
見えたのは羊の怪獣みたいな黄色い着ぐるみのダイヤ。
僕からヒナタを奪った。
『ねぇ、ダイヤ』
『…?』
『ー!!!』
『僕からヒナタを奪っておいて何だよその態度!!』
『ヒナタを返してよっ!!!』
僕はとっさにダイヤを突き放した。
聞こえたのは、ドンっていう音だった。
[ちょっと!!!!!何をしているんですか!カナタさん!]
え…?
目の前に見えたのはしりもちをついたダイヤだった。
[カナタ…流石にそれはやりすぎだよ。]
いつも僕に怒ってくるヒカル…?じゃない。
三つ編みのゾーヤだった。
『そ…そんなつもりじゃ!そ、そうだ!ヒナタ!』
『ヒ、ヒナタこういうとき、いってよ…!』
『な、なんで喋らないの!?ヒナタ…!』
[すぐそうやってヒナタのせいにするなんて、カナタもやっぱり、ヒナタを”物”としてみてるんだね。]
『違う!!!ヒナタは…ヒナタは物なんかじゃない!ぬいぐるみでもない!』
カナタを隠すようにダイヤはうごいた。
『…ー!!』
[”それはダメ”ってダイヤ…?]
『ダイヤ、君が、君が僕からヒナタを奪ったのに!!』
[ちょっと…!カナタどこ行くの。]
なんでみんな、ヒナタのこと
分かってくれないの…?
僕はダイヤとゾーヤのみんなから逃げるために保育園の外庭に隠れた。
まるでオオカミに追い詰められた羊のように。
『ヒナタ…こういう時どうすればいい…?』
『喋ってよ…ヒナタ』
いつも僕と喋ってくれるヒナタはもういない。
…また僕の前から…どっかに行っちゃったの?
『ヒナタがいないと僕、どうすればいいのかわからない…。』『誰と話せばいいの?誰と遊べば…。』
突然僕がうつむいたままみていた砂は誰かの影で真っ暗になっていた。
手…?
僕の目の前にあったのは手
その手を差し伸ばしていたのは羊の怪獣のダイヤだった。
『ー!』
『なんで君がいるの。』
『なんで、、僕に構うんだよ。君に酷いことしたんだよ?僕は』
『…ー!』
『僕は君に怪我をさせちゃったのになんで!』
『…〜』
『”手握ってみて…”?』
僕はそっとダイヤの手を握ってみた。
……
怪獣みたいな着ぐるみをきてるくせに、眠たくなるほどダイヤの手はあたたかい。
この手を離したくないと思ってしまうほど。
「これが友達なんだゾ、カナタ」
『…!ヒナタどこに、いるの?』
「残念だったナ!ここにはいないゾ!」
『な、なんで、またヒナタのイタズラでしょ…?』
「カナタ、友達の手放すなよ。」
『…!!ヒナタッ!』
目を覚ましたのは保育園の外庭で、寝ていたのはダイヤと僕。
目の前にはぐっすり寝ているダイヤの顔
『僕…、ダイヤの手、握ったまま寝てたんだ。』
『……』
『あ、ダイヤも起きた。』
『ごめんね、ダイヤ。怪我させちゃって』
『……!!!』
ダイヤは嬉しそうに僕に抱きついた。
『ちょ、ちょっと抱きつかないでよ。誰かに見られてたら…恥ずかしい。』
『…♪』
『な、なに、そんなにっこりして。』
『〜!!!』
『”カナタが素直になってくれてうれしい”?そ…そんなことないよ。』
『このままだとあれだし。あ…、みんなにも謝るよ。』
『〜〜♫』
『じゃあ、行こっか。ダイヤ』
『〜!』
僕とダイヤは、手を繋ぎながら保育園へ戻っていった
それから
みんなに謝って、ゾーヤもヒカルもみんな許してくれた。
ヒナタはやっぱり前みたいに喋らなくなった。
ヒナタみたいに、素直に言える友達か…わからないけど。
できたよ。ありがとう、ダイヤ、ヒナタ。
「よかったナ!カナタ!」
終