「───────な。芹那!」
『はっ』
「芹那!!」
『傑…に硝子?』
「大丈夫か」
『あー、硝子のおかげで。黒井さんは?』
傑が首を振る。
『そうか。硝子、ここに来るまでに悟の死体があったはずなんだけど』
「無かったよ」
『…傑』
「ああ、悟を探そう」
キィ
傑が扉を開ける。そこに居たのは一般人に囲まれ拍手をされていた悟だった。手に持っているのはきっと天内だろう。
「遅かったな。傑、芹那。いや、早い方か。都内に幾つ盤星教の施設があるって話だもんな」
『…』
「悟…だよな」
(何があった…?)
呪術の核を掴んだのだろう。
『また、置いてけぼり』
私の呟きは拍手の音に飲み込まれた。
「硝子には会えたんだな」
「ああ。治してもらった」
『私も傑も問題ない。いや、私達に問題が無くても仕方ないな』
「俺がしくった。お前らは悪くない」
「戻ろう」
「傑、芹那。こいつら殺すか?今の俺なら多分何も感じない」
『…』
じゃあ殺そう、そう言おうと思った。
「いや、いい。意味がない。見た所、ここには一般教徒しかいない。呪術界を知る主犯の人間はもう逃げた後だろう。懸賞金と違ってもうこの状況は言い逃れできない。元々問題のあった団体だ。しぎ解体される」
『意味ね』
「それ、本当に必要か?」
「大事なことだ。特に術師にはな」
私は、何も出来なかった。初めての立派な任務の失敗だった。
高専に帰り、天内の遺体の処理を任せ部屋に戻る。今日はみんな、いつもみたいに馬鹿騒ぎする元気は無かった。
ピロン
私のスマホが鳴る。
【実習終わった頃だと思って】
【お疲れ】
【どんな実習か分かんないけど、お疲れ様】
私には返信する元気はなかった。
それから1週間。まだ返信はしていない。
【大丈夫か?】
【何かあった?】
術師として、目の前で人が死んだのは初めてではない。守れなかったのも、初めてではなかった。耐性はあったのだろう。ただ、天内の死は喜ばれるものだったのか?一体私は何を守ってるんだ?
“意味ね”
“それ、本当に必要か?”
“大事な事だ。特に術師にはな”
「術師には、な」
なんのために?
ぶれるな。
【会えない?】
私は1週間ぶりに返信をした。
「「セリ」」
「ゼロにヒロ。久しぶり」
「久し、ぶり…」
「…セリ、なんかあった?」
あったよ。女の子を死なせてしまったよ。何も出来なかったよ。悟にまた、置いてかれてしまいそうだよ。
「…私の存在意義が分からないの」
なんのために術師やってるのか、何を守ってるのか、もう、分からないんだ。御三家だから。なるべくしてなった。それだけではもう、支えられないんだ。
「セリ。俺はセリがいてくれてよかった」
ゼロは私の手を握る。
「セリ、セリがいてくれなきゃ今の俺はないよ」
ヒロも私の手を握る。
「話す気はないんだろう?」
私は首を縦に振る。
「じゃあ無理に聞かない。でも、俺らはセリがいてくれて嬉しい」
一年後、悟は“最強”になった。私は置いてかれた。でも、私は2人を守れるなら、2人を守りたいから、術師になるんだ。
『傑、ちょっと痩せた?大丈夫?』
「ただの夏バテさ。大丈夫」
「ソーメン食い過ぎた?」
傑の変化には気付かなかった。
灰原が死んだ。等級違いの任務だったらしい。
「芹那」
「傑じゃん」
ここは寮の共同スペース。
「何してんの」
「少し、考え事」
「そう」
「…芹那」
今思えば、あの時の傑はやけにやつれていたと思う。
「何」
「芹那はどう思う」
「何について?」
「悟が最強になったことについて」
「悟は元から最強でしょ?」
「…そう、なんだけど」
「それとも…1人で最強になったことについて?」
「!!」
「置いてかれたなーって感じ。私は元から術式より体術の方が得意だし、いつかこうなることは分かってたのかもね」
「そうか」
「うん。でも、私はおさななを守れるならそれでいいんだ。だからこれからも強くなることに妥協はしない」
「それが悟に届かないとしても?」
「届かないとしても。てか、届かないなんて決まってないし」
「そうか」
「うん」
「芹那は強いね」
「何を今更」
あの時、なんて声をかければよかったのだろう。
「「…は?」」
「何度も言わせるな。傑が集落の人間を皆殺しにし行方をくらませた」
私は声が出なかった。
「聞こえてますよ。だから[は?]つったんだ」
「…傑の実家は既にもぬけ殻だった。ただ、血痕と残穢から恐らく、両親も手にかけている」
「んなわけねえだろ!!」
「悟。俺も…何が何だか分からんのだ」
「───────っ!!」
「芹那」
「…傑じゃん」
「やあ」
「やあ、じゃねーんだわ」
「驚いたかい?」
「色んな意味で。私が最後?」
「ああ。煙草の匂い、キツくなったかい?」
「あんたがいなくなってから吸う本数増えたんだわ」
「少なからず、私の存在は芹那の中に居れたのかな」
「何いなくなったことにしてんだ。ずっと居るよ。友達だろ」
「そうか、それは嬉しいね。惹かれていた相手の中に入れるのは」
「何、口説きに来たの?」
「あながち間違いじゃない」
「私は行かないよ。私が守るべきもののために私はここに居るからね」
「そうか、それは残念だ…芹那」
「ん?」
「好きだよ」
「ん…知ってる」
傑は離反した。