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「それでは水を抜きます」
地底湖全体が一瞬光った後、水位が下がり始めた。
光ったのは浄化魔法の発動によるものだ。
汚染された魔素の浄化だけでなく、鉱毒まで浄化するなんて、俺には理解できない魔法だけれど。
水位が下がっているのは、水流魔法で水を強引に帯水層へ押し流しているからだ。
水流魔法そのものは、低レベルから使える魔法だ。
しかし、圧力が高いはずの帯水層へ水を押し戻すのは、相当な魔力が必要なはずだ。
それをこの水量分やるなんて、どれだけの魔力が必要なのだろうか。
神様のおかげでチート級の魔力をもっているはずの俺ですら、考えたくないくらいだ。
長年生きたエルフは魔力が化物級なのだろうか。
それとも水流魔法に酷似した別の魔法なのだろうか。
1分程度で水が溜まっていた場所が、完全に干上がった。
そして帯水層から水は流れ出てこない。
どうやら帯水層と面する部分に、氷結魔法をかけたようだ。
分厚い氷の層を作って、水がこちらに流れ出さないようにしている。
さらに水底だった場所に乾燥魔法がかけられた。
これで、ぬかるんで歩きにくいということはない。
「至れり尽くせりですね」
俺には無理だなと思いつつ、そう感想を言わせてもらう。
「さっさと解決したいですから。魚竜がいなくなれば、これくらいは簡単です」
長年生きたエルフなら、これくらいは普通にできるのだろうか。
それともクリスタさんが特殊例なのか。
この世界における事例を知らなすぎて、俺には判断不能だ。
さて、そういった感想はともかくとして。
明らかに妙な魔力というか、汚染された魔素を感じる場所がある。
この洞窟の、入ってきた場所と反対側の端の壁に。
「何か怪しい感じが向こうでするニャ。近づいても大丈夫かニャ?」
ミーニャさんも気づいたようだ。
「ええ。あれがこの状態を生んだ元凶でしょう。今の状態なら近づいても問題ないと思われます。確認しましょう」
クリスタさんの後を、隊列という感じではなく、ぞろぞろとついていく。
よく見ると奥の壁の一部に岩がある。
透視魔法で全体を確認したところ、一辺1mの綺麗な立方体形状だ。
これは魔法で作り上げられたものだろう。
そしてこの岩部分に、明らかに他とは違う魔力と魔素の流れを感じる。
なら調べよう。
魚竜や、汚染された魔素を高濃度で含んだ水は、もうなくなった。
だから透視魔法で細部まで確認可能だ。
そして俺は理解した。
これは完全にアウトな物件だ。
「あの岩が原因ですね。中に人骨と、魔法陣が記載された銀板が埋め込まれています」
「そうですね。人骨が発する呪いを魔法陣で増幅して、周辺の魔素を汚染する仕組みのようです。とりあえず壊してしまいましょう。浄化は私がやりますから、エイダンさんは岩を魔法で崩していただけますか? 私は本来、水と風の魔法使いですから、土は得意としていないのです」
得意としていなくても、クリスタさんならできそうな気がする。
でもまあ、それくらいは俺でもできるからかまわない。
「岩を崩すまででいいですね」
「ええ。浄化を含む魔法的措置は私がやります」
「わかりました」
土砂改質魔法で、岩を砂へと変化させる。
壁に埋め込まれていた岩がさらっと崩れ、中からどう見ても人骨という感じの頭蓋骨を含む骨と、銀色の板が現れる。
その直後、俺は失敗に気づいた。
岩の中に閉じ込められていた高濃度に汚染された魔素が、一気に周囲に広がろうとしている。
俺の魔法では止められない。
「やばいニャ!」
ミーニャさんが身構えた次の瞬間。
「浄化と無効化をします」
一瞬、風景が光った後、危険な気配が薄れた。
クリスタさんの浄化魔法だ。
汚染された魔素、淀んだ魔力が一気に浄化される。
バキッ! 音が響いた。
頭蓋骨が半分に割れて、そして崩れていく。
頭蓋骨だけではない、他の骨もだ。
みるみる間に崩れて砂と同化して、そして消え去った。
残ったのは銀色の板と砂だけ。
「処理完了です。これでカサクラ坑道については、すべて解決できたと判断します。詳細は後に、この坑道を再開するための調査隊が調査するでしょうが、今現在において坑道とその周辺に魔物も、それ以外の魔的問題点もなくなっています」
何なんだ、今の浄化魔法は。
俺が知っている浄化魔法と比べて、発動が早すぎ、出力も異常すぎる。
ただ、ここでそのことを追及しても、まともな答えは返ってこない気がした。
だから今は、とりあえず黙っておく。
あとは今の浄化措置のおかげか、この空間からも遠視魔法で坑道や、さらに先が見えるようになった。
ざっと見た限りでは、クリスタさんが言ったとおり、異常な魔力は感じない。
「それでは地上に戻りましょう」
その言葉とともに景色が暗転し、軽い浮遊感。
二秒もしないうちに周囲が強烈に明るくなった。
この明るさは魔法的なものではない。
暗い穴の中から外へ出たからだ。
目が明るさに慣れるより早く、魔法を使って周囲を確認する。
現在地は廃坑入口の扉の前だった。
つまり今のは、クリスタさんが脱出魔法を起動した結果だろう。
「帰りがこれなのは楽でいいけれどニャ。何か問答無用という気がするのニャ」
ミーニャさんの言いたいことはよくわかる。
せめて事前に一言欲しい。
「穴の中は得意ではないのです。エルフなので」
クリスタさんが、ミーニャさんみたいな言い訳をしている。
でもまあ、俺も穴の中より野外の方がいい。
「さて、これで無事、ここカサクラ坑道で発生した魔物発生事案は解決しました。
まだ1日早いですが、ドーソンに戻りましょう。依頼完了報告作業が待っ……!」
クリスタさんが突如、凶暴な魔力を発動した。
高速の水流が、俺から見て右側を襲う。
魔力も気配も感じない。
しかしそこに、確かに男が立っていた。
黒髪に褐色の肌、細長い身体を黒色の長袖シャツと黒色のズボンに包んだ男が。
顔や雰囲気から感じる年齢は、普通人なら五十歳前後。
しかし特徴的な耳が、見た目で年齢を判断してはいけないと告げている。
その特徴とは、耳の上端が細長く尖って伸びていること。
そういう形に加工したのでなければ、この形の耳を持つ種族は多くない。
エルフか、ダークエルフ。
もしくはその強力版であるハイエルフだ。