「ニャオハ、ごめん!あなたを置いて逃げ出したりして…私はトレーナー失格だ」
ギュッと拳を握りしめて、眉を歪める。
ニャオハは静かに雪乃の言葉に耳を澄ます。
「けど、それでも、私はニャオハと友達になりたい!!」
ニャオハはいつもそばにいてくれた。
いつもニャオハの温もりを感じてた。
ニャオハの甘い香りに包まれると、安心してよく眠れた。
「もう二度と離さないから!!ずっとそばにいてほしい!!」
もう私を重ねたりしない。
ニャオハはニャオハだ。
一生一緒にいる覚悟は、もう出来てる。
「にゃお…」
ルガルガンに摘まれたまま、ニャオハは小さく鳴く。
「春翔!!」
突然名を呼ばれ、春翔は驚く。
下から真っ直ぐに見つめてくる妹に、春翔は手すりから体を乗り出し耳を傾ける。
「私は大丈夫だから、心配しないで」
ただ一言。そう言って笑う雪乃。
春翔は目を見開いた。
心配してくれてたから、厳しいことを言ってたんだよね。
いつも私のことを守ろうとしてくれてたんだよね。
分かってる。
思い合う気持ちは一緒だから。
春翔は何も言わず、目を細めた。
複雑な感情はこれ以上口を開くことを止め、事の経過を見守ろうと肩の力を抜く。
「そこの緑の悪魔!!」
雪乃は最後にビシッと、ゾムを指差す。
下から見上げてくる小さな赤色に、ゾムは口角を上げる。
雪乃は冷や汗をかき声を上擦らせながらも、ゾムをまっすぐ睨みつける。
「ーーーニャオハを返せ!!」
ゾムは考える。
どうすればもっと面白く遊べるだろう、と。
この時間が終わるのは惜しい。
あの怯える表情が見れなくなるのは。
もっと顔を歪ませたい。
もっと悲鳴を聞きたい。
もっと、泣かせたい。
「…ゾム?」
隣にいたシャオロンが顔を覗き込む。
そして、気付く。
あ、と。
これは、オモチャを見つけた顔だ。
「言うてるやろ。ちゃんとここまで受け取りに来いって。そんな遠くから返せ言われても困るわ」
「ッ!!」
「ほら、待っといたるから、ここまでおいで?」
雪乃は恐怖しながら、頭を巡らせる。
行ったら捕まる。罠だ。
相手は透明な見えない糸を張り巡らせた、獲物を待つ蜘蛛だ。
飛び込めば絡まり、ただ捕食されるのを待つだけ。
考えろ、どうすればいい。
どうすれば近付かず、ニャオハを救い出せる。
日没まであとわずか。
「雪乃」
隣にいた美希が、小さく囁く。
「渡そうと思ってたけど、これ、プレゼント」
そう言って無理やりギュッと握り込まれた手の中に渡される。
小さくて丸い何かに、雪乃は驚く。
「え、何、今!?」
「今しかないと思って」
横目でこちらを見ながら、美希は口角を上げる。
雪乃がハッと手の中のものに気付いた時、
「にゃおおおおおおッ!!!」
ニャオハが暴れ出した。