テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第2章 「君の声を独り占めしたい」
地方公演2日目のリハーサルが終わった楽屋は、 照明が落とされて、静けさが戻っていた。
スンリとヨンベはシャワーへ、T.O.Pは電話のために楽屋を出ている。
そんな中、ソファに横になって、深く息を吐いたテソンの横に、
ジヨンがゆっくり腰を下ろした。
「……疲れた?」
「……うん。全力でやったから……ちょっとバテた。」
ジヨンは笑って、水のペットボトルをテソンに差し出す。
その指先が、わざと少しだけテソンの指に触れた。
「テソン、さ……最近、俺の目見ないこと多くない?」
「……え?」
「なんか、視線が合いそうになると、すぐ逸らすよね。」
テソンは少しだけ言葉に詰まった。
「そ、そんなことない……と思うけど……」
「ふうん。じゃあ、今ちゃんと、俺の目見て?」
そう言って、ジヨンが少しだけ距離を詰める。
顔が近い。
視線がぶつかる。
照明が落ちた室内で、彼の瞳だけが、妙に深く光っていた。
「……ドキドキしてる?」
「なっ……」
「バレバレだよ、テソン。……顔、赤いし。」
テソンは思わず視線を逸らそうとした。
けど、ジヨンの手がそっと、顎を取って引き戻す。
「ねえ、俺さ……今日のリハで、ずっとテソンのこと見てたんだよ。」
「……なんで……?」
「知らない。気づいたら、目で追ってた。……なんでか、触れたくてたまんなかった。」
テソンの喉が、小さく上下する。
「……冗談……やめてよ……」
「冗談だったら、こんなに心臓早くならない。」
ジヨンは優しく微笑みながら、手をテソンの頬に添えた。
「テソン、今……誰もいない。
誰にも見られない場所で、俺が今どんな気持ちか、知りたい?」
「……ジヨン……」
静かな空気のなかで、キスが落とされる。
深く、熱く、けれどどこまでも優しいキスだった。
そして、ジヨンはゆっくりと、ソファにテソンを横たえた。
そっと触れる指先。
交わされる視線。
すべてが、言葉よりも雄弁だった。
「テソン……怖かったら、ちゃんと言って。今なら、やめられるから。」
「……やめてほしくない、かも……」
その言葉が落ちた瞬間、ジヨンの手が動いた。
そして、外から戻ってきたスンリの声が響く──
「え?誰かいる?……ジヨンヒョン?あれ?」
ジヨンは素早く、テソンを抱えたままソファの陰に身を潜めた。
けれど、その手はもう止まらない。
「声、出すなよ。……俺の声だけ、聞いてて。」
ジヨンは静かに、テソンの背中をソファの奥へと押しやった。
スンリの声がドアの向こうから響く。
「誰もいないのか〜……あ、ジヨンヒョンの服ここにあるし、あとで来るか。」
気配がドアの向こうで遠のいていく。
けれど──ジヨンの手は、もう止まる気配すらなかった。
「……テソン、大丈夫?」
「……やばいって……心臓、バクバクしてる……」
「ふふ、俺も。……けど、今さらやめられないでしょ?」
そう囁いて、ジヨンはテソンの耳たぶにそっと口づけた。
甘い、くすぐったい刺激。
でも、その唇がそのまま首筋を滑っていくと──
そこから先は、甘さじゃなくて、溺れるような熱。
「……ジヨン……あの、服……ちょっと……」
「テソン、声が震えてる。……かわいい。」
テソンのTシャツの裾をめくるようにして、ジヨンの手が中へと滑り込んでいく。
その指先はどこまでも優しく、でも意図的に焦らしてくる。
「さっき“やめて”って言ったのに……」
「言ったね。でも……“やめてほしくないかも”って言ったのも、テソンでしょ?」
ゆっくり、ゆっくり。
焦らされて、待たされて、でも逃げられない。
テソンは自分の喉の奥から、熱い息が漏れるのを止められなかった。
「ジヨン……お願い、もう……触るだけじゃ……」
「ふふ、テソンからお願いなんて、珍しい。」
いたずらっぽく笑いながら、ジヨンはテソンの耳元で囁く。
「ねぇ、テソン。俺の声、好きでしょ?
こうやって、名前呼ばれるの、気持ちいいんだろ?」
「や、そんな……言わないで……っ」
「……テソン。」
その名を呼ぶ声が、優しく、甘く、でも確実に心を溶かす。
身体の奥まで届いて、震えた心がそのまま堕ちていく。
「全部、俺の音にして。……テソンの声も、身体も。」
ジヨンの声に包まれながら、
テソンは静かに目を閉じた。
その夜、2人だけの楽屋で──
誰にも知られないまま、ひとつになっていく音が、 静かに、ゆっくりと、空間を満たしていった。
静かになった楽屋の中、
ソファの上でテソンはジヨンの胸に顔を埋めていた。
乱れた衣装、火照った身体、
そして、今も少しだけ震えている心。
「……バレなかった、よね……?」
小さくつぶやいた声に、ジヨンがくすっと笑う。
「うん、大丈夫。……テソンの声、俺がちゃんと塞いでたしね。」
「……意地悪。」
「でも、かわいかった。」
そう言ってジヨンは、テソンの髪をそっと撫でた。
その手のひらがやけに優しくて、くすぐったくて、 さっきまでのことが嘘みたいに穏やかで──
「……なんで、あんなこと……」
「……テソンのこと、我慢できなかった。 」
ジヨンの声が低く、胸に響くように落ちる。
「今日のリハ中、ずっと見てた。
誰よりも真剣に歌ってる顔も、
疲れてるのにメンバー気遣って笑ってる顔も……
……全部、俺のものにしたくなった。」
その言葉に、胸がぎゅっと鳴った。
「……俺なんか、ただの……」
「“なんか”じゃないよ。」
ジヨンは少し身体を起こし、テソンの頬に指を添えて言う。
「俺にとって、テソンは特別。……ただ、それだけ。」
その瞳は、いつものいたずらっぽいものじゃなかった。
真剣で、まっすぐで、まるでテソンの全部を見透かすようなまなざし。
「……ジヨン、ずるいよ……そんな言い方……」
「俺、ずっとこうだったよ?
ただ、今まで“気づかれないように”してただけ。」
テソンの胸がまたドクンと鳴る。
──気づいてた。
ずっと、どこかで。
でも気づかないふりしてた。
壊したくなくて、怖くて。
「これからもさ……誰にもバレないように、
ちょっとずつ、俺に溺れてよ。……テソン。」
その一言が、完全にトドメだった。
テソンはただ、ジヨンの胸に顔をうずめて、
何も言えずにそっと笑った。
扉の向こうには、ツアーもメンバーも、ファンも、現実がある。
だけど、このソファの上だけは、
ジヨンの声と、体温と、甘い支配の記憶だけが残っていた。