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動画の中で、夫も桔梗も私に対して怒っていた。
「金も権力もあるからって、なんでも思い通りになると思うなよ」
桔梗はそう言うが、夫と桔梗の仲を切り裂いたのは父であって私ではない。ジュエリーをねだるように、私が父に夫との結婚もねだった? そうしなければならないほど、私は当時結婚にあせってはいなかった。
もし私に何らかの罪があったとしても、それは最愛の夫に十五年間オナホ扱いされなければならなかったほど重いものなのか? 春岡鉄雄ではないが、私のメンタルもぐちゃぐちゃだ。いつもなら昼食を食べる時間だが、もちろん食欲なんてない。
スマホを確認すると、オープンチャットに春岡鉄雄からメッセージが届いていた。予告通り半端でなく長文だった。オープンチャットは長文を書くのに不向き。だから別のメモアプリで書きためたものをコピペして投稿したのだろう。メッセージは何回かに分けて投稿されていた。
とても読む気になれなかったが、男女の違いこそあれ、私と鉄雄の境遇には共通点が多かったことを思い出して、参考にできることもあるかもしれないと考え直して、とりあえず読んでみることにした。
今日 11:09
人妻キラーさんへ
マリアの末裔こと春岡鉄雄です。
長くなると思いますが、最後まで読んでもらえたらうれしいです。
僕と妻の聡美は高三のとき交際を始めました。同じ学年でしたが、三年間同じクラスになることはありませんでした。共通点は僕も彼女も本を読むのが好きだったこと。昼休みも放課後も彼女は一人で図書室でずっと本を読んでいました。
僕らの高校は進学校ではなくて、男子にも女子にも不良と呼ばれる生徒がいて、幸い僕が標的にされることはなかったですが、ひどいいじめもあったようです。退学していく生徒も少なくなく、授業も優しい先生の場合は騒がしくて落ち着かない。そんなちょっと荒れている学校でした。
同じ学校の生徒同士のカップルも多かったですね。たいてい髪の毛を染めるような目立つ者同士でくっついてましたが。
僕も年頃だったので校内でいちゃいちゃするカップルたちを見てずっとうらやましいと思ってました。でも、彼らはたいていくっついて離れてまた別の人とくっついて、というのを繰り返してる感じ。僕は一人の相手と長く誠実に交際したかったので、ませている連中は選択肢に入りませんでした。
図書室で見かける彼女はいつも一人で本を読んでいて、きっと彼氏なんていないでしょう。メガネをかけて髪型もおさげに近いポニーテール。もちろん染めたりしてません。
高三になって一ヶ月が過ぎる頃、図書室に誰もいないときを見計らって思い切って声をかけてみました。
「ちょっと話しかけてもいいかな」
「もう話しかけてるじゃん」
これくらいぶっきらぼうの方が安心できそうです。
「よかったら友達になってほしいんだけど」
「もっと明るい人と友達になった方が楽しいよ」
「僕は明るい人が苦手なんだ。僕も本を読むのが好きだから、君となら気が合うかなと思って」
「友達になりたいって言ってたけど、友達まででいいの?」
「気が合えばもっと先に進めたらいいなって思ってる」
「もっと先って恋人にもなりたいということ?」
「う、うん。もちろんせかしたりする気はないから心配しないで」
「友達なら一人いるから間に合ってる」
「そうなんだ……」
「恋人ならいいよ。見た目も性格も地味だから彼氏なんていたことないし、当分できないんだろうなってあきらめてた。だから本ばかり読んでたけど、彼氏とおしゃべりしたりする方が楽しそうだもんね」
あきらめかけたところで大どんでん返し。恋人になろうと提案して友達からねと返されるパターンはよく聞きますが、逆のパターンは聞いたことありません。
「ありがとう」
「ところで君は私のことをどれくらい知ってるの?」
「六組の一之瀬聡美さんだよね。あとはいつもここで本を読んでるというくらいしか……」
「それしか知らないのに声をかけてきたの? 呆れた。でも名前も知らない男子を彼氏にした私には言われたくないよね」
僕が話しかけてから聡美が初めて笑いました。最高の笑顔だと思えました。こんな笑顔になれる人が僕の彼女。この上なく誇らしい気分でした。
「僕は一組の春岡鉄雄」
「強そうな名前だね」
「強くなりたいとは思ってる」
「どうして?」
君を守るためだよ! と答えるのはさすがに早すぎるようです。
「困ってる人がいたら助けられるように」
「君はいい人だね。いい人を彼氏にできてよかった」
「僕の方こそ」
これが僕らの出会いとなれそめ。
毎日昼休みに誰もいない空き教室を見つけて、そこでご飯を食べながら話すことにしました。図書室にはたいていカウンターに図書委員が座っているし、そこで食べたりおしゃべりしたりするわけにはいきません。
暗い学校生活が一気に明るくなりました。僕は昼休みに聡美と話すのを楽しみに毎日学校に通っていました。
今日 11:10
最初はお互いの趣味である好きな本についての話題が多かったです。彼女は恋愛小説が好きでした。特に海外の作家の。
「誰かを好きになったことはなかったけど、恋愛にあこがれはあったからね」
「白馬の王子様のような彼氏を期待されても困るな」
「大丈夫。君だって乗馬クラブに行けば白馬くらい乗れるよ」
「馬に乗れるかどうかじゃなくて、王子様かどうかが問題なんじゃないの?」
聡美もさすがにしばらくは緊張していて受け答えもぶっきらぼうなことが多かったですが、徐々に二人でいることにも慣れて、コロコロとよく笑う少女になっていきました。
昼休みは聡美と過ごせるようになってよかったけど、それ以外の時間は相変わらず苦痛でした。先に書いたように、僕のいた高校はあまり、というか全然平和な場所ではありませんでした。
同じクラスにいた永野大椰は二年生のときも同じクラスでした。いつも何人かでつるんでいて悪さをしたり、外で女の子をナンパしたりしていたようです。強いやつには逆らわず、弱い者をターゲットにしていじめたりする連中。僕に迷惑さえかけなければ何をしたって知ったことではないのですが、二年生のときに大椰は僕をターゲットにしようとしてきたことがありました。
「今金がなくて昼飯買う金もねえんだ。鉄雄、悪いけど一万円貸してくれない?」
言葉は丁寧だけどただのカツアゲ。貸せば返ってこないし、卒業するまでタカられ続けることになるのは分かりきっています。
「そんな理由じゃ貸せない」
「断るのか。いい度胸じゃん」
まずいことになりそうだったので、翌朝、一万円を持って家を出ました。僕の方が先に登校して大椰を待ち構えます。
そのうち大椰と仲間たちの声がしてきました。彼らが階段を上りきったところへ進み出た僕は、ためらわず大椰を階段へと突き落としました。大椰は一つ下の階まで全身をぶつけながら落ちていきました。
「何しやがる!」
頭を押さえながら憤る大椰に、一万円札を階段の上からひらひらと放ってやりました。
「一万円貸してと言ってたよね。貸し借りは嫌いだからそれやるよ。医者代としてね」
「ふざけんな!」
と言いながら大椰がお札を拾うのを確認して、僕は教室に戻りました。
人妻キラーさんはネカマの僕を危ないやつだと思ったでしょうが、違う意味でも僕は危ないやつでした。
大椰はそれきり僕に手を出してきませんでした。
三年生になって、また大椰と同じクラス。しかも大椰の仲間二人もいっしょ。その三人は授業中騒いだり傍若無人なのに、なぜか茶道部に入っていました。この三人が入部したせいで、もともといた部員はほとんど退部してしまったそうです。
茶道部の三人は教室の一番後ろの席に大椰を真ん中にして並んで座り、僕はよりによって大椰の一つ前の席。
席が近くて何が嫌かというと三人の下品な会話が嫌でも聞こえてくること。
「今日はこんなものを持ってきてみました!」
「バイブじゃん。でもデカすぎね?」
「最近反応悪いけど、それならいい声で鳴いてくれそうだな」
気持ち悪いことに、三人は三人いっしょに同じ相手とセックスしているようでした。こんな下品な連中に体を許すくらいだから女もきっと同類なのでしょうが、知ったことではありません。クズはクズ同士でくっついていればいいのです。セックスなんて僕には当分先のことでしょうが、そんな僕にも生まれて初めて彼女ができました。聡美と会ってご飯を食べながらおしゃべりする昼休みだけが僕の救いでした。
今日 11:11
六月、僕らは初めてキスをしました。空き教室でほかに誰もいなかったとはいえ、廊下を通る誰かに見られないように、ほんの一瞬だけのキスでした。それからは毎日、一瞬だけのキスをするようになりました。
卒業後は僕は就職、聡美は四年制大学への進学を目指していました。大学受験といっても聡美は推薦入試を希望していて、受験勉強は必要ないということでした。
「君の方が学歴が上だから、すぐに給料が抜かされるんだろうな」
「お金には興味ない。大学で図書館司書の資格を取って、市立図書館で働きたいんだ」
「公務員か……」
図書館司書は本好きな彼女にふさわしい仕事に思えました。僕は特にやりたいこともなかったので、彼女に倣って公務員を目指すことにしました。
もし大卒者対象の公務員試験だったら受験申込期間は四月、すでに締め切られているので受験できないところでした。高卒者対象試験の申込期間は八月だったのでホッとしました。とはいえ一次試験は九月。試験日までたったの三ヶ月。
範囲の広い公務員試験の勉強をこんな試験直前から始める高校生は僕くらいでしょう。遅れを取り戻すために僕は放課後は速攻で帰宅して、毎日寝ないで公務員試験の勉強に没頭しました。放課後も聡美と会いたいのは山々でしたが、彼女がそばにいると勉強に集中できないとすぐに思い知らされたので仕方ありません。
「一次試験は学力テストで二次試験は面接なんだっけ? つまり一次試験のあとはそんなに勉強しなくてもいいってことだよね? 私、待ってるから、一次の試験日まで悔いが残らないように精一杯頑張って! 一次試験が終わったら放課後もいっぱい会おうよ」
聡美の言う通りです。僕は朝起きて家を出るまで、また帰宅して夜寝るまで、参考書や問題集とにらめっこする毎日を過ごしました。もちろん学校がない日は一日中そんな生活。僕の人生でそんなに勉強に打ち込んだことはそれまでもなかったし、それ以降もありませんでした。
七月に入り、せっかく昼休みに聡美と会ってもぼうっとしていることが多くなりました。
「大丈夫? 顔色悪いよ」
「僕の頭は勉強に向いてないのかもしれない」
「気が合うね。私もそうだよ」
彼女は放課後、相変わらず図書館で本を読んでいるそうです。彼女の推薦入試は十一月。でも指定校推薦入試なので、出願すればほぼ100%合格できるそうです。
その頃、ちょっとした異変がありました。三組の井海佳乃という女子生徒が僕に接近してきたのです。それまで同じクラスになったこともないし、僕と佳乃には何の接点もありませんでした。ただ僕は彼女のことは知っていました。女子たちからひどいいじめに遭っていて、大勢の女子生徒に囲まれている現場にも出くわしたことがありました。僕は正義の味方でもなんでもなく、自分自身を守るので手一杯のモブでしかないので、もちろん助けたりはしませんでした。
休み時間にクラスが違うのに僕のそばにやってきて、何かを訴えるような視線を向けてきました。
「何?」
「助けてほしいと思って」
「なんで僕が?」
「不良生徒を三人も階段から突き落として全員病院送りにしたって聞いて」
ほとんど間違っていて、訂正する気にもなりません。
「君はいじめられてるんだっけ?」
「うん……」
「戦いなよ。僕ならそうする」
「もう手遅れだよ」
佳乃は寂しそうに笑いました。僕は突き放したつもりでしたが、なぜかその日から休み時間ごとに佳乃につきまとわれるようになりました。
今日 11:12
二日か三日後の朝、家を出てすぐの場所で佳乃が待ち伏せしていました。夏なのになぜか制服の上に足首まで隠れるようなコートを羽織って。
彼女は僕を、いつもの道から少しそれた場所にあった無人の神社に誘いました。朝だし誰もいません。クマゼミたちがシュワシュワ鳴いているだけです。彼女は話があると言って、僕を社の裏側まで誘導しました。
社の床下に子どものおもちゃが散乱しているのが見えました。どうやらここを秘密基地にして遊び場所にしている子どもたちがいるようです。
とうとう家まで突き止められて僕は恐怖しました。そういう性格だからいじめられるんじゃないのか? 口には出さなかったものの正直そう思いました。
佳乃は背が低く、髪は天然パーマ、顔はそばかすだらけ。おそらく外見的な特徴がいじめのきっかけになったのではないかと思われます。でも彼女の一番の問題は内面的なもの。他力本願な考え方と依存心の強さ。これを解決しなければいじめの解消も難しいでしょう。
「僕には彼女がいるんだ。君と二人でいるところをその人に見られたら、とても困ることになるんだけど」
「迷惑かけてごめんなさい。春岡君に見てほしいものがあるんだ。君がそれを見てくれたらいなくなるよ」
一筋縄ではいかないんだろうなと覚悟していたら、あっさり立ち去ってくれるとのこと。僕はホッとしてそれで消えてくれるならと近づいてくる彼女に笑顔まで作ってやりました。
「それで見てほしいものって?」
「これ」
手の中に何か持っているようです。手紙か何かでしょうか。
「三十秒だけ目をつぶっていてほしいんだけど」
準備することがあるようです。それでおとなしくいなくなってくれるならお安い御用だと目をつぶりました。バサッとコートを脱ぐ音が聞こえ、すぐに僕の唇が何かで塞がれました。
この感触はもしかして……
目を開けると、目の前に佳乃の顔があり目が合いました。キスされた! 唇を離し怒りの声を上げようとした瞬間、僕はさらに驚愕しました。彼女が全裸だったからです。地面にさっき着ていた長いコートが脱ぎ捨てられています。靴と靴下だけ履いて、コートの下は裸だったってこと? 何も覆われていない彼女の胸も下腹部も思わず見てしまいました。
「彼女がいるって言ってたよね? 彼女とキスしたことはある?」
「あるよ」
「じゃあ、彼女の裸を見たことは?」
「ないよ」
「うれしい! 私が鉄雄君の初めてになれた」
冗談じゃない!
僕は聡美を裏切っているのでしょうか? でもそれは僕の意思ではありません。
佳乃は両手を僕の背中に回し、そのまま後ろに倒れました。人が見たら僕が裸の佳乃を押し倒したように見えるでしょう。あまりに現実離れした事態、僕の思考回路は停止しました。
「痛い!」
彼女は後頭部を打ったようです。
「大丈夫?」
思わず差し出した僕の右手を彼女は自分の胸に導きました。思考回路の停止した僕の口からとんちんかんな言葉が出てきました。
「そこが痛いの?」
「彼女のおっぱいにさわったことは?」
「ないよ」
「じゃあ、それも私の勝ちだね」
そのとき僕の中で理性よりほかの力の方が上回っていたのは確かです。初めて触れた異性の胸の膨らみから手を離せなくなっていて、自分から手を動かして揉んだり乳首にさわったりもしました。
「最後までしてもいいんだよ」
「最後まで?」
「だからセックス」
そう言われて少し体を起こして、思わず彼女の下腹部へ視線を向けてしまいました。彼女は抵抗しなかったどころか、自分から足を広げて僕にすべてを晒しました。
僕のと違って無毛。女子はその部分に毛が生えてこないのだろうか? そのときふと違和感を感じたことを覚えています。
「さわって」
「うん」
何のためらいもなく触っていました。
「あん!」
理性はすでに影も形もなくなっていましたが、そのとき誰かがこちらに近づいてくる気配を感じて手を止めました。子どもの声も聞こえました。しかも複数。ここを秘密基地にしている子どもたちでしょうか?
疑問が確信に変わり、コートを彼女の方に放り投げました。
「まずい。誰か来る」
チッと彼女が舌打ちをしたのを聞いて、僕は理性を取り戻しました。
性欲に負けた自分自身が恥ずかしくなって、彼女に何も告げずに走って立ち去りました。途中ですれ違った小学生くらいの男の子たちに、心の中でありがとうと手を合わせながら――
今日 11:13
その日の昼休み、後ろめたい気持ちを抱えたまま聡美に会いに行きました。ただ、朝の出来事を正直に伝える勇気はありませんでした。黙っていれば分からない。佳乃が聡美に告げ口することもないだろうし……
そんな根拠のない自信は空き教室で二人きりになった瞬間から粉砕されました。聡美は見るからに怒っていて、僕を目の前にしても一言も口を利きません。僕は思わず俯いてしまいました。
「鉄雄君」
「う、うん」
「まず私に謝らなければならないことがあるんじゃないの?」
「ごめんなさい……」
「謝る前に君の口から事情を聞きたい。言い訳は聞きたくない。今朝君と三組の井海さんのあいだに何があったか。それだけを教えて」
最悪の事態です。聡美はすでに聞いていました。佳乃はいったい何を考えているのでしょう? すべて正直に答えるほかなさそうです。
「浮気しました」
彼女がそれを望んでいるわけでもないのに、なぜか丁寧語で答えていました。
「具体的に何をしたの?」
「彼女の裸を見たり、体にさわったりしました」
「最後までしてないってこと? 本当に?」
「本当です。でもそれは人がやって来たからで、誰も来なかったらそれで終われた自信はないです」
「前にもこういうことはあったの?」
「ないです。今日が初めてです」
「井海さんのことが好きなの?」
「僕が好きなのは君だから」
「じゃあ、どうして!?」
「性欲に負けてしまいました」
警察の尋問を受けている気分になりました。もちろん実際に警察の尋問を受けたことなんてなかったですが。
「嘘は言ってないように見える。でも浮気は浮気。私は傷ついた」
「ごめんなさい!」
深々と頭を下げたけど、土下座した方がよかったでしょうか?
「鉄雄君が公務員試験の勉強をどれだけ頑張っていたか、そばで見ていた私が一番よく知っている。覚えておいて。ふだんどんなに頑張っていても、たった一度の間違いですべて水の泡になることもあるんだよ」
「うん」
「今、君の口から君の浮気が事実だったと聞かされて、それでも君を嫌いになれない私は馬鹿だと思う」
「僕は馬鹿だけど、君は馬鹿じゃない」
「誰だって魔が差すことはある。だから一度だけなら許してあげてもいい」
「本当に!?」
「嘘を言っても仕方がない。ただ次は絶対に許さないし、君の今の言葉に一つでも嘘や隠しごとがあれば私は全力で君に仕返しする」
「嘘も隠しごともないです」
「嘘は分からないけど、隠しごとはあったよね?」
「えっ?」
「裸を見たり体にさわっただけじゃないよね? キスもしたくせに」
それは決して隠したわけではなく、裸を見たり体にさわったりすることより小さなことだと見なして省いただけでしたが、まずかったのでしょうか? 聡美に全力で仕返しされる事態になったと知って、目の前が真っ白になりました。
「あんまりいじめて試験勉強が手につかなくなったら困るから仕返しは保留するけど、これからは勉強に集中して何はともあれ試験に合格して!」
「ありがとう」
「私もなるべく今まで通りの態度で君に接しようと思ってるけど、浮気されたことを思い出して突然怒り出してもそれは大目に見てね」
「君が怒るのは当然だと思う。それで逆ギレしたりしないよ」
「約束だよ」
「約束する」
佳乃の話はそれきりとなり、その日以降僕らの話に彼女が登場することはありませんでした。佳乃が僕の前に現れることもなくなりました。僕は今まで以上に勉強に打ち込み、昼休みには聡美と明るく話し、そして夏休みになりました。