カフェに訪れてからだいたい二時間ほど経過した頃、リナとアキトの方は今後の予定を確実なものにし、カナとミナはひたすらに戦姫大戦を繰り返し戦闘技術を磨き上げていた。が、流石に長居はマスターの迷惑にもなると思い彼女達のラスト勝負を見てからカフェを後にすることに。
「今更だけどランク低いのによくEN切れないわね?あんた自身がかなり高性能か何かなの?」
「さぁ?私捨てられた戦姫だからわかんない けど、可能性としてはランクが低い分消費するENが少ないんじゃない?現に私のビームサーベルの消費EN、アナタのサーベルと比べると倍くらい違うでしょ?」
「たしかにそうね、て事はやっぱりあんたのEN量が多いというより兵装の消費量が少ないってわけね。」
「その分火力低いけど、長期戦には向いてるってことが判明したね」
「私とのやり合いで長期戦になった事ないけどね?」
「この後ミライソフトとやり合う時は絶対連戦だから、その時のことを私は指してるの」
「まぁ私はこれ以上は関わることはないと思うしどうでもいいけど」
「じゃあラスト試合やるか」
「はいよ」
カウントダウンが始まり、試合開始の合図が鳴る。それと同時に両者動き出す。先手を打ったのはミナ、彼女の兵装のひとつ『スタンダードビット』を展開しカナを取り囲みタイミングを少しづつズラして射撃を開始する。
「その攻撃はもう飽きた!」
そういい最低限の動きのみで四方八方囲まれたビット兵装を避けて徐々に距離を詰める。
大抵の戦姫…というより、ランクD以下の戦姫はこのビット兵装に囲まれた時為す術なく全て己の肉体で受け止めることになる。それもそのはず四方八方を取り囲み死角からの一撃を突然入れられるのだ。ビット自体の火力は低くとも死角からの一撃は威力関係なく厄介であり、体勢を崩されればそのまま相手のペースに持っていかれ完封されてしまう。
それほどまでに厄介な兵装で対処法はライフルで撃ち落とすか機動力を底上げしてロックから外れることの二択がよく挙げられる。というのも、ビットの弱点として追従性はそれほど高くないため戦姫の速さが高ければあっさり抜けられるものなのだ。しかし、先ほど挙げたランクD以下の戦姫はこのビットを避けるほどの速さを持つ装備は早々手に入らず、強引な対処として装甲を厚くしてダメージ軽減を図ることが多くある。ビットを撃ち落とす方法に関しては、そもそも出来るものが少なく案としてあるだけでやれるものはほとんど居ない。しかし、この二時間……。僅か二時間で彼女はランクD以上の対処法を心得ていた。
その対処法の一つとして ”ビット兵装を放ってきた相手の方にあえて近付くということ” ビットの特性上相手を追従するため、こちらに近づく相手に対してビットも同じように近付いてくる。そして、ビットの射撃は自身相手関係なく等しくダメージが入るため、ビットを扱う相手は距離を空けるしかない。勿論この対処法はかなりリスクが高い。当たり前だが相手に近付くためには前進しないといけないが、そこに合わせてライフルを撃たれ被弾する可能性が大いにあり、それにかすりでもすれば態勢を崩して、ビットの餌食になることだって有り得る。諸刃の剣ではある対処法だが、ランクD以上はこれが普通に出来ないと話にならないのだ。では、これ以外の方法はあるのか?もちろんあるが、その対処法は常人の域を超えないといけない。
もう一つの対処法は最低限の動きのみで避けるということ。というのもビーム兵器は基本直線的なものが多くあり、銃口がどこを向いてるかさえ分かれば避けることも容易く、ビット兵装も同じようにターゲットである自分を狙うということは着弾点も自身になる。後は相手が射撃する際どこを撃ち抜きたいかを考えれば死角からの一撃は食らうことは無い。もちろん理論上は簡単に聞こえるが、実戦でそれができるかと言われればほとんどの戦姫は出来るわけが無い。死角からの一撃を避けるなど『後ろに目を付ける』レベルでないと行える代物ではない。しかし、カナはこの僅か二時間でその最低限の動きのみで対処をするという常人の域を超えた業を手に入れたのだ。
(くっ!?この娘この短時間で急成長したわね……。その場からほとんど動かず避けるなんて一歩間違えたら**ランクA**と同義よ?もしかするとこの娘センスの塊かもしれないわ)
「距離さえ詰めれば条件は同じ!」
「そんな訳ないでしょ!私の装備の方がランクが高い分火力も倍近く違う!あなたの装備では一撃もらうだけでもかなりの痛手よ!」
距離を詰められミナも改良型ビームサーベルを取り出しカナのサーベルと鍔迫り合いになる。出力で言えばやはりミナのサーベルの方が高いため徐々に押されていくカナだったが鍔迫り合いに勝てないことを見越しあえて出力をゼロにし力も抜いてミナの攻撃をいなして隙を作らせることに成功する。
「なっ!?」
「私だってただ二時間ボコられてた訳じゃないっての!」
相手を押し込むように体重を掛けていたため突然支えが無くなったミナはそのまま倒れ込み、大きく体勢を崩したその瞬間思いっきり蹴りを入れられ大きく後退する。
「ガハッ!!」
「いっちばん最初にやってくれたお返し」
「……いいねぇ。久しぶりに私もゾクッときたわ。残念だけどここからは一方的な殺戮になるから、降参する時間をあげる。」
「嫌だね。最初に言った通り私は勝ち負けなんかよりもこの瞬間を楽しみたいの。」
「そう……じゃあ警告はしたから恨まないでね。」
ゆっくりとミナは立ち上がり左手に持っていた盾を投げ捨てひと呼吸おきカナを睨む。その瞬間カナの直感が感じたのは寒気。先程までのミナの、やり合いながらもどこか優しい雰囲気は無く、あったのは確かな殺意だった。その刹那の油断が勝敗を分けた。一瞬怖気付いたカナを見るや否や再度ビットを展開する。しかし、今回は彼女を取り囲むのではなく、自身の背後に浮かべ距離を詰めながらビットを掃射する。今までやってこなかった戦術ゆえに反応が遅れて後手に回ってしまい数発被弾し仰け反った隙をつかれて、眼前に迫ったミナがにニコリと笑みを零して「私の勝ち」と呟いたと思えば腹部に当てられたサーベルの柄から出力最大の刃が現れそのまま射抜かれて試合は幕を閉じた。
「いやー……。ちょっとやり過ぎたね。」
「あの空間じゃなきゃ私死んでたけど!?」
「ま、あれだけ煽り散らかしたんだ。罰が下ったんだよアホたれ。」
「だって、舐められたまま去るのは癪じゃん?」
「リナの戦姫は所持者に対して性格がこうも反対になるとはね」
「受け身でオドオドしてる僕とガツガツ行くタイプで元気な戦姫ってか?」
「そこまで語気強くは言ってない。」
「なんにせよいい経験にはなった。あとは、僕の方で何とかしてみる」
「俺に出来る事あればすぐ助け舟出すから安心しな。」
「正直ガチで頼りにしてる」
コメント
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一応テノコン期間内で壱章は書き終えるように予定してます