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____奇病に咲く、一輪の恋の終わり
その花は、喉から咲く。
咲くたびに、声が霞む。吐くたびに、命が削れる。
美しい分だけ、残酷だった。
「……またかよ」
白い洗面器の中で、花びらが静かに揺れている。
俺はそれを右手で掴み、見つめた。小さな花弁。
どこかで見たような…
__あぁ、これは”紫蘭”の花か
・・・
花を初めて吐いたのは五年前だった。
町の学校で化学教師兼軽音部顧問をしていた。
人前に立ち、理論を教え、
感性に触れ、生徒たちが新たな勉学に興味を
持っていくことに
nk 「ね、せんせ!ギター弾けるようになったんだよ!聞いて聞いて!」
Br「僕が先だよ!せんせ! この前の生命科学のレポートまとめてきたから…、提出期限はちょっと過ぎてるけど見てよー!」
nk「はぁ?違うしー!!俺が先だしー!」
Br「なんだとぉ〜?!」
nk Br「___⁉︎」
同僚との些細な会話に
kr「はぁ、また喧嘩してるじゃんw」
kn「あいつらはどーしよーもねーよなw」
kr「まさかそんなにもお前が好かれるとは…」
kn「わかる、それなw」
幸福を見出していた。
だが、その中の一人に__
予期せぬ人物と出会ってしまった。
???「やっほー、せんせー達」
kr「おぉ、”シャークん”か」
kn「あいつらどうにかしろよーw」
shk「いやでーす。俺はスマイルせんせーと話に来たから」
kr「こいつも駄目だなぁ…」
kn「まぁまぁw」
shk「…せんせ、あいつら喧嘩してるから暇だろ?俺の話聞いてよ」
ぱっと見て目立つ目の隈の奥で、緑碧玉のような瞳が。
目を見張るほどに輝いていた。
音に触れると無邪気に笑い、無口な俺にも臆せず話しかけ、
見かけによらず面白く、優しい生徒
彼は音楽家を目指していたが、化学でも輝ける
ほどの十分な知識を持っていた
彼と同じ空間で居合わせるようになり3ヶ月程
ある日ふと気づいた。
彼が隣にいるだけで、心が暖かくなる
その晩、初めて喉が詰まった。
激しく咳き込むと、喉から”紫華鬘”が溢れる
・・・
shk「……せんせー?」
それは、悪夢の再来のようだった。
数年ぶりかに会った彼が、俺の家の前の大きな木下で佇んでいる
背が伸び、輪郭が大人びていた。
けれど
あの鋭く、美しい瞳は変わっていなかった。
shk「…久しぶりっすね。せんせーがこんな田舎にいるなんて思わなかった」
昔までずっと軽い口調だった彼が敬語を使って
いるに成長を感じる
少し低い声も、癖のある笑い方も
全部全部覚えていた。
そのすべてが俺の胸を締め付けた。
「……何してるんだこんな所で」
shk「……俺のセリフっすよ…w」
お前は無邪気にそう言うけど、どうしてそんなに優しい?
シャークんは、何日か滞在するつもりでこの町を訪れたと言った。
そして、俺の家に置いて欲しいとも言った。
かっての恩師を探すためにこの街に訪れた
__たったそれだけで。
俺はは断ることができなかった。
この短い時間さえ、もう二度とないかもしれないと思ってしまったからだ。
・・・
初めの数日は、奇病のことを隠し切れていた。
が、
日が経つにつれ、俺は身体の異変を隠せなくなった。
シャークんは数日で帰宅かと思いきや何週間も泊まっている。
異変を隠せなくなったのは恐らく、シャークんと過ごす日々を重ねているからだろう
夜になると、喉の奥が焼けるように痛み、紫色をした”文目”が口からこぼれ落ちた。
シャークんには最初気づかれなかった
けれど、ある夜。
シャークんが部屋の前を通っていたことに気づかず、咳き込み、花を吐いた
shk「………せんせーッ?!、大丈夫?」
「…ッ?!」
見つめるその瞳が怖かった。
問い詰められるのが怖くて、俺はは口を閉ざした。
シャークんは床に落ちた花を見て、目を見開いた。
長い沈黙の後、シャークんはゆっくりと口を開く
shk「俺、小さい頃に姉を亡くしてる。
……花吐き病だった。」
shk「好きな人に想いを伝えられなくて、ずっと一人で…。」
「……」
shk「…だから、俺は分かる。あれがどれだけ、つらいか」
俺は動揺して震える
「どうして……、」
俺の発言を遮るようにシャークんは言う
shk「なぁ、せんせーは誰を想ってるんだ?」
その問いに、答える言葉はなかった。
ただ、咳と共に吐き出された”桔梗”が、
彼の足元に落ちた。
それは、答えよりも明確だった。
・・・
数日後の夜。
火が落ちた暖炉のそばで、俺は静かに言った。
「……俺は、シャークんと居ると安心する。心が暖かくなる。でも教師として、お前にそのような感情を抱くのは可笑しなことだ。」
「……シャークんの未来を、音を、曇らせたくなかった」
shk「……何言ってんすかせんせー」
シャークんが囁くように言った。
shk「俺は、ずっとせんせーのこと…」
「……!」
shk「…な、せんせ。変なお願い聞いて?」
「…ん?」
shk「…夜だけ、俺らは恋人。良い?」
「……うん」
花吐き奇病の症状が現れるのは夜。
好意を寄せている相手と恋人として結ばれれば、この症状はおさまる。
ーーーーー『夜だけ俺らは恋人』
その言葉は、奇跡のようだった。
喉の痛みが、一瞬だけ和らいだ気がした。
だけどその奇跡が訪れるのはあまりにも遅かった。
・・・
shk side
翌朝。
俺は目覚めた時から何か嫌な予感がしてた。
不安で仕方なくて、スマイルの身になんかあったんじゃ無いかって
リビングに行くと
ピアノの横で、スマイルは花の香りに包まれて静かに息を引き取っていた。
彼の中には彼が遺したであろう楽譜。
そして白色が強調された”苧環”が置かれていた。
彼が最後に残した、美しい花
俺はその花を手に取って、涙をこぼした。
「……どうして、もっと早く言ってくれなかったんだよ」
花は何も答えなかった。
・・・
数ヶ月後。
俺はスマイルの遺した楽譜を演奏していた。
そこには、彼が最後に書き残した旋律があった。
静かで、優しくて、どこか涙のようなメロディ
俺はその曲に、**『君を呼ぶ花』**という題をつけた。
彼が生きていた証に。
彼が愛した想いのすべてに。
そして__いつかまた、花が咲くその日まで。