omr side
僕と彼と運転手しかいない車の中。
僕と彼は後部座席で、右に座る僕は右の窓を、左に座る彼は左の窓を見ていた。
外は暗く、夜中と言ってもいいくらいの時刻。
反射に反射を繰り返して、僕が見る窓に映し出される彼の表情は、どこか物憂げな雰囲気を漂わせている。
いつも元気な笑顔を浮かべる彼が時々見せるその表情に、僕はいつも少し胸が痛めていた。
どこか儚げで切なげで、掴んでいないと勝手に離れていってしまいそうな…。
車がトンネルに入った瞬間、トンネル内ならではの曇った大きな音が車の中を包んだ。
ちらりと運転をするスタッフの顔をバックミラー越しに盗み見た後、真っ暗な車の中で横にいる彼に小さく声をかける。
「涼ちゃん」
ぼーっとしていた時に急に話しかけたからか、少し肩を跳ねさせる涼ちゃん。先程の憂いの表情からころりと雰囲気を変えて、いつもの笑顔で僕を見た。
彼が柔らかく笑ってこてんと首を傾げるのを確認して、目を見て
「大好きだよ」
と伝える。
きっと上手く優しく笑えている。
fjsw「…?僕も元貴のこと大好きだよ!」
僕の言葉の意味を理解をしていないような彼の元気な返事。 頬を赤らめもせず、からりとした笑顔で簡単に返された言葉。
君の「好き」は友達として。
僕の「好き」とは形が違う。
それを分かっていながら君の「好き」に縋り付く自分はどこまで間抜けなのだろう。
嫌になるほど鈍感な彼の笑顔を見ているとなんだか泣きそうになって、体を彼に寄せてぎゅっと抱きつく。
「涼ちゃんは僕から離れたりしないよね」
そう言うと、彼は背中をぽんぽんと優しく叩いて安心させるような宥めるような声色でこう言った。
fjsw「離れたりなんかしないよ、大丈夫。」
知ってる声。
知ってる匂い。
知ってる温もり。
独り占めしたくて、でもそんなこと出来る立場じゃなくて、その立場を掴み取る勇気もなくて、
「約束だよ」
fjsw「うん、約束」
そうやって形の無い口約束しか出来なかった。
沢山の注目を浴び、好奇の目に晒される職業。
有難いことに今は仕事も溢れるほどだ。
身体にも、精神にも来る仕事。
メンタルも常時不安定で、いつも見られているという恐怖、知らぬところで起きる自分達のことのいざこざへの不安、人を信じることが出来ない不信感。本当に何度狂いそうになったことか…。
そんな時いつも寄り添ってくれるのは、同じメンバーにして今僕の腕に抱かれる彼。
いつも助けてくれるのは彼で、でも彼はそれをさも当たり前かのようにやっていて、きっと誰にでもやっているんだろうなと思わせる。
その君の雰囲気が、僕を「助けてくれた。ありがとう。」で終わらせない理由だった。
届きそうで届かない。
ふらりゆらりと簡単には捕まってくれない彼に焦燥感を覚えていた。
トンネルを抜けると同時に彼から離れ、ぴったりと横に座る。
まとめると、僕は涼ちゃんの事が好きだ。
彼が思う友達としてではなく、恋愛対象として。
もちろん他の人と話してたら嫉妬するし、涼ちゃんが居なかったら不安になるし、いつ何時でも涼ちゃんのことを思ってる。
そういう「好き」だ。
僕はひねくれてるので、もう既に彼に内緒で彼に対して邪魔な好感を持つ何人かの共演者を内緒でNGを出していたりもする。
君はそれに気付かず変わらず僕の傍に居る。
「最近あの人と会わないなぁ」と少し落ち込んでいるのを見ると小さな苛立ちを覚えるが、まだバレてないという安心感もある。
”離れたりしない”
”元貴最優先”
”ここに居る”
”大丈夫”
彼のその言葉が僕に呪いをかけた。
隠して我慢していた僕の独占欲、嫉妬心、依存気質は彼によって解かれた。
涼ちゃんが悪いんだよ、涼ちゃんがそんなこと言うから。
社交的な彼に僕がいくら胸を痛めようとも、何も気付いてない涼ちゃんは友情関係としてしか僕のことを見ていない。今は別にそれでも良かった。 ミセスとしてだけでもずっと一緒に歩んで、僕の傍に居てくれるなら。
ただそれだけ、ただそれだけで良かったのに
君の言葉を信じた僕が馬鹿だったよ。
あんな口約束の細い糸で結びつかせるよりも、最初から鎖に繋いで鳥籠に入れてしまっておけばよかった。
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\3話後記/
これが最後の前置きストーリーです。
次回から話がどんどん進んでいくかな?
めちゃくちゃ私事なんですけど、最近憧れ様にフォローといいねをしていただいて、本当に嬉しすぎて舞い上がってます。お名前出していいのか分からないので伏せますが、本当にありがとうございます!いつも小説、楽しく読ませていただいてます。
この3話で小説の雰囲気やおもりの考え方とか目線を感じ取って頂けていたら嬉しいです。
次回からもよろしくお願いします!
今回もハートやコメントお待ちしております…🙌🏻💗
ではまた次回!🫶🏻
コメント
4件
書き方めっちゃうまいですね!このお話しめっちゃ大好きです!
私も一緒に車の中に乗ってるような感覚になりました!!!これからどうなっていくのか、楽しみです🤭♥️💛