コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
大学のキャンパスは卒業生たちでにぎわい、袴やスーツ、笑顔と涙があふれていた。
みこともその一人──淡いグレーのスーツに、控えめなネクタイ。
慣れない正装に少し落ち着かない様子で、式を終えた人波の中、すちを探していた。
「……あ、いた」
すちも同じように、スーツ姿。
いつもより少し大人びたその姿に、みことの胸がきゅっと締め付けられる。
「お疲れ、みこと。……卒業、おめでとう」
「すちも……おめでとう」
その言葉を交わすだけで、ふたりとも少し目元が熱くなった。
「ちょっと、ついてきて」
すちは言って、校舎裏の桜並木へみことを誘う。
誰もいない静かなその場所は、ふたりにとって思い出のある場所でもあった。
「……ここ、懐かしい」
「最初に告白したとこだからね。今日が最後の日になるなら、ここがいいと思った」
「……最後じゃないよ。始まりの日だもん」
みことがそう言って、柔らかく笑う。
すちは小さく頷いたあと、胸ポケットから小さな箱を取り出した。
「みこと」
「……うん?」
「大学も卒業して、これから一緒に住む。でも、それだけじゃ足りない」
すちはまっすぐみことを見つめる。
「俺は、これからもずっと──みことの隣で、生きていきたい」
「笑って、泣いて、ケンカして……それでもまた手を繋いで前に進みたい」
「……だから」
すちは箱を開けた。
中には、シンプルであたたかみのある、ペアリングがふたつ。
「みこと。……俺と、一生一緒に生きてくれませんか」
みことは、一瞬言葉を失って、それから涙を浮かべて笑った。
「もう……反則だよ……卒業式でプロポーズなんて……」
「返事、聞かせてくれ」
「……はい。よろこんで」
すちはみことの左手を取り、指にリングをそっとはめた。
ぴったりと、そこに収まった指輪は、まるで初めからそこにあったように自然だった。
「じゃあ……すちにも、つける」
「……うん」
みことの手で、すちの指にもリングがはまる。
「卒業、おめでとう。──そして、これからもよろしく」
「俺のセリフだよ……ばか」
ふたりはそのまま、手を繋いで桜の下を歩き出す。
それは「終わり」ではなく、
確かに、「ふたりの人生の始まり」だった。
━━━━━━━━━━━━━━━
卒業式の翌日。
キャンパスの近くの小さなカフェ。
予約した窓際の席には、すでにこさめ、らん、いるま、ひまなつの4人が集まっていた。
遅れてやってきたすちとみことが並んで座ると、みことの表情にふと気づいたこさめが身を乗り出す。
「ねぇねぇ、なんか顔ほころんでない?昨日からずっとニコニコしてるじゃん、みこちゃん~」
「……えっ、うそ、ばれてる?」
「ばれてるどころか、絶対なにかあったって顔してるよね」
「なになに、もしかして、すちに──告白でもされたとか?」
茶化すようならんの言葉に、みことは照れくさそうに笑った。
「……うん。プロポーズ、された」
「……ッ!!!」
その瞬間、空気が一気に弾けた。
「ちょ、ちょっと待って!? 卒業式で!? どんなタイミングで!?」
「えっ、指輪とか……あ、やっぱあったんだ! 見せて見せて!!」
4人の反応にすちは少し照れながら、胸ポケットからリングの箱を取り出した。
みことも左手の薬指をそっと差し出す。
「……わあ……似合ってる……!」
「シンプルだけど、めっちゃ可愛い……ねえ、これすちが選んだの?」
「うん。みことの指、知ってるから。ちゃんとサイズも考えて作った」
「ひゅ~~、さすが独占欲のかたまり……」
「はいはい! じゃあ我らからも祝福を──みこと、すち、おめでとう!!」
「「おめでと~~~~~!!」」
拍手と笑い声に包まれて、みことの頬はますます赤くなる。
「これから、どうするの? 一緒に住むんだよね?」
「うん。引っ越しも決まってる。社会人になって、落ち着いたら正式に──って思ってる」
「いやあ……こっちはさ、ずっとふたりの関係見てきたからさ、なんか、うるっとくるよな」
「ホント、俺たちの中で一番しっかり未来見据えてんじゃん。……見習います」
そんな言葉に、ふたりは照れながらも目を合わせて、静かに笑った。
窓の外には、春の陽射し。
未来はまだ遠くにあるけれど、確かに今、同じ方向に歩き出していた。
━━━━━━━━━━━━━━━
♡400↑ 次話公開