「よし……これで、最後の荷物、運び終わったね」
すちは額の汗をぬぐって、ダンボールをそっと床に置いた。
小さなアパートの一室。
玄関からリビング、寝室にかけて、段ボールがまだ無造作に積まれている。
みことはその間をぴょこぴょこ歩きながら、箱に貼ったラベルを読んでいた。
「これは……食器類、で、これは衣類……あ、この箱、“俺の大事な宝箱”って書いてある」
「触るなよ、それは……!」
「ふふ、なに入ってるの? もしかして……俺の写真とか?」
「それは……企業秘密」
そう言いながらも、すちは少し照れて視線を逸らす。
その仕草に、みことも思わず笑ってしまう。
夕方には、最低限の家具とベッドのセッティングが終わった。
キッチンに電気ケトルとマグカップだけがぽつんと並び、窓から差し込む夕陽が淡く照らしている。
「なんにもない部屋なのに、すちがいるだけで……なんか、安心するね」
「俺も。……こんなふうにふたりで生活するの、ずっと夢だった」
「最初は洗濯機の使い方でケンカするかもだけど?」
「そうなったら……そのまま風呂場で仲直りだね」
「もう……バカ」
みことはクッションに顔をうずめて笑い、すちはその背中に毛布をそっとかけた。
夜はコンビニのお惣菜と、お祝いのケーキ。
「今日は、これでいいよね。明日からちゃんと自炊、がんばろうね! ……すちの作る味噌汁、楽しみにしてる」
「俺も。みことの卵焼き、好きだから」
ふたりの箸が静かに動く。
どんな豪華なごちそうよりも、目の前のこの時間が、かけがえのないものだった。
夜。
少し広めのダブルベッドに、ふたりで並んで入る。
「……なんか、ちょっと不思議だね。ちゃんと、恋人って感じする」
「違う。もう“家族”だよ」
その言葉に、みことはそっと目を伏せた。
「家族……いいな。……じゃあ、これからもたくさん甘えていい?」
「……好きなだけ甘えて。毎日抱きしめて寝ようかな」
「……ありがとう。すち」
「おやすみ。俺の“だいじな人”」
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コメント
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え!?俺の宝物!?もう写真確定なのでは(( あとお風呂場で仲直り!?え、どうやって仲直りするか予想できるけどめっちゃ見たいw