コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「はぁ…」
結局、押し付けられるように鞄を渡され自宅まで持ち帰ってしまった
運ぶ途中、謎に重たいのが気になり何度も中身を確認しようとしたが片手間に開けるには複雑な造りをしていてよくわからなかった
「変な物だったらどうしよう…」
一抹の不安を感じ仕事を終えても一週間は放置していたが、とりあえず見てみない事には始まらない
テーブルの上に鞄を置き、よく観察する
「これは、鍵穴?」
高価な鞄に鍵が付いているのは当たり前
しかし施錠されているなんて話は一切聞いていない
これでは、開けられないが
あの店主、まさか本当に厄介払いしたかっただけなんじゃ…
「ん?なんですかねこれ…あ!」
購入品を漁っていると、ご丁寧に鞄と対になるような金の鍵が出て来た
「いつの間に…。」
これで逃げられなくなったような複雑な気分になりつつ鍵を差し込み、回す
ガチャ
小気味良い開錠音が聞こえ、軽く鞄が口を開けたのを見て一気にそのまま押し上げた
「えっ」
そこには、膝を抱えて眠るように横たわる美しいアンティークドールがいた
「人形…ですよね、これ」
サイズ的に、そうでなければおかしいが、あまりの精巧さに人形かどうか疑いそうになる
それほど目の前の存在に生命を感じた
恐る恐る手を伸ばし鞄から人形を出してみると、気づかなかった全体が露わになる
「意外と大きいな」
人形は小型犬か猫くらいの大きさは、ありそうだ
真っ直ぐで深みのある美しい紫の髪に鼻筋の通った端正な顔立ち
固く閉じた瞼の先に並ぶ長い睫毛
上等な生地で誂えた袴
そこから伸びる白くしなやかな手足
見れば見るほど、とんでもない物を貰ってしまった気がする
「何処からこんな物仕入れてくるんですかね、あの店主」
やはり只者ではなさそうだ
とりあえず人形を座らせて鞄の中に説明書でも入っていないかと探す
まぁ古そうな見た目からして期待は出来ないが
「お?便箋と、また鍵?いやネジ?」
鞄を開錠した鍵とは別の少し大きめの鍵?ネジ?を眺めながら一緒に入っていた便箋を取り出した
「巻く?」
人形とネジを交互に見てピンとくる
まさか、からくり人形的な…?
推測が確信に変わるのは早く、人形を裏返して背面を見れば一目瞭然
いかにもピッタリハマりそうな穴
ここにネジを入れて巻けば動き出したり音が鳴ったりするということだろうか?
「というか『巻きますか・巻きますか』って“巻く”しか選択肢ないじゃないか」
ツッコミ所を見つけてボヤくも、どの道自分は結果的に巻いていただろうなと冷静に考える
いや、こんなの見せられたら誰だって巻きません?
カチャカチャ
壊れてしまわないように優しくゆっくり限界までネジを巻く
これ以上回らないだろうなというところで抜いた
「……あれ?動きませんね」
巻いた瞬間、何かしらのアクションが起こるものだと構えていた身としては、ちょっと拍子抜けだ
「やっぱり古いものだから壊れているのか?」
鞄の上に人形を座らせて正面から様子を見てみる
俯いたまま人形に変化は、ない
「…まぁホラーのような壊れかけた音声で話されるよりマシかな」
諦めて乱れた人形の髪を整えようと手を伸ばした、その時
「気安く触らないで貰えます?」
凛とした声が室内に響いた
「えっ…」
ハッキリと聞こえた拒絶の言葉に目を見開いて動揺する
念のため辺りをキョロキョロと見渡すが自分以外には、誰もいない
なんだ?
「当然の反応ですが…今貴方に話しかけているのは、目の前に居るこの僕です」
明らかに前方から聞こえてはいけない声がして正面を向けずに冷や汗が頬を伝う
生唾を飲み込んで浅い深呼吸をした後
ゆっくりと声の出どころを辿った
「はじめまして、貴方が僕を買った酔狂な方ですか?」
俯いていた人形の頭がスッと持ち上がり閉ざされていた瞼がしっかりと開かれていく
爛々と輝くエメラルドグリーンの瞳の奥には驚愕した私の顔が映り込み
緩く弧を描く口元が無邪気に、こちらの反応を楽しんでいた
「うわああっ!」
反射的に人形から距離をとり、混乱の中でも無意識に武器になりそうな物を探す、が近くには何も無かった
「ナイスリアクションです!特にパニックになって僕を投げなかったのは、ポイント高いですよ」
きゃっきゃと可愛らしい笑い声を上げながら、さっきまで物言わぬ人形だったものがコロコロと表情を変えて話しかけてくる
なんだ、この恐怖体験
つづく