テラーノベル
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どれくらい、そうしていただろうか。
涙が枯れ、代わりに心地よい疲労感が胸を満たした頃、ナオミはゆっくりと穂乃果の肩を離した。大きな親指が、濡れた頬をそっと拭う。
「……少しは、すっきりした?」
「……はい。すみません、取り乱してしまって」
ふと、穂乃果は自分が顔を埋めていたナオミの胸元に目を落とした。厚手の白いバスローブが、涙でぐっしょりと湿ってしまっている。
「あっ……! す、すすすっ、すみません、ナオミさんのバスローブ、私……汚しちゃって……っ」
申し訳なさで顔を真っ赤にし、穂乃果は慌ててナオミの腕の中から離れようと、一歩後ろへ下がった。
今の自分は、きっとひどい顔をしている。泣きはらした目で、鼻も赤くなっていて、こんな惨めな姿をこれ以上晒してはいけない。そう思って顔を背けようとした、その時だった。
ナオミの腕が素早く伸びてきて、穂乃果の後頭部をぐっと押さえた。
「え?」
抵抗する隙もなく、穂乃果はまたナオミの胸に逆戻りしてしまった。
「ひゃっ……!? なっ、ナオミさん!?」
「今更なに遠慮してるのよ。……アタシの前では我慢しなくていいって、言ったでしょ」
低い声が頭上から降ってくる。穂乃果は顔をナオミの胸に押しつけたまま、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
(ど、どうしよう。離れようとしたら、逆に引っ張られた。なんで。なんでそうなるの。これはどういう状況なの……っ)
心臓が、うるさい。さっきとは違う種類のうるささで、全力で主張している。
ナオミの体温が高い。バスローブ越しでも、素肌の熱がじかに伝わってくるようで、脳がうまく働かない。それに、この香り。スパイシーで甘い、ムスクとパチュリの奥に、石鹸の清潔な香りが混ざって——。
(落ち着いて、私。落ち着いて。ナオミさんはただ、気を遣ってくれてるだけで……っ)
「……ナオミさん、あの、そろそろ」
「うるさい」
「で、でも」
「いいから。もう少しだけこうしてなさい……というか、アタシがこうしていたいのよ」
「な……、なん、で……」
「なんで……って。そりゃ……」
言いかけて、ナオミは言葉を飲み込んだ。
穂乃果のうなじに添えられた長い指が、行き場を失ったように微かに彷徨い、そして再び、吸い付くように熱く重なる。
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あや