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あや
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「……どうしてかしらね。女をこんな風に抱きしめるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないと思ってたのに――……」
自嘲気味に吐き出された声は、ひどく熱を帯びているように感じる。
するりと伸びてきた指先が穂乃果の頬に触れた。ハッとして顔を上げれば真っすぐに自分の方を見ている熱い視線に不覚にもドキリとしてしまった。
(ナオミさんって、やっぱりまつ毛長い……)
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
ナオミの指が顎にかかった。と思う間もなく、唇に、信じられないほど柔らかい感触が重なった。
「え……っ」
チュッと、密やかなリップ音が耳元で跳ねる。
一度離れた唇が、またすぐに触れる。今度は、逃げることさえ許さないほど、先程より深くて長い、熱を帯びたキスだった。
ナオミの吐息が、穂乃果の口内へと流れ込む。
スパイシーなムスクと石鹸の香りに、ナオミ自身の熱い香りが混ざり合い、穂乃果の脳を痺れさせた。
驚きで硬直したままの穂乃果の唇を、ナオミはゆっくりと、味わうようになぞる。迷いながらも、抗えない力で歯列を割って侵入してくると、奥で縮こまるように震えていた穂乃果の舌に、ナオミのそれが湿った熱を伴って絡みついた。
しっとりと、奥まで吸い上げられる感覚。
背筋を駆け抜けるようなゾクリとした甘美な刺激に、穂乃果の手が、ナオミのバスローブを強く握りしめる。
「……っ、ん……ぅ」
思考が真っ白に溶けていく。女に興味がないはずの人が、なぜこんなにも必死に、私を求めているのか。
ナオミの腕に力が籠もり、穂乃果の身体が、ナオミの素肌の熱に溶け込んでしまいそうになった、その時。
――バッ、と。
弾かれたように、ナオミが勢いよく離れていった。
「っ、はぁ、……っ!」
ナオミは肩を激しく上下させ、顔を背けたまま、乱れたバスローブの襟元を掴んだ。
さっきまでの熱い支配が嘘のように、部屋に冷ややかな静寂が降りる。
穂乃果は、唇に残った痺れるような余韻と、潤んだ瞳で呆然とナオミを見つめることしかできなかった。
「……信じられない。アタシ、何やってんのよ」
吐き捨てられた言葉は、穂乃果への拒絶というより、自分自身の「コントロール不全」に対する激しい嫌悪のように聞こえた。
ナオミの細い背中が、微かに震えている。
「えっと……ナオミ、さ……」
「っ、そろそろ入るわよ! 風邪ひいちゃうでしょ」
穂乃果が全てを言い終わる前に、ナオミはすかさず穂乃果に背を向けると家の中に入ってしまった。 すれ違う一瞬。彼女の耳まで赤く染まった首筋が目に飛び込んでくる。
(ど、どうしよう……なにが、……)
一体何が起こったのか。現実に追いつけない思考が、熱を持ったまま空転する。
指先でそっと唇に触れると、そこにはまだナオミの吐息の熱と、スパイシーなムスクの香りが、肌を粟立たせるような質感で生々しく残っていた。