テラーノベル
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シェアハウスの夜は、いつもとは違う静けさに包まれていた。動画の撮影と編集を終え、メンバーの多くはすでに眠りについている。リビングの電気も消え、外から漏れる街灯の光が薄暗い影を落としていた。
ゆあんは、自室のベッドに寝転がっていた。昼間のえとさんとのやり取りを思い出しては、一人でにやけてしまう。
(えとさん、本当に可愛かったな……今日も手、握り返してくれたし……)
ゆあんの口元からは、幸せそうな笑みがこぼれた。まだ付き合い始めて間もないため、二人きりの時以外では、その関係を公にすることは控えていた。シェアハウスという特殊な環境で、他のメンバーにどう思われるか、少しだけ不安があったからだ。
「まさか、両思いだったなんてなぁ……夢みたいだ」
ゆあんは、誰に聞かれるともなく、小さく、しかしはっきりと呟いた。その声は、静まり返った廊下へと吸い込まれていく。
その時、リビングで水を飲みに来ていたじゃぱぱと、トイレから戻ってきたのあが、その独り言を聞いてしまった。二人は、思わず顔を見合わせる。
「……ゆあんくんの今の声、まさか……」
じゃぱぱがひそひそ声でのあに尋ねる。
「え、まさかそんな……でも、『両思い』って言ってましたよね……?」
のあも困惑したように返した。
二人は、ゆあんの部屋のドアの前で、そっと耳を澄ませた。
「えとさんと付き合えるなんて……本当に幸せだ」
ゆあんの次の言葉に、じゃぱぱとのあの顔色が変わる。
「まじか……!」
じゃぱぱが小さく呟き、のあは驚きを隠せないでいた。
二人は顔を見合わせると、目配せで「これは大変だ」と互いに伝え合った。
翌朝、カラピチハウスは朝食の準備で賑わっていた。のあとえとがキッチンに立ち、焼きたてのパンとふわふわのオムレツの香りが漂う。
ゆあんは、リビングのテーブルでじゃぱぱとたっつんと軽口を叩いていた。いつもと変わらない朝のはずなのに、ゆあんはどこか落ち着かない。えとさんが視界に入るたびに、告白したこと、そして恋人同士になったことを意識してしまう。
その時、じゃぱぱが突然、手をパンと叩いた。
「みんなー! ちょっと聞いてー!」
じゃぱぱの大きな声に、メンバー全員の注目が集まる。ゆあんもえとも、何事かとじゃぱぱを見た。
じゃぱぱは、ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべ、のあも隣で困ったように笑っている。
「実はな、昨日、とんでもないことを知ってしまったんだよ」
じゃぱぱの言葉に、メンバーたちは興味津々だ。たっつんが「なんやなんや? 面白い話か?」と首を傾げる。
「夜中に、とある男の独り言を、のあさんと二人で盗み聞きしてしまってな……」
じゃぱぱの視線が、ゆあんに向く。ゆあんの顔が、サッと青ざめる。
(ま、まさか……!)
「その男は、寝言でこう言ってたんだ。『えとさんと付き合えて幸せだ』ってね!」
じゃぱぱの言葉に、リビングにいた全員の視線が、ゆあんさんとえとさんに集中した。
えとの顔は、一瞬にして真っ赤になり、手に持っていたお皿を落としそうになる。ゆあんもまた、顔を真っ赤にして固まっていた。
「えええええええええええええええええええ!?」
もふが叫び、るなは目を丸くする。
「マジで!?」とひろが驚きの声を上げ、シヴァも「おー!」と感嘆の声を漏らす。
どぬくは「ついに来たか……!」と納得したように頷き、なおきりは静かにコーヒーを啜っていた。
「ゆあん、お前、ほんまやったんか! 隠しとったんかー!」
たっつんが、ゆあんの肩をバンバン叩く。
「な、なんのことでしょ、じゃぱぱ……俺は、そんなこと言ってない……!」
ゆあんは必死に否定しようとするが、その声は全く説得力がなかった。
「もう! ゆあんくん!」
えとが、恥ずかしさでゆあんの腕を叩く。
「いや、ゆあんくんが言ったんですよ! 私とじゃぱぱさん、確かに聞きましたから!」
のあが、笑いながら追い打ちをかける。
こうして、ゆあんさんの真夜中の独り言によって、ゆあんさんとえとさんの恋人関係は、あっという間にシェアハウスのメンバー全員にバレてしまったのだった。
メンバーからは、祝福と冷やかしの嵐が吹き荒れた。
「おめでとう! ゆあん!」
「えとさん、やったね!」
「まさかお前らが一番乗りとはなぁ!」
二人は、顔を真っ赤にしながら、しかし嬉しそうに、メンバーからの祝福の言葉を受け止めた。隠そうとしていた関係が、思いがけない形でバレてしまったけれど、メンバー全員が温かく祝福してくれたことに、安堵と喜びを感じていた。
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