ある日、八幡玉露は、止水を含めた全員を招集していた。
八幡の隣には、睦月も緊張の顔を浮かべて立っていた。
楽は、気怠そうに最後に到着した。
「集まりましたね」
「楽! 遅いわよ!」
神崎から高圧的に指摘されるが、華麗に無視して座る。
「緊急招集の内容とはなんでしょうか?」
異能祓魔院始まって以来、初めての八幡からの緊急招集に、全員は緊張を露わにしていた。
「ふふ、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。皆さん」
そう言って、八幡は微笑んでみせるが、隣の睦月がガチガチで、他のみんなにも伝わってしまっていた。
楽を除いて。
「今回、皆さんには二班に分かれ、西部地区の異能祓魔院の方へ行ってもらうことになりました」
「京都にある異能祓魔院ですか……? あそこは癖者が多いと聞いているので、些か不安ですが……」
「ふふ、その京都へは、逸見くんをリーダーとし、神崎さんと二人で任務に当たってください」
「う……京都支部ですか。了解しました……」
逸見は藪から棒に怪訝そうな顔を浮かべた。
「睦月隊長は、止水くんと楽くんを連れ、鳥取支部へと向かってください。シスターは現地のシスターに祝詞をお願いしてあります」
「畏まりました」
「それでは皆さん、“本題” に入ります」
そして、全員の顔は一気に驚愕へと変わる。
「今の指令が、本題ではないのですか……?」
思わず口を開く逸見。
「はい。これからが本題になります」
そして、八幡の顔からはいつもの笑みが消えていた。
「皆さんご存知の通り、殆どの悪霊の出現は、異能教徒に寄るものが大きいです。祓魔師、と我々は名乗っていますが、言わば対異能教徒部隊、とも取れますね」
「そう……ですね。基本的に、異能警察は犯罪の抑止力として存在し、我々、異能祓魔院は表向きは悪霊退治の祓魔師ですが、基本的に異能教徒用の部隊。そして、それら二つを支えるのが異能探偵局……」
「しかし、私たちは異能教徒を調べることは出来ない。その権威を持っていないからです。基本的に、捜査などは異能探偵局の方々が行い、処理として通報を受け出動します」
睦月の顔は、依然として緊張に顔を強張らせている。
「簡単に言いましょう。異能教徒西部の本拠地を見つけました。西部の異能祓魔院と協力し、倒してください」
逸見は、口を開け遂には唖然としていた。
神崎や止水でさえ、目を丸くさせていた。
「あの……異能教徒の……本拠地を見つけた……」
「そうです。その西部本拠地に居るのは、大神官 “愚者” です。そして、三人の神官により部隊が作られています。逸見さんは存じているでしょうが、アルバイトのお二人と楽くんには、異能教徒の構成員についてお話しした事はありませんでしたね。ここで、一度ちゃんと説明しておきましょう」
そう言うと、八幡は笑みを浮かべ、一本指を立てた。
「まず、異能教徒のボスにあたる人間は、大神官と呼ばれている人たちから成ります。邪神と契約し、膨大な力を得ています」
「邪神……本当に存在したんですね……」
「次に、その大神官を守る役目を担っているのが、三人の神官たちになります。彼らでさえ、私と同じく、神と契約してその力を扱うことが出来ます」
「神官クラスで八幡さんと同じレベル……」
「神官直属の部下が、幹部と呼ばれています。幹部の人数は神官により様々ですが、幹部もまた、それぞれに部隊を持っています」
「それじゃあ……我々が圧倒的に不利なのでは……?」
「いえ、そうとも限りません。基本的に、本拠地内に神官や幹部たちが勢揃いしていることの方が少ないのです。でなければ、私たちにも任務は入って来ませんから」
「なるほど……確かにその通りですね……」
一人、緊張感の欠片のない楽は、頬杖を付きながらブラリと挙手をした。
「あのさー、前から気になってたんだけど、異能教徒って簡単に言えばテロリストだろ? でもアイツらのやってることって、悪霊を放つだけじゃん。何が目的なんだ?」
八幡は微笑みながら楽を見遣った。
「異能教徒の目的は『選別』です。その名の通り、神から与えられし力、『異能』が大好きな人たちなのです。彼らの目的は唯一つ、『強力な異能保持者以外の殲滅』が、彼らの一番の目的。そして、それが、信仰する神にとっての生贄や、恩返しになると信じているのです」
ふと、楽の頭には異能探偵局の行方が映った。
「じゃあ、極端な話……無能力者は全員、殲滅対象ってことになるのか……?」
「そうです。彼らの一番嫌いなものは、『無能力者』。神から愛されなかった者と卑下しています」
楽は、なんだか底知れぬムカムカが膨らんでいた。
「まずは、神官を倒します。そして、全員で大神官を倒し邪神の像を破壊します。それが、今回の任務です」
そう言うと、再び八幡は笑みを浮かべた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 隊長のチームと、僕たちのチームで二班……あと一人の神官用の部隊は、西部から出されるのでしょうか……?」
「いえ、最後の一人は、私が一人で倒します」
その言葉に、全員が目を丸くした。
「それでは、出発は三日後です。皆さん、準備しておいてください!」
そう言うと、ニコニコと八幡は去ってしまった。
全員の間に、静寂が訪れる。
「あ〜あ、ねむ。お前らなんでそんな緊張してんの?」
そして、楽はその雰囲気を壊す。
「ア、アンタ分かってないの!? 八幡さんは、私たちがチームを組んでやっと倒せる相手を一人で倒そうとしてるんだよ!? 無理に決まってるじゃない!!」
「は? でもあの人、神と契約してるから、異能と神の力まで使えるんだろ? 勝算があって言ってんだろ」
それに対し、睦月が小さく答えた。
「楽……俺が隊長と呼ばれてるのは、八幡さんがこの寺院から出られないからなんだ。そして、出られない理由はただ一つ。“神の力を使えなくなる” からなんだよ」
その言葉に、全員が俯く。
そう、八幡玉露は、神の力無しで、神の力を扱う神官と戦おうとしているのだった。
「いつも……俺に隊長を押し付けて申し訳ないと言われるが、そんなことないんだ……。あの人は……何かあったらいつでも助けられるよう……俺たちが絶対に死なないように、この寺院に居てくれているんだよ……!」
悔しそうな顔を浮かべ、睦月は呟いた。
「ふーん。じゃあ、今回はその “助け” も期待できないってわけ。で、隊長はビビってんのかよ」
「そ、そう言う話をしているんじゃない……!」
「じゃあ、隊長らしくよぉ、あの女の期待に答えてやりゃあいいだけの話だろ。ぶっ倒すんだろ、異能教徒」
全員は、楽の顔に視線を向けていた。
「その……通りだ……」
そして、全員の顔に笑みが戻っていた。
「アンタ! たまにはいいこと言うじゃない!」
「明日は雨かも知れないな……」
「その通り、僕たちで倒し、任務を成功させることが一番な考えるべきことだ!」
「お、おい……なんだよお前ら……」
いきなりのテンションに、楽は困惑を示した。
「まあなんにせよ、上で話は既に決まっている。まずは無事に関西へ行こう!」
「オー!!」
そうして、西部派遣の話は幕を閉じた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!