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異能祓魔院一向は、それぞれ西部の異能祓魔院隊員たちと合流していた。
「ここが京都……古風でいて、雰囲気はとても好きなのだが……」
怪訝そうな顔の逸見に、神崎は底知れぬ不安感を抱いていた。
そんな時だった。
「よくぞ参られたし! 京都ォー!!」
その声に、逸見の顔は更に強張る。
「覚悟しろ、神崎」
「は、はい……?」
声の方を振り向くと、白昼堂々、駅前の公共の場だと言うのにも関わらず、歓迎!の文字が大きく描かれた複数人たちが姿を現した。
「あの……逸見さん……もしかして……」
「ああ、その通りだ……」
そして、ガタイのいい男が前に出る。
「よう! 逸見! 久しぶりだな! “京都” に来る異 “郷徒” はお前たちだな!」
逸見と神崎の間に、シーンと静寂が訪れ、その後。
「 “かな” り遠い “神奈” 川から参りましたぁー!!」
恥ずかしがりながらも、敬礼にて逸見はダジャレを返した。
「え……?」
困惑する神崎。
「お前ー! 成長したではないか! ハッハッハ!」
「いえ……稲荷隊長ほどではありませんよ……ハハ……」
「前は、こ〜んな小粒納豆くらい小さかったのにな!」
そして、複数人の中から、小さな女の子がトトト、と駆け足でやってくる。
「隊長、この人そんな小さかったの?」
「そうだぞ! こんなに、だ!」
そして、親指と人差し指で小さな穴を作る。
「えー! じゃあ狐子も大きくなる!?」
「当たり前だろー! ハッハッハ!」
「あの、稲荷隊長。こちら、アルバイトの神崎杏。異能力は『透明化』です。我々は基本的にバックアップやサポートとして戦闘に参加しています」
「うむ! 聞いている! 我々は先鋭が多いが、そういうサポート隊がいなくてな! コキ使わせてもらうぞ!」
「はい!」
そして、再び逸見は稲荷に敬礼した。
同時、鳥取駅にて。
「おい、隊長。あんま景色すごくねぇじゃん」
「楽……まあ、ここは関西と行っても少し外れの方だからな……。観光に来た訳ではない。勘弁してくれ」
そんな声を背に、止水は永遠とゲームに興じる。
そんな中、背後から、三人を呼び掛ける声。
「よくぞいらっしゃいました」
ピシッと黒スーツを着た男に、緊張が微塵も隠せていないスーツの女性の二人組が姿を見せた。
「お久しぶりです、睦月さん。鳥取支部からお迎えに上がりました」
「やあ、新道くん! 久しぶりだな!」
新道と呼ばれた男は、和かに睦月に挨拶をした。
「こちらは新人隊員の浮田です。異能力は『浮遊』。触れた対象を浮かせることが出来ます」
「便利な異能じゃないか! よろしく頼むよ、浮田隊員!」
「は、はい……」
決して目を合わせず、浮田は返事を返した。
「こっちも新人隊員の楽。異能力は『憑依支配』だ。そしてこっちはアルバイトの止水歩。無能力者だが、敵の攻撃パターンを見抜く天才だ!」
「よろしゃーす」
「ウィッス」
二人の軽はずみな返事に、睦月は冷や汗を示す。
「ハハ、個性的なお二人ですね。長旅でいきなり任務と言うのも些か大変でしょうし、少し観光でもいかがでしょうか? 手配してあるんですよ」
そう言うと、新道はササッ、と、一台の車を指差す。
「ああ、これはありがたい! 行くぞ、二人とも」
「観光っスか……早く部屋ん中行きた〜い」
「俺はいいぜ! 新しいモン楽しみだ!!」
そんな雰囲気の中、車は発進した。
「んだよ、山ばっかじゃねぇか」
外の景色を眺めながら、楽は怪訝そうに呟く。
「ハハ、すまないね。鳥取はあまり観光名所は少ないんだよ。でも、きっと感動する景色を見せるよ!」
新道は、惜しみなく爽やかで親切な男だった。
車が到着した先は、鳥取砂丘だった。
「観光案内人を雇っていますので、少々お待ちを」
しかし、楽は言わずもがな、テンションが上がる。
「す、すげぇ〜!! 見渡す限り砂! 砂! 砂! 向こう側もなーんも見えねぇ! ハハ! すげぇ!」
「喜んでもらえてよかった!」
「ハハ……申し訳ない。まだ子供なもんで……」
睦月は仲裁に入るが、新道は笑って答えた。
「いえいえ、こんなに喜んでもらえた方が、僕らとしても連れてきた甲斐があるというものです」
浮田は車から出ず、止水は寝付いてしまっていた。
「止水くんを起こすのもなんですし、観光はこの三人で行きましょうか。ガイドさんも来たみたいです」
そして、一人の長身の男が現れた。
「異能祓魔院様でございますね? この度、ガイドを務めさせて頂きます、サンドリームと申します。何卒、よろしくお願い致します」
「サンドリームさん、お久しぶりです! 神奈川の異能祓魔院から来て下さった方々です! 是非よろしくお願いします!」
ガイドのサンドリームと、新道はどうやら顔見知りのようで、親しげに話を進めていた。
「それでは参りましょう」
そして、サンドリームの案内で様々な施設を見る。
その度に、楽の「これ買って!」が発動するが、睦月は華麗に「任務が終わったらな」と回避していた。
「そして、最後にこちら。展望台屋上から鳥取砂丘の全てが見られます。そちらの望遠鏡を使えば、かなり遠くのものも近くに見れますよ」
「おおー! なあ、見て来ていいか!?」
「ああ、いいぞ。ほら、200円入れて使えよ」
楽は大はしゃぎで望遠鏡を覗き見た。
暫く覗くが、正直砂しか見えない景色に飽きてきた頃、楽は変な穴を見つける。
「なーなー、なんか変な穴があるけど、アレってなんかの住処? 動物とかいんの? ここ」
背後からニコッと新道が口を挟む。
「ふふ、よく見つけましたね。あの穴こそ、異能教徒の本拠地の一つ。砂の神官が居る場所です」
そして、睦月と楽の間に緊張が走る。
「そして、こちらのサンドリームさんが、件の砂の神官さんなんです!」
「楽!! 直ぐに臨戦態勢を取れ!!」
睦月の合図に、楽は咄嗟に悪魔を憑依し、距離を取る。
「新道くん……どう言うことだ……。何故、神官とそんな親し気にしている……!」
睦月は冷や汗混じりに新道と向かい合う。
「そんな、今日は観光ですよ? 楽しみましょうよ」
しかし、新道は不思議そうに悠長に構えていた。
「ふふ……そんなこと言っても、知ってしまえば警戒するのも当然ですよね。でも本当に大丈夫なんです。戦うのは明日って約束してあるので」
「約束……? 相手は異能教徒だぞ……?」
「ああ、試験も兼ねてるんですよ。サンドリームさんと僕は意見が同じなんです。異能教徒ほど残忍な考えはしてないですけど、『弱者が異能祓魔院にいる必要はない』」
そして、新道は初めて目を開けて笑う。
「浮田も明日、神官との戦いで試験です。死ぬようなら必要ない人材と言うことになりますから」
その言葉に、異常なまでの彼女の緊張を理解する。
「隊長は……? 鳥取支部の隊長はどうしたんだ……? まさか新道くんが独断で決められないだろう……?」
「ああ、隊長ですか。隊長なら、もうとっくに戦闘不能でお休みになられてます。死んではいませんよ」
「明日は君も神官を倒す任務の為に共に戦う認識で間違いないよな……?」
「間違いないです! 異能祓魔院の任務として、しっかりサンドリームさんは倒すつもりです!」
睦月は一呼吸つき、楽に合図を送った。
「分かった。信じよう」
しかし、睦月は一つ覚悟を決めていた。
鳥取支部の隊長が戦闘不能、それが意味するのは、『こちらは神の力を使えない』ことになる。
明日は相当な戦いを強いられる覚悟を決めた。