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ねじまがりの先で

10 - 4.4(秋野視点)

♥

20

2025年04月09日

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<4.4>ver2.


★同日 新宿丸座 楽屋内

______________________


「…楽しかったな,今日!な、春沢」

「まーお前は楽しかったろうね、俺よりも」

「……え?」


楽屋の隅で荷物をまとめていた俺は、春沢さんの言葉に手を止めた。


「何、それ」

「いや別に? ただ、お前、今日はやけに楽しそうだったなーって思ってさ」


春沢さんは皮肉っぽく笑いながら、俺を見た。普段なら適当に流せる言葉なのに、今の言い方には妙に引っかかるものがある。


「……ライブも盛り上がったし…ほら、学べるとこも、あったじゃんか」

「そりゃよかったね。笠木と一緒にやれてさ」


その名前を出された瞬間、胸の奥が冷たくなった。


「……なんで、そんな言い方すんの」

「別に。ただ、お前があんな風に楽しそうにしてんの、俺とはネタやってる時じゃあんま見なかったなーって思って」

「……そんなことないだろ」


思わず否定したけど、自分でもどこか引っかかってるのはわかってた。

確かに、今日の俺はいつもより前に出てたし、笠木と一緒にネタを考えるのは新鮮で、ワクワクしたのは事実だ。

「俺は、春沢さんとだって真剣にネタやってるし、楽しいと思ってるよ」


そう言ったのに、春沢さんの表情は曇ったままだった。


「そりゃよかった。でもさ……」

「でも?」

「**“シンプルスター”**ってコンビ名、もうそろそろ似合わなくなるんじゃね?」

「……どういう意味?」

「お前の中で、“シンプル”じゃなくなってきてるんじゃねーの?」


春沢さんの低い声が、楽しかったライブの余韻を一気に冷やした。


「え」

「いや、俺もいたのにさ。まるで、お前が一番星!みたいな…ごめ、俺何言ってんだろ疲れてるわ」

「……春沢さん」


俺が何か言おうとすると、春沢さんは疲れたように笑って手を振った。


「悪い、忘れてくれ。俺が勝手に言っただけだし」

「でも…それは」

「俺、先帰るね」


それだけ言うと、春沢さんはさっさと荷物を持って楽屋を出ていった。


(……なんだよ、それ)


ポツンと残された俺は、手に持った台本をぎゅっと握りしめた。

確かに、今日は楽しかった。俺のネタがウケて、笠木ともいい感じにやれた。

でも、それは春沢さんとのコンビが嫌になったわけじゃない。俺は、ただ──


(……ただ、もっと色んなことを試してみたいだけなんだ


春沢さんが俺の変化に気づいてるなら、俺だって気づいてる。

最近、コンビのネタ作りでも意見をぶつけることが増えたし、前よりも「こうしたい」って気持ちが強くなってる。

でも、それが春沢さんを不安にさせてるんだとしたら?


(……はぁ)


ため息が出る。ライブが終わったばかりなのに、全然スッキリしない。

ポケットから携帯を取り出して、メールの画面を開く。

春沢さんに何か送ろうかと思ったけど、結局何も打てずに閉じてその場を後にした。

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