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その日は雨が降っていた。
私は濡れなかった。
悲しくもあり、便利だなと思う反面もあった。
私は走っていた。初めて出来た友達が来ないのだ。自分の目で見るまで何も信じてられなかった。
雨の日は何故か心地良さを感じる。気持ちが安らぎ身体には力が漲る気がしていた。
子供の家まであと少しだった。土砂降りの中、夜に出歩く人はいなかった。
いつも子供が戻っている母親の家は、6階建マンションの3階だった。入り口には、自動ドアがありオートロックではなかった。
家に着くが困った。誰か行き来しなければ入れない。誰か来ないかと自動ドアに近づいた。
この時、初めて自動ドアが反応した。
何故反応したのかわからないが、難なく入ることができた。
3階へ階段を上がる。
1番端のドアの前で子供が座っていた。
近づいて行くと違和感があった。子供は全身真っ黒になっていた。
「待ってたよ」
子供から話しかけられた。
「なんで来なくなったの?」
「ここから離れられなくなったんだ」
「それは、、、どういうこと?」
「わかんない」
子供の声が弱くなった。
「最後にお兄ちゃんと遊んだ日、僕はママを強く恨んだんだ」
「うん」
「そしたら、そしたら恨んだ気持ちがだんだん強くなって、我慢できなくなったんだけど、 お兄ちゃんの事思い出して、そしたらね、ママから離れられなくなっちゃった」
「離れられるよ、おいで」
私は手を差し伸ばした。
「出来ないよ」
子供も手を差し伸ばしたが、掴めなかった。
「ほら、僕はママを見守る事に決めたんだ、勿論、恨みもあるけど」
「…」
「今日で最後な気がするんだ」
「それは」
遮る様に子供は言った。
「今まで、ありがとう、少し、少し楽になった」
「ちょっと待って!」
私は、そう言ったが、、、子供はパラパラと影に混ざる様に消えていった。
私は泣いていた。涙なんてわからなかった。多分出てない。でも、大きな声を出して泣いていた。深夜に大きな声を出しても誰にも聞こえやしない。
初めて出来た友達だった。すぐにいなくなってしまった。初めて感じた充実感だったのに、今は喪失感の方が強かった。人生最後の日と同じ感情であった。
出会わなければ良かった。
その時から安らぎの場所だった公園は、思い出の場所となり戻れなくなってしまった。
気づいた時には泣き止んでいた。
その辺を歩いている幽霊と同じ様に下を向き歩いている。
寂しさを紛らわすかの様に繁華街に向かっていた。生前近寄らない様に生きていた。今は、、。
ただ、何となく、近くにバス停があったから歩かずにバスで向かおうと思った。
朝一の繁華街を通るバス。ドアが開く。日がさしてきてもバスには乗れた。車内は、まばらにお客さんが乗っている。幽霊も一体だけ奥に座っていた。
私は疲れないから中央で立っていた。
ゆらゆらと揺れているうちに目的地に到着した。
朝の繁華街は、閑散としていた。
来てみたは良かったものの、相変わらず何をする事もなかった。
私はビルの横に体育座りをして辺りを眺めていた。
草臥れたスーツ姿の男性、ママチャリを漕ぐ母と後ろに乗る眠たそうな顔の子供、酔っ払っているのかふらふらなホスト、色んな人が自分の居場所・役割を全うしているのだろうか。
私と違うのは、生きてるか死んでるかだけか。
そして、幽霊達もまたそこらへんを歩いていた。ホストには幽霊がついて歩いていた。みんな死んだ後は、どう過ごしてるのだろう。
自分は虚しさでもう動く気になれなかった。
私にはもう何もない。子供とも会わなければ良かった。
俯き、目を閉じた。
「おう」
「おーい」
「聞こえないのか」
しゃがれた声が聞こえ、ぽんっと肩を叩かれた。
見上げると恰幅の良い身体に茶色いスーツが見えた。
顔は真っ黒く頭には帽子を被っていた。年齢は大分上だろうか。
「な、なんですか」
素っ頓狂な声が出ていた。
「まーなんだ、お互い死んでるんだ、気楽にいこう」
「…」
「お前さんは初めて見る顔だが、死んだのは最近かい?」
「そうですけど」
「そうか、どこで自殺したんだい?」
「…なんで自殺だってわかるんですか」
「ハハハッ、だって自殺した奴しかここにはいないぞ」
「…え、そうなんですか」驚いた声が出た。
「ああ、そうだとも。で、どこで 死んだんだ?」
自殺した者しかいないってどうしてわかるんだ?と思いながら答えた。
「…国道沿いを下っていった先の森の中で、首吊りを…」
「そうか、遠くまで行ったんだね。どうして自殺したんだ?」
「…」嫌な質問ばかりで辟易してしまった。
「君は死んだ実感があまりないんだろうね。死んだら、壁を透き通ったり、宙に浮いたり出来なかったことが出来ると思ってたな。今や物は動かせないし、生きた者の声すら聞こえない。」
突然、悲しい声に変わっていた。
尚もおじさんは話し続けた。
「俺はね。もう30年はこの世界にいるんだ。知り合いは皆死んでいった。俺だけ時が止まったままだ」
「おじさんはどうして自殺したの」
「俺は、不動産を沢山持っていてね。バブル崩壊とともに全て失った。そうすると、妻も子も友人すら去っていったんだ。だからね、拳銃で頭をパァンと」ハハハッとまた笑っていた。何が面白いのか自分には理解できなかった。
黙っているとまた喋り出していた。
「俺もそろそろ成仏したいと思ってるんだが、どうすればいいかわからないんだ。恨み辛み増幅させて蒸発してる奴はいるが、あれは成仏に見えないだろ?」
どうしたものかという様におじさんはウーンと腕を組んでいた。
「自殺した人しかいないって言ったけど…」
「あー、どうしてそう言えるかって?」
私は頷いた。
「関西の地震、交通事故、東北の地震、それぞれ現地に行ったんだよ」
おじさんは手を顎にやっていた。
「死んだ者とは会わなかったんだ。誰一人としてね。君みたく話してくれる者とも話したが自殺した者しかいなかったんだ」
「…」この現状はなんなんだろうか。疑問ばかりが浮かんできた。