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「この前、死んだやつがいるんだが」
おじさんは改めて話し始めた。
「ニュースになってたんだ、見に行かないか」
何もする事はない。迷う事はなかった。
「行きます…」
おじさんに連れられて来たのは普通の一軒家だった。
ただ、一点を除いて。
「ゔゔぅぅぅ」「あぁぁぁあ」
中からは叫び声が響いていた。悲痛な叫びが。聞こえるという事は我々と同じ死んだ者の叫びだ。
門を跨ぎベランダへと入っていく。ベランダの大きな窓から叫んでいる者が床で頭を抱えながらのたうち回っていた。
「あぁぁぁ、すまんすまん」
謝っているようだ。
おじさんが語り始めた。
「あの者はね、妻と娘を殺して自殺したんだ」
「一家心中ですか」
「そうだ、事業で失敗して借金だけ残ったらしい」
「なんで、苦しそうなんだろう」
おじさんへと疑問を投げつけた。
「さあな、初めて見たからね。多分、人を殺して自殺したらああやって苦しむんじゃないか」
私は胸が痛くなっていた。いつまで苦しみが続くのだろうか。
生きている時も苦しかったであろうに、自殺しても苦しみが続くのか。
見ていられなくなりその場を離れた。
おじさんは、行くところがあるそうでどこかへ消えていった。
おじさんからは、「どうせ死んだんだ。色んな奴と絡んでみなよ」と言われていた。
どこへ行こうか。彷徨うしかなかった。
それからも彷徨い続け色んな奴に話しかけた。生きてる時もやらなかった事だ。女性に話しかける際は、少しドキドキしていた。
結果は、誰も話してくれなかった。理由はわからない。
だが、みんな鬱々としてるのはわかった。
住宅街、白い一軒家の前で蹲るセーラー服姿の少女がいた。前髪は顔までかかり、陰気なオーラを放っていた。
手先から黒くなっているのが見てすぐにわかった。
「こんにちは」いつもの様に声をかけた。
少女は、顔をあげる。顔はいつもの様にわからない。
「君の名前は?」初めて反応があって戸惑いながら聞いた。
「わからない…」か細い声はそう答えていた。
「ここは、君のお家なの?」
「多分、そう。」曖昧な答えだった。
私は久々に答えてくれる者に出会い舞い上がっていた。
「親は?中にいるのかな」
「多分ね」
今にも消え去りそうな声であった。
私は、素っ気ない回答に言葉が詰まっていた。もっと、会話をしておくんだったと後悔していた。
静寂を破ったのは少女だった。
「私、虐められてたんだ。ブサイクだからって。」
自殺した理由はイジメだったのかと思っていた。
「復讐したい!呪い殺してやる!って思って死んだ」
少女は、先程までの静かなイメージを崩して凄んでいた。
「でも、死んでみたら何も出来なかった。虐めてた奴ら全員ずっと呪ってたのに。あいつらは今日も笑顔に生きてる」
少女は、ドンドンと真っ黒になっているのが見てわかった。
「俺さ、成仏する方法探してるんだ、一緒に探さないか」
「成仏したらあいつら全員殺せる?」
尚も興奮収まらないようだ。
「いや、そうじゃなくて、、とりあえず落ち着こうか」
やっと出た言葉だった。こんな時上手く立ち回れたらと自分を恨んでいた。
「意味ないじゃん!成仏したって意味ないじゃん!」
少女からは、どんどんと黒いオーラが纏って来ていた。
「やばい」そう言った時には遅かった。
私は少女に取り込まれた。
目の前は真っ暗だった。底なしの暗さ。
そして、少女が感じていた怨みの感情が頭の中へ刺さってきていた。
「殺す、死ね」と流れ込んでくる。
苦しい。頭が張り裂けそうだ。そして、少女が虐められていた記憶が流れてきていた。
私は、懇願していた。「お願いします。解放してください」と何度も何度も。
もう無理と思った時、「きゃあああぁぁぁ」との叫び声と共に私は放り出されていた。
道端に倒れ込み頭を抱えながら振り向いてみると少女の姿はなかった。
私は状況が飲み込めてなかった。なんで放り出されたのかもわからなかった。
「はぁ、はぁ」と息を整えて、私はまた歩き出していた。
もう何もかも嫌になってきた。らしくない事をしたからだ。と自分を恨んだ。
おじさんはニュースで知ったんだと言っていたのを思い出していた。
テレビはどこで見れるだろうかと考えていると横に病院があった。小さなクリニックか。
夕方でも人が出入りしていた。
何となしに入るとテレビが点いていた。久々にテレビを見たが音声がない。何とも寂しい事か。字幕がついているのが救いだった。テレビには相撲が流れていた。
最後の患者が出ていく。私も急いでついて行った。閉じ込められるといけないから。
夜になるといつも寂しい。子供と遊んでいた頃が恋しく思っていた。
毎日、クリニックに行くのが日課になっていた。テレビを見るために。
幽霊と関わるのはやめていた。碌な事がないから。
日曜日は行く宛がなかった。ただ、歩道を歩いている。
ある日、会社の同僚が歩いていた。隣にいるのは彼女だろうか。楽しそうにしていた。
私は、ただ見つめる事しか出来なかった。
この先もずっとそうなんだろう。私だけ、この姿のまま。
ある日、私はクリニックでテレビを見ていた。お昼のニュースが流れていた。
「昨日、国道の山林の中で白骨が発見されました。」
私は、驚いていた。まさか、自分ではないだろうか。
私は走っていた。自分が死んだ場所へ。
結局、1日かかってしまった。私が死んだ木の下には自分はいなかった。
私は急いで警察署へ向かっていた。安置されているはずだ。
とまた1日かけて戻ったが、警察署の場所を覚えていなかった。
ずっと、探し回っていた。
見つけた時にはまた1日経っていた。
安置室まで来たが、どれが自分かわからなかった。
私は何日かそこで過ごした。
身寄りのない私はどうなるのだろうか。
また、数日後に白骨が運び出された。多分、自分だ。
私は自分についていった。
どこへ向かうのだろうか。