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昼休み。
教室のざわめきが少し落ち着いたころ、泉は席を立った。
「ちょっと、トイレ行ってくるね」
「うん……気をつけてね」
紗良はそう言ったけれど、その声はどこか不安げだった。
泉は笑って返した。
けれど胸の奥には、さっきの女子たちの視線がひっかかっていた。
――大丈夫。すぐ戻るだけ。
そう自分に言い聞かせながら、廊下を歩く。
トイレの前に着いた瞬間、背後からクスクスと笑う声が聞こえた。
「ねえ、茅野さ〜ん」
振り返ると、さっき噂を流していた女子二人が立っていた。
笑っているのに、目は笑っていない。
「ちょっと話そ?」
泉が返事をする前に、腕をつかまれた。
「やっ……!」
そのまま女子トイレの個室の前まで引っ張られる。
扉がバタンと閉められ、鍵がかかった。
狭い空間に、嫌な緊張が満ちていく。
「さっきさ〜、住田さんと仲良さげだったよね?」
「転校生のくせに、調子乗ってない?」
泉は息をのんだ。
「別に……そんなつもりじゃ」
「へぇ?じゃあなんであの子と笑ってたの?」
一人が泉の顔を覗き込む。
もう一人はペットボトルを持っていた。
――まさか。
「ねえ、知ってる?住田さんってさ、男の前だと猫かぶるんだよ」
「茅野さんも、騙されてるだけじゃない?」
泉は首を振った。
「そんなこと……ないです」
その瞬間、女子の表情が変わった。
「へぇ。言い返すんだ?」
ペットボトルのキャップが外される。
冷たい水の音が、やけに大きく響いた。
「じゃあさ――これで少しは分かる?」
ザバァッ。
冷たい水が、泉の頭から一気に降りかかった。
息が止まる。
制服が肌に張りつき、冷たさが骨まで染みる。
女子たちは笑っていた。
「似合ってるよ、転校生」
「住田さんにも見せてあげれば?」
泉は唇を噛んだ。
悔しさと、悲しさと、怒りが混ざって、胸がぐちゃぐちゃになる。
――どうして。
そのとき。
「……茅野さん?」
扉の向こうから、聞き慣れた声がした。
住田さんの声だった。
泉の心が、かすかに震えた。