テラーノベル
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トラハダス大幹部のひとりが報告に現れた神父に問うた。
「その侵入者はどうした? 捕らえたか?」
「はっ、それが……警備の者が魔法を用いたところ、予想外に燃えてしまったとのことで焼死しました」
「予想外に燃えた……? 爆発物でも携帯していたのか」
「ただのネズミではない、と」
メンテリオは席につくと、顎に手をあて思案する。
「ただの偶然でここを発見したのではなく、何か工作目的だったのやもしれん」
「穏健派の破壊工作か」
「いや、連中にそんな度胸はない」
だが――メンテリオは眉間にしわを寄せた。
「我が教団の支部を攻撃して回っている者がいる。……その者がいよいよ、この本拠を攻撃しようとしたのやもしれんな」
「ああ、あれか……しかしメンテリオ殿」
幹部の一人が首を捻った。
「あれの攻撃を受けたのはほとんどが穏健派に属しているという話ではないか。我々に同調する者か、またはこの中の誰かの子飼いの者ではないか?」
「私は知らんぞ」
メンテリオは憮然とした調子で、一同を視線だけで見回す。大幹部たちは、それぞれ「知らない」、「違う」などと首を横に振る。微妙な空気が会議場に流れる。
そんな中、ある大幹部が口を開いた。
「それが何者かは知らぬが……。メンテリオ、我が配下の者が、城門でアルゲナムの白銀姫を見かけたと報告してきた。たしか、彼女も我ら教団を攻撃する一派であろう?」
「アルゲナムの姫だと……?」
セラフィナ・アルゲナムが、この王都に。
以前、神獣課のクルアスが白銀姫とその一派と交戦したという報告は受けている。神獣課管轄の支部一つを失い、その後クルアス自身も死亡が確認された。……なるほど、彼女の仕業なら筋は通る。
幹部たちは、何故セラフィナ姫がここに――などと不安を口にしている。メンテリオは思考を整理しつつ、はっきりとした口調で告げた。
「彼女は、我々の目的を察知したのやもしれぬ」
「なんと――」
「それはマズイ」
大幹部たちの顔に、明らかな焦りの色を浮かぶ。
「神聖なるトラハダス神をお迎えするこの大事な時に!」
「儀式を妨害されるわけにはいかん」
「その通りだ」
メンテリオは一同の注目を集める。
「動かせる兵を使い、アルゲナムの姫とその一味を討つべきだろう。抹殺するのが最善だが、よしんば殺せずとも、降臨の儀式が終わるまでの時間を稼げればよい」
諸君――メンテリオ大司教は席を立った。
「連れてきている武装信者、手持ちの戦力を結集してもらいたい。我らがトラハダス神のご降臨のために」
・ ・ ・
王都ドロウシェンに夜闇が迫る。
ツヴィクルークがもたらした被害、その範囲自体は、さほど広い範囲ではなかったために被災者救助作業は、半日で終わった。……もちろん、建物や道などの被害からの回復はまだまだ時間がかかるのではあるが。
慧太はリアナ、キアハと共に、集合地点である宿泊所前に向かう。
「……ずいぶんと汚れたもんだ。とくにキアハ……泥だらけだ」
「ですね」
苦笑するキアハ。
半魔人として改造された身体を持つ彼女である。その怪力が瓦礫の撤去に大活躍だった。崩れた民家の壁を、重機さながら持ち上げて見せたのだ。
直接、力仕事に携わったので、彼女の白い素肌や革鎧は埃や泥に塗れていた。だがその表情は実に晴れやかだ。
「私の力が、お役に立てたのは何よりです」
たぶん、それなのだ。常人離れした力――敵を殴り殺すための力を、人を救う力として活用できたことが、彼女にとっては嬉しいのだろう。
「リアナも、よくやったな」
慧太は、淡々とそばを歩く狐人の少女に言う。キアハもまた笑みを向けた。
「凄いですよね、リアナさんの鼻と耳。崩れた家屋の下とか、ふつうに探してたらあんなに早く見つけられないですもの」
「大したことじゃないよ」
リアナは、何でもないように言った。
「わたしには聞こえるし、臭いを感じる。それだけ」
獣人として持って生まれたものの違い。それ以外の何物でもないとリアナは言うのである。それでも、個人差はあるものだ。彼女の研ぎ澄まされた感覚ゆえに助けられた命もあるだろう、と慧太は思う。
「あ、お父様ー!」
後ろからサターナの声がした。振り向けば、サターナとアスモディア、ウェントゥス兵が二人、こちらへやってくる。
「よう、お疲れ……って、どうしたんだアスモディア!」
慧太はもちろん、キアハもびっくりする。
シスター服の赤毛の巨乳魔人は、キアハ以上に泥だらけだった。いや、泥だらけというより――
「泥のプールで泳いできたのか?」
それほどのありさまだった。当のアスモディアは、そっと顔を逸らした。
「尊い犠牲だったわ……」
「?」
「可愛い女の子が困っていたら、例えこの身を泥に沈めてでも助けてあげるのが淑女として正しい道」
何か語りだしたぞ、この偽シスター。結局わからないので、視線をサターナに向ければ。
「幼女が大切な人形を無くして泣いていたのよ。皆それどころじゃないからって無視されていたのだけれど、アスモディアがね……」
「そのお人形とやらを探して泥まみれになった、と。……それだけ聞くと、とてもいい話に聞こえるが?」
「下心がなければね」
サターナが呆れもあらわにした。
「とても可愛らしい幼女だったわね。……この女、明らかに幼女とのスキンシップを狙ってたわ」
「ヤバイじゃないかそれ!」
即通報モノだ。
途端に、慧太やリアナの目に、蔑みの色が浮かんだ。アスモディアは泥だらけの自分の身体を抱きしめるような姿勢になる。
「あぁ、その見下げ果てたモノを見る目……! 恥ずかしい、けれどいい……!」
「もっとジロジロ見てあげなさい」
サターナは露骨だった。
「このみっともなく泥だらけになっても欲望に忠実かつ喜んでいる変態を」
「あぁ……いいわ、サターナ。もっと言って」
変なスイッチが入っているようだった。
「周囲からの視線が自然と集まって、ここまで来る間、ずっと震えが止まらなかったの……!」
恍惚とした表情――のようだが、顔も、その長い赤髪も泥まみれである。さぞすれ違う人々から注目を集めたことだろう。
「どうしようもない奴だな。……しかし見事に全身泥だらけだ。最新の泥パックか何かかね」
慧太の突っ込みに、キアハがきょとんとする。
「泥パック……?」
「なんでも泥を肌に塗ると、肌が綺麗なるとか、美容効果があるとか」
「泥で綺麗になるんですか?」
「身体の老廃物を――」
サターナが口を挟んだ。
「外に出す効果があるのよ。綺麗な泥でしばらく包んでおけば、泥を落としたあと、お肌がつるつるになるわ」
「へぇ……」
感心したようにキアハが言えば、リアナがぼそりと言った。
「動物でも身体の汚れを落とすために、泥まみれになることがある」
狐娘の言葉に、サターナはニヤニヤして元同僚を見た。
「よかったわね、アスモディア。あなたの行為は、泥を這い回る動物並みですって。汚いあなたも泥で少しは綺麗になるかもよ」
そこまで言っていない。……のだが、もじもじとし始めるアスモディア。……だいぶ仕上がってる赤毛の魔人女だ。
慧太はコメントを避けた。
「キアハもだが、アスモディア、その格好じゃ宿泊所の部屋に入れないぞ、たぶん」
泥を落とさないと。その言葉に、アスモディアは上目遣いの視線。
「……脱げばいいのね?」
「ここ以外でな」
そろそろ怒ってもいいか? ドMの次は脱ぎとか。もともと露出過多だったなこの女は。
「団長」
今度はウェントゥス兵――ガーズィの分隊が戻ってきた。
機械の兵隊みたくバイザーを下ろして素顔は見えないものの、隊長のガーズィは兜や甲冑に識別用の緑色の線(ライン)がついているので、顔は見えなくてもわかった。
皆、瓦礫の撤去作業を手伝ったのだろう。その白い軽甲冑にはところどころ汚れが目立つ。
「ガーズィ、部隊の点呼と、後で報告を頼む。オレは、こいつらの面倒を見てくる」
泥まみれの仲間たちの処理である。ガーズィは頷いた。
「承知しました」
慧太たちが宿泊所のほうへと向かい、ガーズィは、兵たちに向き直った。
自身が率いた四人に、サターナらに同行した二人が合流。あとは――
「隊長」
さらに二人が駆けてくる。モロダーたちか。
ガーズィは兜をとる。風が肌を撫でたが、シェイプシフター体の身体は特に寒さを感じたりはしなかった。
「全員揃ったか?」
「それが、ロングポルトがいません」
一人いない。ガーズィは自身の短髪を撫でた。
「迷子か?」
「探したのですが、再度探しましょうか?」
直立不動の姿勢のモロダーとガストン。ガーズィは溜息をついた。
「斥候を出して、あとは宿に戻る。いまはまだ王都がピリピリしているからな。王都警備隊が見回っているところを、自分たちがウロウロするわけにもいかん」
イェス・サー――分身体兵の影から、複数の子狐型分身体が分離。王都へと散っていく。
「まったく、最後の最後で面倒事か」
誰にともなくガーズィは呟いた。なかなか盛りだくさんの一日だった。
コメント
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第273話、読み終えました! トラハダス教団側の思惑と、慧太たちの日常が対比的に描かれていて、じわじわと緊張が高まる構成が好きです。特にメンテリオが「白銀姫が目的を察知したか」と警戒する場面は、今後の展開を予感させてゾクっとしました。 一方で後半は、瓦礫撤去後の穏やかなやりとりが心地よくて。キアハが自分の力を「人を救うため」に使えた喜びを滲ませていたのが印象的でした。アスモディアの泥まみれエピソードも、サターナとの絶妙な掛け合いで笑いました(笑)ガーズィのラストの「面倒事か」も気になりますね…! 続き、楽しみにしています🌷
#異世界転移
うにい
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夕凪ゆな
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