テラーノベル
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俺たち、行商馬車の一行は夕刻前に何の問題もなくヨウラン村へ到着した。
まず、積み荷を降ろすため村の商店や共同倉庫などをまわっていく。
あとは町へ戻る際に野菜などを積み込めばいいということだ。
積み降ろしの作業を終えた俺たちは今夜お世話になる宿へと向かった。
シロとメアリーを伴って宿の戸をくぐると、
「いらっしゃい! おや、あんたも一緒かい。この前は大変だったそうだねぇ」
女将さんがにっこり笑って声を掛けてくる。
「はい、その節はどうも!」
手を上げながら挨拶を返した。
顔なじみになったという事でいいのかな。
何てことはないが、こうして知りあいが増えるのも嬉しいもんだな。
もうすぐ夕食の時間だということで俺たちはそのままテーブルについた。
メアリーとミリーはいつもと違う日常にキャッキャと言って騒いでいる。
俺が失望しかけた宿屋にも興味深々のようすだ。
食事ができる間、俺はこの前のゴブリン退治の事などをエール片手に話して聞かせた。
………………
楽しい夕食も終わり部屋にあがる頃には、メアリーは俺の腕の中ですっかり眠ってしまっていた。
(今日はおもいっきりはしゃいでたからなぁ)
メアリーを起こさないようにそっとベッドに寝かせると、魔力操作の訓練を一人で行うのだった。
そして次の朝。
ぺしぺし! ぺしぺし!
毎朝聞こえるこの音は、なにを隠そうシロが肉球で俺の額をたたく音なのだ。
俺が目を覚ますと次はメアリーに寄っていって、
ふんふん! ふんふん!
鼻先でメアリーのほっぺを突いている。これでも起きない時は顔ペロ攻撃に移るようである。
「うっ、ううん、シロ兄だ――」
「起きたかメアリー。シロが散歩に行きたいそうだ。まだ眠たいならこのまま寝ててもいいが、どうする?」
「一緒に行く!」
表に出て、村の井戸で顔を洗うとスッキリ目も覚めた。
涼やかな朝の空気は気持ちがいいものだな。
季節は初夏を過ぎたあたりだろうか、日中街道を歩くと結構汗ばむ陽気になってきた。
………………
朝食を済ませ一行は村を出発する。
今日も良い天気だ。
街道を進んでいる途中でミリーにせがまれてしまいシロの背に乗せている。
さすがに一人では心もとないのでメアリーも一緒に乗せている。
シロには十分気をつける様に言っておいた。
メアリーと同じだと思われたら大変なことになる。
(特に首はもろいからな……)
絶対スピードは出すなと厳命しておいた。
「何か、シロが大きくなってないかい?」
馭者席からマクベさんの独り言が聞えてきたが、移動中なので馬車の音で聞えなかったことにする。
ヨーラン村から南は最初の旅以来だな。
また、向かう方角が逆になるだけで同じ景色でも違って見えるものだな。
おっ、以前に野営した小さな丘だ。
ついこの間なのに妙に懐かしく感じるな。
旅路は順調に進んでいき、夕刻ごろ一行は野営場に到着した。
こちらへ来たときに最初に泊まった野営場だな。シロの魔法で真っ黒になった大岩も懐かしい。
かいがいしく馬の世話をするマクベさん。俺はカイアさんにメアリーを預けると背負い籠を借りうける。
今晩の薪を集めるために隣の林を2回往復してきた。
簡易竈はまだ残っていたので、中から灰をかき出してそのまま使うようだ。
水汲みも終ったので、夕食が出来るまで剣の素振りをすることにした。
薄暗い中、みんなから少し離れて俺が剣を振り始めると、メアリーが近づいてきて槍を出してくれと言ってきた。
「気をつけるんだぞ」
そう言って短槍を渡してやると、メアリーは俺の横で槍を振りはじめた。
いつものように200回振ったあと、俺は剣を鞘に納めシロを呼んだ。
「いいかいメアリー、よく見ておくんだよ」
そう言ってから俺とシロは魔力を身体に巡らせ身体強化をした。
メアリーにもこの立ち昇るオーラが見えているらしく、目を輝かせながら見入っている。
「ゲンパパもシロ兄もかっこいい。メアリーもやりたい!」
「いつも寝る前にやってるだろう。あれを身体の隅々まで広げて回してやるんだ」
そうして何度かやってるうちにメアリーのオーラが膨れ上がった。
――出来たようである。
まあ、スキルが出現していたので出来てあたり前なのだが。
「――ふおぉぉぉぉっ!」
メアリーは自分の手や身体を見て高揚している。
あぁ~、なるよなぁ。
『何でも来い!』という謎の全能感。
そして、身体強化を止めるように言ってみんなの所へ戻った。
「いや~、まだ小さいのに槍の稽古とは。偉いですなぁ」
「ほんとね~。ミリーも何か習ってみる~」
マクベさんとカイアさんがメアリーを褒めそやしている。
しかし、エルフであるコリノさんは魔力の流れをつかむことに長けている。
当然、さっき行っていた身体強化にも気づいていたはずだ。
『こいつら何んなのよ!』と目を丸くしているコリノさんだけが現実がわかっているようであった。
カイアさんが用意してくれた夕食はとても美味しかった。
夜警の方は前回と同じで、俺が夜半まで行ない、あとはコリノさんが朝までということになった。
そして夜も深まっていき……、
何やらシロがソワソワしているようだ。
「ここから南方面に魔獣が居るのなら狩っておいてくれ。明日出てこられても面倒だからな」
『いく、あそぶ、おにく、かる、たのしい、あそぶ』
「よし行け!」
俺は小声で指示をだす。
よっぽど遊びたかったのだろうか、シロは一目散に駆け出していった。
「交代まで一緒に起きてる!」
目をこすりながら頑張っていたメアリーだが、いつの間にやら夢の中のようだ。
そして夜半過ぎ、コリノさんが起きてきたので暖かい紅茶を渡し、
「後はよろしく!」
そう言ってメアリーと毛布に包まった。
………………
…………
……
ぺしぺし! ぺしぺし!
「ううん~、シロおはよう」
まだ太陽は出ていないようだが、周りは薄っすらと明るい。
メアリーを起こし川岸までいって顔を洗う。
水を浄化して補給。メアリーの水筒の水も入れ替えておく。
空を見上げると……薄曇りかな。
(今日いっぱいもつといいのだが)
どの道、急いだほうが良さそうだ。
桶バケツに水を汲み竈に戻ってくると、既にスープが出来あがっていた。
俺たちは急ぎ朝食を済ませると、早々に出発した。
このあと街道を2刻 (4時間) 程進んだところに目印の岩があり、右に小道が続いているという。
そこを間違えなければ、あとは村まで一本道なんだそうだ。
俺とシロが最初に出てきた森の道はもう行き過ぎてしまったのだろうか……。
街道の左側だったよな、同じような地形が続いているので判別がむずかしいな。
などと、今になってはどうでもいいことを想いかえしながら街道を進んでいた。
(おっ、目印の岩ってアレのことかな?)
近くに寄ると、確かに右に小路が見えている。
街道を右に折れた俺たちはタグ村に続く道へと入った。
ここまで来れば村までは馬車で1日の距離らしい。
ただ、この空模様では村にたどり着く前に一雨くるだろう。
今日の野営は果たしてどうなることやら。
雨が降り続けば道がぬかるんでしまい身動きが取れなくなるのだ。
まったくもってこの世界も難儀なものだよな。
そこで俺はシロを斥候として出すことにした。
「シロ、どうも雨が降りそうなんだ。今夜みんなで泊まれるような場所を探してくれるか。馬車が通れる所じゃないとダメだぞ」
そのように言ってシロを送りだした。
タグ村へ続く道に入ってから2回目の休憩に入る。
シロはまだ戻ってこない。
ちょっと条件が厳しかったかな。
無いなら無いで何とかしないと……。
そして休憩を終えた一行は空を睨みながら馬車を進めていく。
(空が曇っている分、暗くなるのも早そうだな)
そんなことを思いながら進んでいると、トコトコと正面からシロが帰ってきた。
「シロご苦労さん。それでどうだった? 良さそうな場所はあったか?」
片膝をつき頭を撫でながら聞いてみる。
『ある、どうくつ、ひだり、みんな、ねる、いける』
「それはここから遠いのか?」
『ちかく、いく、すぐ、あそぶ、いっしょ、ある』
何かいい場所を見つけたようだ。
このことをマクベさんへ伝え、シロにはその場所までの案内を頼んだ。
それから道なりに10分程進み、シロは道を外れ左の草原に入っていく。
どうやらこの草原を経て、目の前に見えている林に入るのだろうか?
シロが言うのだから大丈夫だとは思うが少し不安になってきた。
しかし、林に入るとすぐに開けた場所があり、奥の斜面には洞窟が見えている。
おおっ、本当にあった! ――シロ凄い。
ちょっとだけ疑ってスマソ。
洞窟の前に広場があるため馬の乗り入れも楽々だ。
どこか秘密基地のようでもあるなぁ。
それだけ整備されているということだ。
さっそく俺たちは野営の準備に取り掛かった。
馬を洞窟の入口までいれ機材を下ろしていく。
洞窟は結構な大きさで高さも十分あるため馬も中に引き入れることができたのだ。
そして俺は今日も籠を背負い薪を集めてまわった。
………………
そうこうしている内に雨がパラパラと降りだした。
ぎりぎり間にあって本当に良かった。
最悪、トラベル! を使って適当な場所へ転移することも考えていたところだ。
それにしても……。
この洞窟ってどれくらい奥に続いているのだろう。
あとで探検してみるのも楽しいかもしれないな。
しかし、この洞窟の中といい、表の広場といい綺麗過ぎないか?
大体、こんな林の中で草が一本も生えないなんておかしいだろ。
最初は人か何かが住んでいるのかと思いもしたが、そんな気配も生活感もないのだ。
う~ん、これは……。
ま~たヤな予感がするんですけど……。
かといって、ダンジョンで感じたあの感じとはまた違うんだよなぁ。
(サラ、聞こえるか?)
……ここは範囲外のようだ。
ダンジョンでないなら何だというのだろうか?
う――――――――ん?
おっといけない! 野営の準備が先だよな。
水をだす。 肉をだす。 薪はある。
よし! こんなもんだろ。
カイアさんには『勝手に使ってください』と言っておこう。
――俺はすることがなくなった。
これはあれか? 探検しろってことじゃないか。
一応、マクベさんには断って洞窟の奥を見てくることにした。
今回のあるある探検隊メンバーは、
隊長の俺・聖獣のシロ・犬人族のメアリー・人族のミリーは……お昼寝中だな。
ということで都合3名、松明を片手にいざ突入!
俺の隣りにはメアリーを乗せたシロが並んでいる。
さて、何が出てくるのかな?
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