まず洞窟の奥行だが、思ったほど長くもなく大体30mといったところだろうか。
それからこの洞窟を掘った (作った) 者が、日本からの召喚者、もしくは転生者であることが判明した。
何故わかったのか?
それは洞窟の最奥に飾られていたある物を目にしたからだ。一対で。
(しかし、よく再現してあるなぁ)
その物とは、ズバリ『門松』だったのだ。
まぁ、なんともめでたいことか……。
とりあえず拝んどこ!
「…………」
やっぱり、ちょっと疲れた。
せめて鳥居か祠ぐらいにしとけよなぁ。
そうか……、望郷の念というやつなのかもしれない。
そう考えると、やるせない気持ちにもなる。
しかし門松といえば、普通 家の玄関や店の入口に飾ってあるよな?
「メアリー、光魔法で明るくしてくれ」
「はーい!」
お願いするとメアリーは天井の近くに光球を上げ、周りを明るくしてくれた。
やはり門松の奥には何もない。ただの壁…………。
「…………」
そこに文字が彫りこまれていた。
あ~~~、日本語ですやん。
【上を見ろ!】
??? 天井を見る。するとデカい文字で、
【下を見ろ!】
今度は下か? 足元を見ると何か文字が彫ってある。
その文字をなぞっていくと、
【ひだりをみろ!】
ハハ~ン! だいたい分かってきたが最後までつきあう事にする。
で……、しゃがんだ状態で左を見た。
すると、そこには小さく、
【すぐ下を見ろ!】
そう書かれており目線を落とすと一ヶ所だけ2㎝程の丸い岩が飛び出ていた。
しかしその岩スイッチの下には、
【押すな 危険!】
の文字が……。
「…………?」
これはフリか? フリなのか? いや待てよ……、
しばらく考えたのち、俺はその岩を引っぱってみた。
すると ――カチン! と音がして岩スイッチの左側に縦長の隙間が生まれた。
おおおおおっ!?
――ビンゴだったようだ。
ちょうど引き戸のように横にスライドさせて開けるタイプのようだ。
その隙間に指を掛け開けようとしていると、
「みんな――――――! ご飯ですよ――――――! 戻ってきてぇ~」
「「は――――い!」」
カイアさんの呼びかけに返事をかえし、取りあえずみんなの所へ戻ることにした。
そして、みんな揃って美味しい夕食を頂く。
「洞窟の奥には何かあったのかい」
「あ、はい。まだハッキリしませんが不思議な遺跡のようですね」
「へー、そうなのかい。何かお宝でも出てくるのかねぇ」
「許可が頂けるなら、もう少し調べてみたいのですが……」
「今日はどうせここに泊まるのだから納得がいくまで調べてみるといいよ」
「そうですか。では1刻だけ時間を頂きますね」
「そうだね。そのくらいなら明日に影響することもないだろうから」
そして夕食を済ませた俺とシロは、再び洞窟の奥へ向かった。
メアリーは気持ちよさそうに舟をこいでいたのでカイアさんに預けてきた。
最奥までいくと壁の隙間はピタリと閉じていた。
(へぇ、自動で戻るんだ)
壁の文字が変わってないことを確認して再び岩スイッチを引いてみる。
――カチン!
さっきと同じように音がして、縦に細長い隙間ができる。
そこに指をかけ左にスライドさせると、岩壁がススーと引き戸のように開いた。
「おじゃましますよ~」
そう呟きながら中へ足を踏み入れると、パッと周りが明るくなった。
(人感センサーライトか? 魔法でもこんな事もできるんだな……)
そこは一つの部屋になっていた。
俺は松明をインベントリーに戻し、部屋の中を見渡してみた。
10畳程の部屋には塵や蜘蛛の巣といったものもなくキレイに片付いている。
中にある物といえば、割とがっしりとした机と椅子、その横に本棚があるくらいか。
本の数はそれ程多くなく、並んでいるのは30冊程だ。
そして右側と奥には扉が見えている。
「…………」
何て言うんだろう。
ここの洞窟に入ったときにも感じたが……。
――やはり生活感がない。
この部屋の主はもういないような気がするんだよな。
さて、部屋の中を見ていきますか。
取りあえず右側の扉から開けてみる。
ここは寝室だな。
ベッドとクローゼットがあるが、特に大した物はないようだ。
次は奥の扉を開けてみる。
ドアノブに手をかけるが……開かない。
押しても引いてもダメ。鍵穴も見当たらない。
「…………?」
仕方がないので戻って机をの中を見てみることにした。
机には引き出しが2つ並んでおり下の方から開けてみる。
すると中には綺麗な化粧箱が入れられていた。
その箱を机の上に取り出してみる。
つるんとした光沢のある木目はマホガニーを彷彿とさせる。
(立派な化粧箱だな。さて中身はどうだろう)
化粧箱の中身は、眩いばかりに輝く金の拵えに入った短剣。
そして、この国のものではない分厚い金貨が12枚入っていた。
化粧箱は机の上に置いたまま、今度は上の引き出しを開けてみた。
するとそこには、綺麗に折りたたまれた羊皮紙が入れられていた。
それを机の上に取り出し丁寧に広げてみる。
どうやらこれは日本語で綴られた手紙のようだ。
俺はその羊皮紙を開くと静かに読みはじめた。
よう日本人。よくここを見つけたな。おまえには幸運の女神がついてるのかもしれないな。どうだ、異世界では楽しくやってるか? 俺は最初大変だったぞ。なんせクソのような国に勇者だか何だかしらないが勝手に召喚されてしまった。「お主を召喚するのに国民と魔導士合わせて500人も犠牲にしたから、そのぶん働け!」だとかぬかしやがるし訳がわからなかった。隷属される前にさっさとトンズラかまして逃げてやったぜ。俺は城下を抜けて違う町で冒険者になり静かに暮らしていたんだ。だが、あるとき風の噂を耳にしてしまった。『帝都にて旨い話にのせられた人が集められている』とな。それを耳にした時はさすがにブチきれたな。俺のことなら『もういいや』って諦めてたのにな。あの帝王だか皇帝だか知らないが頭がイカレてやがる。周りにいるヤツも止めることが出来ないのなら同罪だ。てなわけで帝城ごと吹っ飛ばしてやったわ! それからはどこかの国に攻められて国自体が変わっちまったようなんだが。そんなことは知らん。
話しは変わるんだがこの国はまだ『クルーガー王国』のままか? 違う国になっちまってるならどうでもいい。ただクルーガー王国のままなら、困った事があったらちょびっと力になってもらえると助かる。初代王のクレマンにはめちゃくちゃ世話になったんだ。追っ手が掛かっている俺を匿ってくれたし、家をくれたり、金や女まで用意してくれた。それにアイツ……俺の娘を王子の嫁にくれとか言い出しやがって。まぁ娘 (エミリア) もまんざらでもない様子だったんでくれてやったんだが。そしたら、そいつが2代目になりやがったんだよ。だからよ王族は俺の子孫でもあるんだ。何かの時にはよろしく頼むな! なーに只でという訳じゃねえよ。あのバルタ大帝国の宝物庫から頂いてきたお宝ぜ~んぶやる。俺は身内には甘いんだよ。しかしだな、王族自体がクソ野郎に成り下がっているときはキツ――――イやつを一発頼むぜ。遠慮はいらん。
まぁ、長々と読んでくれてありがとな。おめえさんと会うことはねえが応援している。あぁ母ちゃんのカレーが食いてぇな~。じゃあな頑張れよ! 工藤しんのすけ 164歳
P.S お宝は奥の部屋だぞ。マジックバッグに入れて置いてある。その他の武器や防具も良かったら使ってくれ。下の引き出しに宝剣が入ってる。それを手に持ち ”バルス” だ! 因みに表の岩のスイッチを押すと上から金盥が落ちてくるからな。押すなよ! ハハハハハッ!
俺はその手紙……、遺書? を丁寧に畳むとインベントリーに保管した。
ふぅ――っ、ため息をひとつ吐きだす。
金盥か……。――押さないからね。
エミリアにバルスか……。
同じぐらいの時代からだったのかもな。
まぁ、時空間の繋がりがどうなっているのかは俺にはわからない。
非合法の召喚だったようだし。
ただ、工藤さんもそれなりに苦労をしてきたみたいだね。
くれると言うなら有難く頂いておきますよ。
王様? 王子様? 困ってるなら助けるぐらいはできると思うけど。
それにダンジョン・デレクの件もあるしな。
俺は奥の部屋の前にいき宝剣をかざし、
「バルス!」
と声に出してとなえた。
すると ――カチン! と音がして扉が20㎝程奥へ開いた。
その扉を押して中に入ると、照明が点き部屋が明るくなった。
俺はぐるりと部屋を見まわしてみる。広さは8畳程だろうか。
ここは倉庫のようだな。
壁には吊戸棚が2ヶ所あり、その下には様々な種類の剣・槍・槌・斧などが壁に立て掛けられている。
そして大振りの黒いトートバッグが目にはいる。
「…………」
表に思いっきり『宝』と日本語で書いてある。
しかも金文字でだ。
はぁ――っ、ため息をひとつ。
(中身の確認はあとでいいかな)
俺は黒いトートバッグをインベントリーへ収納した。