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「ルカスさん、その椅子は壁に寄せてください」
「全部を?」
「ですです! ナビナを起こさないように静かにお願いしますね」
「……」
どうして俺も一緒になってギルド作りをしてるんだろう……。
しかも、
「え、ギルドを作ってまだひと月ですか!?」
「そうなんですよ~。ギルドが作られていない町を探してロッホにたどり着いたのは良かったんですけど、人が少なくてどうにもならなくてですね」
今まで各地を旅して来たってことか?
「他に知り合いは?」
「それがですね、ここに来る前にパーティーの人たちに見捨てられちゃいまして~」
まさかパーティーを追放された?
そうなると偶然にしても似た境遇同士になる。
「え……?」
「私、実は故郷では『園芸師』でした。戦うよりも収穫して食材を集めたり、木材や植物で薬を……それから魔道具や装備品を作ったりとか、目立たずに動くのが好きでして」
宮廷庭師なら帝国にもいた。園芸師は聞いたことが無いけど特別職だろうか?
装備品を作れるならパーティーでは重宝されそうなのに。
「それって、後方支援職じゃないですか! それなのに追い出されたってことですか?」
宮廷魔術師にも支援を専門とした者たちがいた。彼らの多くは苦とせずに動いていたが、それはあくまで任務だったからというのもあるのかもしれない。
「色々と作るのに時間がかかる私がいると効率が悪いと感じていたみたいで、装備を作った後にお別れすることになっちゃったんですよ」
「仲間の人はその時なんて言ってたんですか?」
「いやぁ、特には。引き留められもしなかったので、見捨てられちゃったんだなぁと」
なるほど。それで辺境の町に来たわけか。
「元のパーティーには戻れないから、冒険者ギルドを自分で作ろうと?」
ウルシュラがどんなであれ、冒険者としての経験は俺より上だ。
「そうなんですよ」
「それは大変でしたね」
「大変でしたけど、でも……ルカスさん!」
「はい?」
ウルシュラは俺に詰め寄りじっと見つめて、
「一緒に冒険者やりませんか?」
――と、真剣な眼差しで言われてしまった。
この町を目指していた第一の理由――それは仲間を求めていたことにある。退職金代わりの宝石は呪われていたし、売れたとしてもやっていけない。それに地方を旅するとなると、一人だけでは後々になって苦労する。
だが、冒険者として動くなら仲間と一緒に動く方がいいと思っていたが、まさかこんな形でとは想像していなかった。冒険者として始めるにはこの方が自分らしいかもしれない。
「俺からもよろしくお願いします!」
「おぉ~! ルカスさんのような宮廷の魔術師さんとお知り合いになれて、とっても嬉しいです!」
「……あ、それは――」
ここで正直に言うべきだろうか。
しかし……。
「それじゃあもう遅いので、お休みしますね!」
ギルド作りを夜通しやるかと思っていたが、さすがに寝るらしい。エルフの子、ナビナはすでに寝静まっているし俺も横になって眠ることにする。
宮廷魔術師だったことは後で話そう。
「ルカス、ルカス……」
眠ってからしばらくすると、ナビナの声が聞こえた。もしかしていつの間にか朝になっていたのか。
「んん? ナビナ? どうしたの?」
しゃがんだナビナが俺の顔を覗き込んでいた。
そのまま耳元に近づき、
「お水欲しい」
素直なお願いだった。いま起きているのはナビナだけで、ウルシュラはスヤスヤと眠っている。
「分かった、すぐに起きるよ」
宮廷装備を全て取られた俺が着ているのは、防御力の無い薄いシャツ。しかしそのおかげでどこでも寝られるし、すぐに動くことが出来る。
俺はすぐに扉を開け外に出た。
まだ薄暗さが残る早朝だ。念の為周辺の様子を見るが、人の気配は無い。俺を追うようにナビナも外に出て来るも、何故かカップを手にしている。
「ルカス、お水出して」
「近くに井戸か湧き水でもあるのかな?」
農地が多いロッホだ。
湧き水くらいはありそうだが、まだ朝もやがかかっていて周りが見づらい。
「……違う。ルカスが出せる。出して」
「へ? 俺? 出すっていうのはもしかして魔術でって意味かな?」
「大丈夫。ナビナ、そばにいる。だから思いきり出していい。ウルシュラも喜ぶ」
こんな風に言われたことが無いだけにすぐに水を出すのは難しい。まさか単純に水を出せと言われるとは。とりあえず一度目を閉じ、水を出すのを思い浮かべる。
目を閉じた瞬間、勢いよく水を流すかのようなイメージが見えた。
俺はとっさにナビナが手にしたカップを見つめ、無意識に水をカップに流し込んでいた。水の元素となるものはどこにも無いのに空から降って来たのだろうか?
「魔力を使って無いのに一体どこから……?」
これも冴眼の力だろうか?
「ルカス、ありがと。ウルシュラを起こす」
ナビナが嬉しそうに教会の中へ入って行く。
俺も中へ戻ると、
「わぷぷぷっ!? どうして顔が水浸しになってるの~」
「今日、出発。起きないと、探せない」
起きなかったウルシュラに、ナビナが水をかけていた。ナビナが飲むわけじゃなかったらしい。
「出発~? そ、そうだった……あっ、ルカスさん、おはようございますです」
冒険者ギルド作りは放置してこのまま旅に出るつもりだろうか?
「どうも」
それにナビナが口にした《探す》という意味も不明だ。
「このお水、もしかしてルカスさん?」
「すみません、まさか顔にかけるなんて思わなくて……」
「いえいえ、おかげで目が覚めました! やっぱり魔術師さんは凄いですね!」
魔術師。おそらくウルシュラは、俺のことを宮廷魔術師のままだと思っている。だがウルシュラの理由のように、俺もいつかきちんと話さなければならないだろう。
「ところで、今日はこれからどこに行くんですか?」
辺境の町といっても帝国からすぐに来れる場所だ。そう考えると、顔見知りの宮廷魔術師が来ないとも限らないわけだが、どうしたものだろうか。
「あれ? もしかしてナビナに聞きましたか?」
「いえ、何も」
ウルシュラがやけに嬉しそうにしている。何か記念すべき日だったりするのだろうか。
「ルカスさん。今日は何と言っても冒険者としての初日じゃないですか!」
「……ということは?」
「もちろん冒険に出て行くってことです! ナビナも一緒です!」
寝る前にそんなことを言っていたが、昨日の今日でもう出発するのか。
「いや、しかし……ここはどうするんですか?」
「それなんですけど、ルカスさん。私が個人で作ったギルドでもあるのでここを私たちの本拠地にしまして、チームとしてやっていきたいんです! どうですか~?」
ウルシュラが個人で作ったギルドだと役所のような組織とはならない。そういう意味でも、ここで冒険者を集めて運営するのは難しくなるわけだが。
「チームとして動くとなると他の冒険者のグループとの関係は……クラン?」
「そうですそうです! 同じ目的の人なら協力者を得られるじゃないですか~!! もちろん、私たちのチームもあと何人か仲間を入れたいです」
「ナビナも一緒ですか?」
ナビナを気にすると、ナビナは頷きながら俺に笑顔を見せた。
「もちろんです。今はまだ誰がリーダーじゃなくてもいいので、どうですか?」
俺の意思を尊重するのは決定なのか。
「それじゃあ、ウルシュラ。今日から同じ冒険者としてよろしく頼む!」
「楽しみですね、ルカスさん~!」
「ナビナも楽しみ」
どうなることかと思ったが、まずは出発することから始めよう。