鋼の騎士と星霜の瞳

👀監視者の視線

その日の夕方、イリスとエルヴィンは、調査兵団の管轄下にある街の、信頼できる老舗の茶葉店を訪れていた。

イリスは、リヴァイのメモに記された「特定の産地」「特定の乾燥方法」の茶葉を、エルヴィンの知恵を借りながら真剣に選んでいた。エルヴィンは、いつものように穏やかな微笑みをたたえ、イリスに茶葉の純粋さを見分ける方法を教えている。

エルヴィン：「リヴァイが本当に求めるのは、**『純粋さ』だ。それは、彼の世界に穢れがないことを保証する。彼は、この茶葉の一粒一粒に、彼の『失われた過去』**の安息を見出そうとしているのだろう」

イリス：「失われた過去…」

エルヴィン：「そうだ。そして、君がその**『安息』**を作り出すのだ。頑張りたまえ」

その光景を、街角の建物の屋根の上から、リヴァイは冷徹な目で見下ろしていた。

彼は、その日、団長の書類に不備がないか最終チェックをするため、近くの駐屯兵団のオフィスにいた。

イリスが執務室に入り込んだ件以来、リヴァイは、イリスの一挙一動に、以前にも増して注意を払っていた。彼女が、自分の課した**「次の任務」**のために、真摯に努力していることは理解している。

しかし、彼の目に映ったのは、自分の世界を完璧にするはずのイリスが、よりにもよって、エルヴィンと並んで、親しげに笑みを交わしている姿だった。

（なぜ、エルヴィンと…！）

リヴァイは、思わず舌打ちをした。

あの男は、いつだってそうだ。リヴァイの**『領域』**に、平然と踏み込んでくる。

（あの、不器用で、まっすぐなOCに、無駄な**『情報』や『感情』**を吹き込みやがって…！）

リヴァイの視線は、イリスが手にしている、小さな純白の茶葉の袋に釘付けになった。そして、エルヴィンが、彼女の肩に手を置き、何かを真剣に語りかけている姿を見たとき、彼の胸の奥に、冷たい怒りとは違う、ねばつくような不快感が湧き上がった。

リヴァイ：「…チッ。まるで、『最高の紅茶』の淹れ方を、他の男から手取り足取り教わっているみたいじゃねえか」

それは、リヴァイ自身も気づかない、**「自分のプライド」と「独占欲」からくる、極めて人間的な「嫉妬」**の感情だった。

彼は、その場で一気に全身を捻り、屋根を蹴って、二人の姿が見えない建物の陰へと飛び降りた。

（待て。俺は、何をしている）

壁の陰に隠れ、息をひそめている自分自身に、リヴァイは驚愕した。まるで、自分のテリトリーに侵入した野良猫を追い払おうとしているような、感情的な行動だ。

リヴァイ：「俺は、ただ…あのイリスが、**不純物（エルヴィン）**の混ざった紅茶を淹れるのを見て、気分が悪くなっただけだ」

彼は、言い聞かせるように呟いた。そして、次の瞬間、彼はイリスの**「次の行動」**を予測した。

（茶葉を手に入れたなら、次は**『水』だ。あのメモにある『最適な硬度の水源』**は、ここから南西の森の中にしかない…）

リヴァイの目に、冷たい決意が宿った。

リヴァイ：「…ハンジの『環境衛生任務』の手伝いだ。**『夜間の単独行動は危険だ』と、『冷酷に』**注意してやる必要がある」

彼は、自分の感情を**「任務の遂行」**という、最も衛生的な形に変換し、イリスのいるであろう場所へと、静かに、そして素早く向かった。