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それから暫くして、俺の番が来た。
「それでは、準備はよろしいですか?」
「はい」
フィールドの端から結界が閉まり、カウントが始まる。
『……三、二、一、戦闘開始』
現れた犬ゴーレム。俺はそれが飛び掛かってくると同時に剣でコアを破壊した。別にコアなんて狙う必要も無いが、冷静に最適な対処が出来るというアピールだ。万が一でも試験に落ちたら面倒臭い。
「次はゴーレム人型となりますが、準備はよろしいですか?」
「はい」
また、十秒のカウントが始まり、直ぐに人型のゴーレムが現れた。それと同時に俺は魔術を発動する。炎の槍が真っ直ぐに飛び、ゴーレムの胸に埋まったコアを破壊した。こっちから動かない限り仕掛けてこないなら、何かされる前に魔術で終わらせればいい。それと、魔術も使えますよっていうアピールだ。
「なッ!?」
「お、おい、詠唱も無しでだとッ!?」
「補助杖も何も持ってないのに、どうやって……」
この反応、良くないな。しかし、詠唱も無しでってどういうことだ? このレベルの自分の魔術なら詠唱なんて要る訳が無いだろ。まさかとは思うが、教本の魔術しか使えない訳じゃないよな?
「受験番号四十八番、補助具などは持ち込んでいますか? 勿論、持ち込んでいても問題はありません」
「……この服が補助具と言えば補助具だな」
俺が着ている黒い服は魔術の阻害を阻害する効果がある。この服も補助具と言えば補助具かも知れない。
「……了解致しました。それでは、次は試験官との模擬戦闘になります」
曖昧な俺の言い方に引っかかるところがあったようだが、それでも女は進行を優先した。流石だ。
「それでは、準備はよろしいですか?」
試験官の男から木剣を受け取ったところで女が問いかける。俺は黙って頷いた。
『カウントを始めます。戦闘開始まで……』
始まるカウント。俺は目の前の男を観察した。顔に幾つもの傷が入っている。三十そこらの男だが、かなり筋肉がある。剣もかなり持ち慣れているように見えるが、恐らく普段使っているものとはサイズが違うのだろう。構えに僅かな違和感がある。とはいえ、それでも一般人と比べれば雲泥の差がある強者だろう。この試験で俺は剣の技術面を見せるつもりだったが、その目標は問題なく達成出来そうだ。
『……二、一、戦闘開始』
始まると同時に、俺は構えたまま少しずつ試験官に距離を詰める。相手も同じように距離を詰めている。そして、お互いの間合いに入った。瞬間、お互いの剣が触れ合う。
「ほぉ、魔術は使わないのかと思ったが、剣も使い手だな」
「ありがとうございます」
話しかけてくるとは思わなかったが、礼儀面での採点があったら面倒なので一応答えておいた。
「敬語は要らん。それと、安心していいぞ。お前はどうせ合格だ」
「そうなのか?」
試験官の男は頷いた。振り下ろされる剣を剣で弾く。
「それと、お前の剣技……俺より上だな。それも、格段に」
「……剣には、自信がある」
俺は、ただそれだけ答えておいた。剣の技術は他の採点者にも伝わっただろう。そろそろ終わらせたいが、話しかけられていてはやりづらい。
「もう分かったぞ。本当は俺に勝つのも簡単なんだろ? 折角だから見せてくれ。それだけの剣技だ。あるんだろ? 奥義とか」
「人を殺さない奥義は無いな」
俺はハッと息を吐き、後ろに一歩退いた。
「だが、それっぽいものなら見せてやれる」
明け透けに物を語る目の前の男が俺は嫌いじゃなかった。それに、さっきの少年も居たし少しくらいなら良いかと判断した。
「はッ、良いな。強者の技を見るのはいつだって興奮する。俺も、本気で行かせてもらうぞ。良いな?」
「あぁ」
男の体に魔力が巡る。身体強化だ。続けて気が巡る。これも身体強化だ。珍しい。気と魔力を競合させず同時に身体強化出来るのは中々の技術だ。向こうでは余り居なかったな。
「『魔気流斬』」
「殺す気か?」
魔力と気を帯びた斬撃。俺は眉を顰めながらそれに剣を添わせるようにした。
「奥義……名前は、良いか」
そっと触れた剣は試験官の剣に添ったままするりと進み、手首を、腕を、首を、足を、あらゆる節を打った。たったの一瞬で。
「ぐ、ぉ……ッ」
膝を突き、倒れる試験官。人体のあらゆる節を打たれた彼は体を動かすことすら出来ないだろう。だが、飽くまでこの状態は麻痺のようなものだ。体全体が痺れているだけで、傷一つ無い。
「一応言っておくが、後遺症はない。だから俺に賠償責任は無い。それと、今の俺に金は無いから請求しても無駄だ」
「……はい」
進行役の女は微妙そうな顔をして頷いた。俺には本当に金がない。あらぬ疑いをかけられても困るからな。
「それでは、基本適性試験の方にどうぞ」
俺は案内されるまま、次の試験に向かった。