コメント
9件
尊すぎて心臓がやられる 続きが楽しみです✨
prくんが咄嗟にに助けるのかっこよ… でも、関西弁まじりな喋り方は可愛い😍 ちょっとずつ進展?していってるの最高

越えられない一線が少しずつ滲んでいくのが楽しみですー
『触れられない距離』
広い屋敷の玄関ホールは、朝でも静かで澄んでいた。
シャンデリアの光が床に反射し、
まるで鏡の上を歩いているみたいに白く輝いている。
「ちぐ様、足元お気をつけて」
「……うん、大丈夫」
ぷりっつはいつものように、
ちぐさの鞄を持って歩幅を合わせて後ろをついてくる。
けれど――その瞬間だった。
廊下の角から、
大きな植木鉢がガタッ……と倒れかけた。
ちぐさのほうへ、ゆっくり…でも確実に倒れてくる。
「ちぐ様!!」
言葉より早く、
ぷりっつの腕がちぐさの身体を強く抱き寄せた。
背中に回る力。
胸の奥まで伝わる鼓動。
「っ……ぷりちゃん……?」
植木鉢が床に派手に割れる音。
粉々に散った破片。
安全を確認したあとも、
ぷりっつはしばらく離れなかった。
「……っ、すんません。危ないところでございました」
顔はいつも通り冷静なふりをしているのに、
その声がわずかに震えている。
危ない、じゃなくて
“ちぐさが傷つくかもしれなかった”
その事実に反応していた。
(ぷりちゃん、こんなに焦ってくれたんだ……)
胸が熱くなるのを感じて、
ちぐさはそっと見上げた。
「……ありがとう、ぷりちゃん。守ってくれて」
「俺の務めです」
すぐにいつもの執事の口調に戻る。
だけど――
抱き寄せた腕が、
ちょっとだけ、離れるのが遅かった。
車に乗り込んだあとも、
屋敷でのことが頭から離れなくて、
ちぐさは外の景色をぼんやり眺めていた。
(……あのとき、距離、めっちゃ近かった……)
胸がどきどきして、落ち着かない。
そんな様子を横目で見ながら、
運転席のぷりっつもまた、心の中では大騒ぎだった。
(あかん……ほんまに危なかった……ちぐ様に何かあったら……)
けれど、口に出す言葉はやっぱり執事のそれ。
「ちぐ様、手怪我してませんか?」
「ううん、平気だよ。ぷりちゃんのおかげ」
「……せやったら、よかったです。」
短く答えるぷりっつの指先が、
微かに震えていたことに
ちぐさは気づかない。
気づいたら、たぶん泣いてた。
学校に到着すると、
校門のところで誰かが待っていた。
「あ、ちぐ!」
同級生の――あっと。
爽やかな笑顔。
だけど、ちょっと落ち着きない視線。
「今日さ、一緒に――」
あっとが言いかけたとき、
背後からぷりっつの声が低く落ちた。
「ちぐ様、足元お気をつけて。段差、あります」
それは気遣いに聞こえるけれど、
実際は“あっとを遮った”タイミング。
ちぐさも気づく。
あっとも気づく。
そしてぷりっつ自身も――
言ってから気づいて、ちょっと後悔する。
(……俺、なにしとんねん)
でも止められなかった。
あっとは苦笑して、
それでも優しく言った。
「……またあとで話そ?ちぐ」
「うん!」
ぷりっつの視線が少しだけ険しくなる。
気づかれないように隠して。
放課後。
少し疲れたちぐさを迎えに来たのは、
いつも通りぷりっつだった。
「ちぐ様、お疲れさまです」
「ぷりちゃん……」
昼間の出来事がずっと頭に残っていて、
ちぐさは思わず口にする。
「あのね……今日の朝のこと……ほんとにありがとう、俺、ちょっと……怖かったから……」
言い終わる前に、
ぷりっつはそっとちぐさの頭を撫でた。
いつもなら絶対しない、
線を越えた触れ方。
そして気づいた瞬間、
ぷりっつは慌てて手を引っ込めた。
「す、すんません……!」
「……ううん、いやじゃないよ」
その言葉に、
ぷりっつは息を飲んだ。
触れたらあかん。
越えたらあかん。
それでも――
ちぐさが少しだけ笑ってくれたから、
その線が、今日ほんのり揺らいだ。
ゆっくり、ゆっくり。
主従の距離が消えていく音がした。
♡>>>>1000